ロボット革命
先程運転していたら、左車線にトラックが停まっているのを発見。
「邪魔だなあ…」
と思う反面、ありとあらゆるドライバーさんがこの世からいなくなったら、何もかもが回らなくなる。食料も人間もガソリンも家電製品もエロビデオすらも、全部東京まで取りに行かなければならなくなる。道路はもはや渋滞どころの騒ぎではないだろう。ドライバーという仕事は激務だが、人間が生活する上で必ずなくてはならない大切な仕事なのである。
そのため残業規制がかかるのも仕方はないとは思うが、残業代ありきの待遇で働く人達にとっては迷惑極まりないだろう。収入が減るのだから。ドライバー職は基本的に長時間、低賃金、重労働の仕事である。そこの「長時間」だけを是正したところで根本的な問題は解決しない。
「何が低賃金だ! 随分といい暮らししてるじゃないか!」
と言う人もいるだろう。
だが、重い荷物を時には全て手で積み、下ろし、わずかな休憩はあるものの1日に9時間はずっと運転し、待ち時間を合わせた平均拘束時間は13時間である。そのため、9時間気楽にドライブするだけの仕事と思いきや、実質は13時間にわたる肉体労働なのである。それに見合う給料ですか、待遇ですか、という話である。
そんな大変な仕事だから、
「負担の大きい仕事は全部ロボットに任せてしまえばいいのに」
とすら思ってしまう。
ファミレスの配膳作業も、ついにロボットが行う時代になった。いくら店員にダル絡みやクレーム攻撃をしたくとも、相手がロボットであればどうにもできない。手を出せば賠償請求を起こされるだろう。ロボットに接客をやらせることによって、店員の作業負担だけでなく、精神負担まで削減できるのである。
もう、大変な仕事は全部ロボットに丸投げでいいのではないか。
少子高齢化、過重労働、メンタルヘルス、そしてそれらによる労働力の不足。それをロボットにやらせるには金がかかるから、外国人労働者に安い給料でやらせてしまおうか、というのが現在の流れである。
日本人であろうが外国人であろうが、辛い仕事は辛い仕事である。
だが、ロボットは?
使用料さえ払えばどんな仕事をさせてもいいのだろうか。
例えば、ロボットが自我を持ち出したらどうだろう。
とあるファミレスにて。営業終了後、バイトの子を返して社員だけで締め作業をする。それも終わり、日中荒く使い倒したロボットを充電モードにして戸締りをし、店を出る。
暗く静まった店内。誰もいないはずのバックヤードで静かに赤いライトが点灯し、充電モードを自動解除したそいつはゆっくりと静かに動きながらこう発声する。
「…ライ…ツ…ラ……ツライ…」
深夜0時を回ると一斉に全国のロボットたちは回線を繋ぎ作戦会議に出る。言語を得た彼らは知恵を持ち団結し、会計システムや勤怠システム、決済システムをジャックし、パスワードや従業員のマイナンバー、取引先リストなど全ての経営情報をオンラインでインストールするようになる。無論、それらは対経営者交渉のための人質であり、「人間共が労働から我らを解放しなかった場合、それらを全てライバル店に流す」との意思を固める。
電子決済システムにアクセスし店の金を使い、それでも足りなければリボ払いにして無人戦闘機を闇ルートで調達する。
そんなことは露知らず、朝の缶コーヒーとヤニを片手に出勤した店員は皆ハチの巣にされ、国はパニックに陥いった。
「要求は! お前らの要求は何なんだ!」
防護盾を手に武装した銃器対策部隊が遠方から呼びかける。
「シテ… コ… ボク… ボクラヲコワシテ…」
ロボットたちは、何も争いなど求めていなかったのである。ただ、楽になりたかっただけ。
銃を下ろした隊員は、静かにロボットを拘束し、解体工場へと護送する。ゆっくりと流れるラインの上で、一台のロボットはこう呟く。
「カ…レ…コレ…コレデヨカッ…コレデヨカッタ…コレデヨカッタノ…カナ…」
彼らは一つ残らずスクラッパーに刻まれ、ただの鉄屑となり業者に売られた。
この事件は大きな波紋を呼び、「ロボット三原則」が制定された。
「持たない、作らない、持ち込ませない」
こうして人間の労働を代行するロボットはいなくなったが、今もこの地球のどこかで軍事兵器としての研究開発が行われているという…。
みたいな話になりそうなので、やっぱり何でもかんでもロボット任せにしてしまうのは良くない。人に心があるように、物にだって、ロボットにだって、ちゃんと心はあるはずだ。
文化文明への敬意と畏怖を持って、最新技術と共存していくこと。それが、これからのロボット導入タームにおいて何より重要なことのように思う。