生活, しいたけの天ぷらの ②
【アホアホなお話の2回目】
さて、本日も外側はさっくりと、
内側はしっとりと、揚げあがった。
この家は少し変わっていて、
天ぷらが食卓にあがる時に、
塩・天つゆと共にウスターソースが並ぶ。
なんでも、夫の泰之が会社員なるものに
なりたての頃、課長とかいう人に
連れられていったお店で
ソースが一緒に出されたらしい。
その味に衝撃をうけて以来、
泰之は天ぷらを食べる際に
必ずソースをセットし、
家庭を持ってからもその伝統(?)は
引き継がれたのであった。
それにしても、【課長】というものは
なかなか面白い名前の持ち主だな。
どっちが名字なのかがよくわからん。
名字が「課」名が「長」?
いや、以前泰之は「イイダ課長」と
言っていたような気がする。
だからおそらく、
イイダが名字、名前が課長と言うんだろう。
それにしても変わった名前を
もらったものだ。
この家の奥さんである、たえさんは
しいたけの俺からしてみると、
なかなかの料理上手だと思う。
天ぷら以外にもしいたけを使ってくれるし、
若干の貴族意識がたまに鼻に付く、
干し椎茸のこともうまく手なずけて、
彼の自尊心を損なわない料理に仕上げている。
奴をゆっくり、たっぷりの水で前日から
乾く前のふっくらに戻して、
その戻し汁を使ったかに玉は、
しいたけの俺ですらも
ちょっと食べてみたいような、
羨ましいほどのいい香りがする。
さて、本日の夕ご飯のメニュー。
・しいたけの天ぷら・春菊の白和え
・豚ロースの冷しゃぶ梅しそミョウガ
和え・ゆでたスナップえんどう
・ポテトサラダ だ。
この中で最も地味なのは、
ゆでただけのスナップえんどう
だと思うだろう?
俺も初めのうちはそう思っていた。
しかし、案外そうでもないらしい。
やつらは、ぷっくらふくれた体に、
水分をたっぷりためこんでいて、
噛むと途端にプチっとはじける。
しかも、野菜(しかも、青い)なくせに
苦くもなく、クセもなく、
むしろ"甘い"らしい。
子どもたちは冷蔵庫から
マヨネーズを出してきて、それをにゅるっと
小皿にしぼり出すと、えんどうをつけては
ぱくぱく食べているし
(「クセがない」というのが
今はもてはやされる時代なのか・・」
とちょっとした自虐にはまる俺)
普段は「やっぱり煮物ってうまいよな〜」とか
言っている泰之も、マヨネーズに
ちょっと醤油を入れて、かつおぶしをかけた
スナップえんどうにつけると、幸せそうに
ビールじゃないらしい、
でも一時期はよく飲んでいた
ビールにそっくりな、
黄色くてしゅわしゅわしている飲み物を
プハァーーーーなんて言って飲みながら、
これまたぱくぱく食べている。
たえさん
(俺は彼女の料理の才能を尊敬しているので、
自然とこういう呼び方になるのだ)は
「ゆでるだけで、
みんなぱくぱく食べてくれるから、
メニュー1個考える手間が減って
楽でいいのよねー」と言いながら
「ハッピーももサワー」なる、
ピンク色の液体をこれまたぐびぐび飲んで
ぷはぁーと甘い息を吐いている。
ゆでるだけで楽、らしいけど、
その前に「筋を取る」っていう作業が
1つ発生するらしく、それについては
「ちょっとめんどくさいー」と
たまにブーブー文句を言っている。
しかし、その作業をしているたえさんは、
口調とは裏腹に、
ちょっとだけ楽しそうにも見えるのを、
俺は知っている。