久川颯ちゃんの忍耐
『梨沙ちゃん、私と颯ちゃんで援護するから、前に出て』
『了解! 斬るわよ天使ども!』
「はーも了解だよ、瑞樹さん」
『なら始めましょう』
瑞樹機と颯機はレールガンを撃ち、相対するナイト・タイプの天使に弾丸を浴びせる。ナイト・タイプたちは砲丸に動揺し、進軍を止めた。その直後に梨沙機が突っ走り、ナイト・タイプに肉薄、両の手に持ったヒートブレードでナイト・タイプを切り裂いた。瑞樹と颯の射撃で体勢を崩していたナイト・タイプたちは梨沙の刃で次々と倒れていく。
戦術マップを見ると、もはや付近の敵は一掃されていた。颯は今日も生きて帰れる、と思うと長く息を吐いた。
基地に帰投し、デブリをやったあと、颯たちは夕食の席についた。颯はまずサラダにドレッシングをかけて食べ始める。話題は天使のことになった。
「はーたちは銃で攻撃するけど、なんで天使はいまだに弓矢を使ってるのかな。あの矢はじゅうぶん強力だけど」
颯の話に瑞樹が答えた。
「そこは天使たちの考えがあるんでしょうね。銃を撃つということより弓で矢を放つほうが自分たちにとって合理的であるっていう」
梨沙も興味を持ったようで、会話に入ってきた。
「人類にとっては不可解でも、天使にしてみれば正しい。剣と弓と魔法で戦うってところで発想が止まってて、新兵器を作り出すアイデアを持たないってことか」
新しい兵器をデザインしないのは、現行の武器のスペックに満足しているということになる。ナイト・タイプの剣にしろアーチャー・タイプの矢にしても人類にとっては大きな脅威だから、天使たちはいまのままで地球人を駆逐できる。
対して人類は対天使戦に向けての武器をひたすら研究し、開発し、できる限りの技術を結集して対天使戦に兵器を投入している。人間がコツコツ金と時間を積み上げて作った戦闘兵器と、弓矢と剣が互角の戦いを展開しているのは異常な風景だ。
サラダを食べ終えた颯は言った。
「じゃあ、その点でもお互いに考え方がすれちがっているってことだね。でも天使のまねをして、天使の考え方をなぞってみようとしても、できないのかな」
「人間が天使の考えを理解するのは難しいでしょうね。天使のように振る舞って相手の立場になってみる……そこが天使との和平につながるのかもしれないけれど」
瑞樹の返答に梨沙はあくびをしながら言った。
「結局は戦うしかないわよ。アタシたちは兵隊だもの。難しいことは参謀本部に任せてご飯をたくさん食べましょう」
颯は春巻きを箸でつかんで、かじった。天使はどんな食べ物が好きなのだろうか。人類の合理性が通用しない異邦人にしてみれば、モノの好き嫌いもまるで異なる。その差異を小さくできれば、もしかしたら戦いはもう少し落ち着くのかもしれない。
そこで瑞樹が言った。
「ねえ、颯ちゃん梨沙ちゃん。ビール飲んでみない?」
「えっ、はーはまだお酒飲めないよ」
「アタシも未成年よ。飲酒は禁止だわ」
「つれないわね~。もう、いいわ、私一人でも。すみません、生一丁!」
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