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【写真】言葉以前の場所へ,より深く -[マシン・ラブ:ビデオゲーム,AIと現代アート] 02
六本木ヒルズ、森美術館。
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寒い冬の日の、強い陽射し。
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「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」、つづき。
《慈悲の瞑想(メッター・プレイヤー)》
その空間では、複数のスクリーンにランダムに映像が流されている。
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一つひとつは、短いメッセージだ。わかりやすい連続したストーリーがある、という類のものではない。
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文脈が観るものに委ねられ、哲学的でもあるそれらの言葉は、祈りの言葉にも似ている。
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ジャコルビー・サッターホワイトもまた、仏教における「慈悲の瞑想(メッター・プレイヤー)」を題材に、振付、壁紙、ビデオ、アニメーション、音楽が一体化したマルチ・メディア・インスタレーションで、万華鏡のようなCG世界を創出します。
いずれもアーティスト自身のアバターが登場し、独自のサウンドやビジュアル・エフェクト、インスタレーションを通して、仏教的な世界観と新しいテクノロジーの壮大な融合を、観客は体験することになります。
目まぐるしく変わる映像と音、短いメッセージ。いわゆる、サブリミナル効果みたいなものとの関連は知らないけれど、言葉も含めた小さな刺激が取り込まれ、自分の中に広がる。リラックスしている状態だからこそ、なおさらだ。
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《インパクト・トラッカー》
思い切り意識を解放した状態から、今度はアーティストの思考の中へと入っていく。藤倉麻子の映像作品。
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スクリーンの前には小さな机と椅子、そこにセッティングされているこんなファイル。何かのマニュアルのような。
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鑑賞者たちはその中身に目をやりながら、作品を鑑賞する。
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藤倉麻子は東京郊外の都市風景に関心を持ち、その均質性に西アジア文化圏の砂漠の風景を重ね合わせてきました。
3DCGによる動画では、都市風景や工業製品などのテクスチャーやデジタル空間の光と影を探求しながら、独自のオアシスや庭園を創り上げます。
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観る者の原風景と作家の内世界がミックスされ、なんともふしぎな気分に持って行かれてしまう作品だ。原風景という接点によって、作家と自分が一体化してしまい、他人の身体で世界を観ているような感覚に陥る。そしてその世界は断片的で、あやふやさに満ちている。
答えなど、決まったストーリーなど、ないのかもしれない。しかしモヤモヤは、自分のなかに、ずっと残る。好き嫌い以前の「気になる」がいつまでも漂い、また行ってみたくなる。
《エフェメラル・レイク(一時湖)》
広い空間に、ぽつんとスクリーン。否、空間が広すぎるから、スクリーンが寂しげに見える。
これはたぶん意図あってのこと。展示室には、下の写真のようにガラス彫刻が天井から吊り下げられ、その中にはランプが入っている。スクリーンでは何かの爆発やら自然風景が映し出され、ランプの明るさはそれに呼応しているようだ。
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つまり、この空間はひとつの生態系。
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ヤコブ・クスク・ステンセンは、フィールドワークや他者とのコラボレーションを通して生態系を探求します。
映像と音響、光るガラス彫刻から成る没入型の映像インスタレーション《エフェメラル・レイク(一時湖)》(2024年)では、デス・バレーとモハーべ砂漠で採取した動植物、風景の写真や3Dスキャン、標本、録音データなどをデジタル化し、融合してシミュレーションによる仮想の湖とそれを取り巻く生態系を創り出しています。その光景は作家自身も予測不可能なほどに変化し続けます。
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こちらも、ストーリーやナレーションが付いているわけではなく、風景が淡々と展開していく。窓の外の景色を眺めている感覚に陥り、そのうちに、すっかり自分がその風景の一部になっている(=重い腰が上がらない)。
《解放虫》
中央の生物?がとにかく気になるので、近づいていけば、
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触手のようなものが、動いているのに気付いた。彫刻作品「解放虫」。
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その動きたるや、リアルな生き物のようだ。
生物学や生態系に深く関わるアニカ・イの作品では、アーティストが長らくリサーチしてきたさまざまなイメージや過去の作品をマシンに学ばせ、新しく生成された世界が描かれます。
さまざまな「生物」(?)が描かれた絵の中央に鎮座する解放虫は、光がほとんど入らない深海に鎮座する、主のようにも見えてくる。
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《想像力の終焉》
一瞬、何かのキャラクターなのだろうかと思うような作品であり、展示。
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しかし説明を読むと、なるほど、と合点する。
アドリアン・ビシャル・ロハスは、コロナ禍下で開発したソフトウェア「タイムエンジン」で過去から果てしない未来までの時間軸から特定のタイミングを設定し、時空を越えた風景を描き出します。
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未来の、考古学的遺物たち。
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《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500年以降》
最後の展示は、「年表」で締めくくられる。しかしその内容は、とてつもない。
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AI研究の第一人者であるケイト・クロフォードが情報通信技術(ICT)研究者でアーティストのヴダラン・ヨレルと協働して描く《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500年以降》は、16世紀以降のテクノロジーと権力の関係性を幅24メートルのインフォグラフィックにまとめたものです。
テクノロジーと人間の関係を500年以上の長い時間軸で据えることで、戦争、AI、気候危機といった今日の世界的な変革を、グーテンベルグの活版印刷術が大きな文化的変化をもたらした時代、植民地主義が始まった大航海時代にまで立ち返って考えさせます。
西暦1500年代をはじまりとして、1000年も経っていないうちに、テクノロジーがどれだけ発展したか、という膨大な作品だ。
読み込んでいくと本当にきりがなくて、時間切れなのか残念そうに立ち去っていく人も多かった。
本展は展示数そのものが多く、そのうちのほとんどが映像作品なので鑑賞に時間がかかる。そして、心身が疲労もしてくる。
だから、最後のこの年表を、集中力を持って鑑賞しきれる人は少ないだろう。もちろん、わたしもそのひとりだ。
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だからこそ何度にも分けて、気に入った作品と気になる作品は鑑賞しなおして、この年表に至っては読んで面白がる、というところまでコンプリートしたいものだと願っている。
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