終わったものを思慕する話
こんな漫画がある。
日本国民ほぼ全員読んでて、読んでなくとも名前は知ってると思われる、少年漫画雑誌の金字塔・週刊少年ジャンプ。その誌上で、とある昔に連載されていた「みえるひと」という漫画だ。
週刊少年ジャンプには、いろんな漫画が載っている。もう何年も連載されている大御所から、最近載り始めたニュービーまで。ジャンルもこれまた、恋愛やらスポーツやらSFやら非常に幅広い。
そしてこの雑誌には「読者に面白かった漫画を1位から3位まで挙げさせる」というアンケートシステムが導入されており、この人気投票にほぼ基づく形で連載の順番や長さが決定されていく。票を得られず人気がないと見なされた漫画は、いくら長期連載していようが、始まって間もなかろうが、容赦なく「打ち切り」を宣告され、終了しまうことになる。
先述の「みえるひと」も、このアンケートシステムの中に消えた、幾千ある泡沫のうちのひとつだ。
2006年に終了したこの漫画を、つい最近知った。きっかけはWeb上の無料連載キャンペーン。著者の岩代俊明先生のことは「PSYREN-サイレン-」で存じ上げており、サイレンがそこそこ好きだったこともあって、どうせ暇だしいっちょ読んでみますかと「3巻分無料開放中!」のボタンになんとなく手をのばしてみた。
なんだよこれ。
めちゃくちゃ、めちゃくちゃ面白いじゃないかよ…………。
霊を導き時には倒す「案内屋」の明神(みょうじん)と、霊は見えるが怖がりの少女・桶川姫乃(おけがわひめの)の邂逅から話は始まる。舞台は明神の管理するアパート「うたかた荘」を中心に、良怨様々な霊たちに取り巻かれて広がっていく。
なんとなしに手に取った1話だったのに、読み進める手はいつの間にか止まらなくなっていた。気がつけば開放分は全部読み終え、理解を深めたくなり何回も読み返した。そしてついには、続きを求めてコミックスを購入するに至った。
漫画の一部を無料開放するのには、そういう「ハマらせて買わす」狙いもあるんだろう。そりゃ買っちゃうよ、おもしろいんだから。続きが気になれば続きがある限り、いつまでも追い求めてしまうよ。
ただここでひとつ悲しすぎるのが、この漫画が「打ち切り」だったことだ。
回を進めるごとにヒロインの重大な秘密や強大な敵の存在が明らかになり、さあこれからもっと面白くなるぞ……!!!!!そう感じさせた7巻で、この「みえるひと」の物語はパタリと閉じられてしまった。
3巻の続きが気になりすぎて4巻を買ってしまい、欲望のまま読み進めていたとき。話と話のあいだの空きページに作者のひとことが挟まっていた。
この4巻、サブキャラに焦点が当たってめちゃくちゃ活躍する話が収録されていたのだが、おそらくそのことを指して
「彼らの活躍だけでも描けてよかったです」
そんなふうに書いてあった。
そうか。この4巻が出る頃にはすでに、この物語がそう遠くないうちに終わることは決まってしまっていたんだな……。
切なくなった。実際涙が出た。そんな残酷なことがあったのか、当時のジャンプでは。今もきっとそうなんだろうけど。
遠い昔に打ち切られた漫画に、十数年経ったいま想いを馳せる。面白かったのに胸が苦しい。彼らをもっと見たかった。細かく描かれずに終わるにはもったいない魅力的なキャラクターたちばかりだった。
あちこちをタイトルで検索してみれば、やはり未だ打ち切りを嘆くファンの姿が垣間見えた。少しだけ心が救われた。
この漫画を知って、読んで、好きになって、でももう「これから」は無い。
ので、少しでもこの漫画を知る人、読んでみようかなと思う人、良さを分かち合える人が増えたらいいなという想いをこめて、「みえるひと」への愛を表現していきたいなあと思う。
思いついた時に。いろんな形で。
明神たちや岩代先生の足跡をしるした石像、あるいは記念碑に、花を手向け続けるような。そんな気持ちで。
生活に足させていただきます