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推し短歌

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note投稿企画「#推し短歌」 2023年9月12日(火)〜10月10日(火)
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2023年10月の記事一覧

推し短歌⑩「そらくん」

推し短歌⑩「そらくん」

「そらくん」は名もなき配信者です。
当然顔も知らないし、会ったこともありません。
彼の声が好きで、連日彼のアーカイブの配信録音を聞いて寂しさを紛らわせています。

でもその録音には1つ1つに異なる鍵がかかっていて、彼に直接「あいことば」を聞かなければロックが解除されません。

私は引っ込み思案でずっと聞けずにいましたが、ある日どうしても我慢できずにTwitterからDMをしました。

あいことばは

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推し短歌⑨「初恋のひと」

推し短歌⑨「初恋のひと」

17歳の時、私は幼馴染の同性に恋をしていました。
毎週彼に自転車の荷台に乗せてもらって海辺まで向かい、防波壁に2人腰掛け、お互いの近況を話してから帰るのがお決まりのコースでした。
どれくらい彼のことが好きだったかと言われれば、彼との会話を携帯電話に録音して、ひとり、部屋でこっそり聴いていたぐらい好きでした。いつも彼を身近に感じていたかった。ただそれだけでした。

ある秋に、彼は「修学旅行のお土産」

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推し短歌⑧「ハッピーウェディング前ソング」

推し短歌⑧「ハッピーウェディング前ソング」

「ノリで入籍したらええやん」のキャッチーなフレーズとポップなメロディーで人気を博した「ハッピーウェディング前ソング」。
手掛けたのは若者を中心に人気を集めるスリーピースロックバンド、「ヤバイTシャツ屋さん」。
辻希美夫妻や鈴木福を筆頭に数々の著名人がこの曲に合わせたダンスを踊り、SNSにアップしました。

一方で、私のような「入籍」という選択肢自体与えられていない世捨て人からすると、一言物申したく

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推し短歌⑦「私」

推し短歌⑦「私」

今年の誕生日に実際に送られてきたラインです。
誕生日の早朝にはこんなようなのが毎年届きます。
嫌なんですが、言葉にしたら大切な何かに傷をつけてしまうような気がして、言えずにいます。
私は朝5時ごろ生まれ、当時父は重い闘病生活を送っていたと聞いています。
私が最初で最後の子だったこともあり、母なりに思い入れがあるのでしょう。

でもさあ…!!!

うーん、やっぱりやめときます…。
でも、うーん、、、

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推し短歌⑥「アリとキリギリス」

推し短歌⑥「アリとキリギリス」

童話「アリとキリギリス」では、遊び呆けていたキリギリスは最後凍死して死んでしまいます(諸説あり)。

ですが、現実の人間社会は真逆だったりします。

裕福な家に生まれた享楽人は、一生遊んで暮らすことができます。その片手間に遊びでクリエイター活動をして一発当てる人もいます。
真面目か不真面目かと言えば不真面目で、その意味では享楽人はキリギリスであると言えます。

一方、貧しい家に生まれた苦労人には、

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推し短歌⑤「女王の教室」

推し短歌⑤「女王の教室」

義務教育に「ゆとり教育」が導入され、「体罰」や「スパルタ教育」といった従来の教育の礎が世間によって砕かれた2000年代初期。
その最中とも言える2005年、突如テレビドラマに現れたのは、全身黒の服装に身を包み、研ぎ澄まされた鋭い目で教室に立つ女教師。
彼女こそが「阿久津真矢」であり、ドラマ「女王の教室」の主人公である。
本作が「問題作」として現在まで語られる所以は、その阿久津真矢の教師像にあった。

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推し短歌④「グリーンダカラ」

推し短歌④「グリーンダカラ」

1年前に追突事故に遭い、ずっと続けてきた事務の仕事を断念せざるを得なくなった私。就職活動34社目にして拾われたのは、最低賃金の清掃員。
初仕事は、煤だらけの便所の床にキツい洗剤を撒き、デッキブラシでひたすら磨くことだった。
時は9月半ば。気温は秋どころかバリバリ真夏日の我が県。嘘みたいに次から次へと溢れ出る汗で、作業着の重みと臭いがどんどん増して行く。

仕事で汗などかいたことがなかった。

今ま

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