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生活, しいたけの天ぷらの ④

【アホアホなお話4回目】

俺の肩(しいたけにも肩はある)に
ほんの少し触れた
かぼちゃの天ぷらのあったかさに
思考がやや飛びそうになる。
しかも温かい空気に乗って
ほんわりと甘い香りもやってきた。

「友達になりたいんだけど」

このだいだい色のかぼちゃってやつは
確かにそう言った。
「ぬ」
俺は予想外のことすぎて、
何かよからぬ思惑があるんじゃなかろうか、
こいつと身構えた。

「ねぇ、聞こえてるんでしょ」

またしてもかぼちゃの声が聞こえる。
やはり俺に向かって
話しかけているのは間違いないようだ。
さて。

「おぉー、かぼちゃかぁ〜。
僕、甘い芋を料理に使うっていう
のがどうしても苦手なんだよねぇ」
泰之が音程の定まらなく
なってきたほわほわ声でつぶやく。
お前は食べなくてよろしい。

弓人は・・・ははは。
引き続き目の前の山盛りご飯に
ロックオンだ。
のりたまに飽きてきて、
もう間もなく卵かけごはんにすべく
生卵とめんつゆ、揚げ玉を
冷蔵庫に取りに行くだろう。

生の白身はどぅるどぅるしててきらい、
と常々言っているから
卵黄だけを上手にすくい出して、
たえさんにいつも通り
怒られるに違いない。

「かぼちゃ好きでしょ」と言われた
姉のゆうかは、ちらっとこちらの皿を見た。
「えー、でも天ぷらには違いないじゃん。
油の衣でしょ〜」とかブーブー言いながらも、
一切れ手にとった。

天ぷらなんて油の塊なんだからと言いつつ
衣をガリガリはがすことなくぱくっと食べた。
おい。衣はどうした。

「んー、やっぱりちょっと油っぽーい」
と言いつつもう一枚。

ここでたえさんが「おいしいでしょ」
とでも声をかけようものなら
「私としたことが」みたいに我に返って
手を出さなくなるから、
たえさんは何も言わない。
ちょっとだけ薄く笑顔を浮かべて黙っている。
なんなら見ない振りすらしている。
ゆうか育てのプロだ。

「えーと、何で俺と友達に」
声をかけられたのに返事をしない
のも失礼かと思ってそうした、
それだけのことだ。
「だって、カサのところの曲線が
なめらかですてきだから」
カサのところの曲線?

「私はさ、確かに甘くて
それが人気があるところでもあるんだけど
見た目は、すんごいごっついでしょ。
切るのにものすごく力が必要で、
それが面倒くさいとか言われたりもするし。
しかもさっきのご主人みたいに、
『どうやっても甘い』
『野菜なのに何かはっきりしない』
とか言われるし。
あー、あとねぇ、外の皮がたまに
まだら模様みたいになることもあって、
怖がられることもあるかなぁ〜」

「ふむ、そうか。
でもこの家の娘みたいに、
甘いから好きという
人間も結構いるんじゃないのか」

「うん、そうだね〜。
でも甘いものが好きなのは女の子=
女の子とか女性が好きな食べ物、
みたいに思い込まれるのが
少しイヤなんだよね。
その点、しいたけって茶色一色だし
なんていうか、媚びてない感じで
潔くていいじゃない」

そんなことを言われたのは初めてだ。

石づきの部分は
「なんでここだけ固いの。うける」と
嘲笑され、
「あんまりたくさん入ってないのに高いよな」
とつぶやかれて、
右隣にいる似たような色合いの、
でも名前のかっこよさを鼻にかけてる
だいたい兄弟で一緒のエリンギや、
群れてないと不安でビクビクしてるから
いつも白い顔のえのきばかりが
「やっぱり安くて優秀」なぞと言われて
次々と買われていくスーパーを思い出す。

ははぁ〜〜とひれ伏されるほどの
敬意(?)を持たれる松茸なぞには
ついぞなれず、気軽に活用してもらえる
えのきやエリンギにもなれない。
中途半端な俺なのだが。

それにしても、ゆうかは何を血迷ったか、
4枚目のかぼちゃに手を伸ばし始めた。
見てないうちに3枚食べてる。まずい。
このままでは全てのかぼちゃが彼女の胃の中に。
俺は焦った。えーと、えーと、えーと。

「と、とも、友達。いいな。
そうだな友達。なってみよう」

嘘だろう。俺。今、何ていった?
ともだち、だぞ。
そんな難しいものなれるわけないだろう。
やめとけやめとけ。
頭の中が(しいたけにだって頭はある)
ぐるぐるしてきた。

「わぁ、ほんと?やったあ。
種類の違うともだちって
なんかいいよね。
育ったところも全然違うわけだし」

心なしか、肩に触れているところが
ほんのちょっと温度が上がったような。
いや、揚げられてから時間が経っているんだ、
そんなわけないだろ。ふっ。
食べられないことを
ありがたがる日が来るとはな。

怪しい密教の会の佐々木さんよ、感謝だ。
あったこともないけど。

〜第5回目につづく〜

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