生活, しいたけの天ぷらの ③
【アホアホなお話 3回目】
「ちょっと!スナップえんどうもいいけど、
天ぷらも熱いうちに食べてよ」
たえさんが、少々ピリッとした声で
子供たち+泰之に訴えかける。
彼女は(まあ、料理が好きだったり
得意だったりする人は誰でもそうかも
しれないが)熱いものは熱いうちに、
冷たいものはその温度で食べるのが
サイコーと信じているので、
揚げたての俺たちが皿の上で、
無残な油を吸ったベシャッとした衣に
成り果てていくのが許せないのだ。
「あ、うん、そうだね。天ぷら天ぷら〜」
泰之はすでにちょっとほっぺたが
ほんのり赤くなった顔で、ヘラヘラしながら
俺の横の仲間をつまみ上げた。
「おー、サクサクしてるー、
このしいたけ、ずいぶん肉厚だね」と
知ったようなことを言って、
ソースに浸しているのを
たえさんにさりげなく無視されている。
ゆうかは、ちらっと皿の上に一瞥をくれると
「ふんっ」と小さく一つ鼻を鳴らして、
つまらなそうに豚しゃぶをごそっと
自分の皿に取り分けた。
ゆでてある豚ならカロリーがないとでも
思っているのだろうか。
弓人は……ああ、だめだ、目の前の
山盛りのご飯に完全にロックオンだ。
まだおかずがあるというのに、
台所の棚の中からたえさんが隠していた
のりたまを勝手に持ってきてはふりかけて、
もぐもぐ食べている。
こいつには、おかずはおかずで食べるもの、
ご飯は味が付いていないとつまらない、と
いう妙な信念がある。
普段はのほほーんとしているくせに、
こういうところは頑として譲らないのは、
姉ちゃんのゆうかとやっぱり姉弟だよなと思う。
たえさんは、そんな子供たちを見て
しばらく言葉を発しなかった。
「あ、そうだー、天ぷらって言えば〜」と
また台所に戻っていく。
いや、たえさん、もういいです。
今日もまた俺は食べられず、
明日のたえさんの
お弁当に入れられるのでしょう?
と呟いてぼんやりと天井のライトを眺める。
干し椎茸だったら、
もうちょっと面白いことが
いろいろ起こったのだろうか……
なんて自分らしくない事を考えてちょっと
センチメンタルな俺。
すると、右肩の辺りが
ちょっとあったかくなった。
「なんだ?」身じろぎせずに、
最大限、目を横にじとーーーっと動かして
肩のところを見る。
ほわっとしただいだい色が確認できる。
「今日ね、カルトナージュの会で佐々木さんが、
田舎からたくさん送ってきたからって、
立派なかぼちゃをくれたのよぅ」
カルトナージュ??
怪しい密教の会かなんかか。
「だから、今日はかぼちゃもあげてみたの。
ゆうか、かぼちゃ好きでしょ」
だいだい色の正体はそれか。
たえさんはいつも俺を揚げる時は、
のっぽでちょっとぼんやりしてるアスパラとか
全世界が自分にひれ伏してると思ってる
すかしたエビなんかと一緒にする。
だから、いつだって俺は
むっと黙りこくったまま、
あいつらがさっさともらわれてくのを
見送っていたんだ。
しかし、かぼちゃ……。
これは初めてのパターンだ。
どうしたものか……。
すると、肩のところのだいだい色
が、少し揺らいだ。
「む」
その時、奇跡は起こったんだ。
「ねぇ。友だちになりたいんだけど」