渋谷凛ちゃんの空

 見渡す限り雲のない澄んだ青空の中を凛は飛んでいた。両サイドには僚機の卯月機、未央機が並んで飛んでいる。

 コックピットで機体を操っている凛は苛立っていた。どうして自分のようなただの女の子が空飛ぶ人型兵器に乗ってインベーダーと戦わなければならないのか。本当は家で寝ていたいのに、凛の周りの状況がそうさせてくれない。なぜどうしてと憤ってもなにも変わらないし変えられない。

 凛がイラつきながらコックピット正面のモニターを眺めていると、モニター右上に未央の顔が表示された。

『しぶりん、見て見て!』

「?」

 なんだろうと思いつつ未央機のほうに目を向けると、丸っこくうさぎを連想させるフォルムの人型兵器が空中で平泳ぎをしていた。未央が快活に言う。

『練習したんだよ。どう? 平泳ぎマニューバ。かっこよくない?』

「かっこよくはないかな……」

 かっこよくはない平泳ぎの姿勢を取りつつも未央機はちゃんとまっすぐ飛んでいるし、上昇も下降もしていない。飛行しながらこんな動きができる人型兵器を開発するのは現代の地球人では不可能だ。センカワ文明の遺跡から発見された機体だからこそできる芸当だった。

『かっこよくないか。未央ちゃんもっと鍛えないとアカンねー』

 笑顔になってそう言う未央がこちらを元気づけているのが凛にはわかる。もうすぐ命の取り合いが始まるというとき、未央はあえてボケを演じる。

『今度はバタフライとかやってみようかな』

「うーん、空中を泳ぐ必要ってある?」

『じゃあ、やるとしたらなにがいい? スカイラブ投法?』

「それはかっこいいかもね」

 未央と馬鹿げた話をしていると、凛の苛立ちがほんの少し和らいだ。くだらない話は未央なりの気遣いだった。優しい仲間だと凛は思う。同じ学校に通っていたらいい友達になれただろう。

 今度は卯月の顔がモニターに映った。

『凛ちゃん、未央ちゃん。そろそろヤチガが来ます。気を引き締めましょう』

 もう敵との距離が縮まっているのか、と凛が戦術マップを確認すると、ヤチガを表わす赤い三角形が五つ、凛たちに近づいてきていた。卯月が言う。

『今日の戦いもがんばりましょう!』

 ポジティブな感情をこめて卯月が言った。未央も元気に応じる。

『おー! 絶対勝ーつ!』

 凛は小さくうなずいて言う。

「うん、がんばろう」

 まもなくヤチガたちの姿が肉眼で見えた。黒い、エイのような形の飛行機が五機。あの機体に生物が乗っていることは確認されていない。人工知能が操縦していると言われているが、それも定かではない。わかるのはヤチガたちが宇宙から地球に渡来してきて、センカワ文明に関したものを攻撃する存在であるという点だけだ。

 戦闘開始だ、と凛は操縦桿を握りしめる。凛たち三機は散開してヤチガに向かって前進していく。

『じゃあ、いきますか!』

 叫んで未央が敵陣に突っこんでいった。曲線的な動きで一機のヤチガの背後に回ると、機体の右手に持ったセンカワ・ライフルをぶっ放した。エメラルドグリーンの光線がヤチガ機を打ち抜く。ヤチガ機は爆散。大空に破片をばらまいた。

『一機撃墜! 次いくよ!』

 未央は次の獲物を求めて機体を加速させていく。凛もまたヤチガに接近し、ライフルで撃った。その攻撃は回避されたが、あらかじめヤチガ機がとるであろう回避機動を予想しての一撃だった。思った通りのコースに回避したヤチガ機を凛は再び狙い撃つ。ヤチガ機は凛の射撃に被弾、爆発していった。

 凛が一息ついたところで突然コックピットに警告音が響く。左後方からヤチガが機関砲を連射してきた。凛はとっさに回避。身体にGが襲いかかり、うめきながら攻撃から逃れる。らせんの動きで空を駆け、敵を引き離すとお返しのライフルをショット。光線に撃たれたヤチガ機は墜ちていく。

 いまのは危なかったと思いつつ凛が戦術マップを確認すると、赤い三角形はひとつも残っていなかった。味方を示す青い三角形だけが三つ残っている。凛は肩に入っていた力を抜く。敵は全滅、味方は全員健在だ。これで帰れる。

 未央から通信。『しぶりん、何機墜とした? 私は二機』

「私も二機撃墜。じゃあ、卯月が一機撃墜か」凛は答えた。

『私もがんばったんですけど、一機しか倒せませんでした。やっぱり凛ちゃんと未央ちゃんはセンスありますね』と卯月がすまなそうに言った。

「センスって言っても――」

 と凛が言いかけたとき、警告音が再びコックピット内に響いた。戦術マップの端に赤い三角形が現れ、猛スピードでこちらへ接近してくる。先ほどのヤチガの比ではない速度だ。すぐにその姿が視界に入ってきた。ピンク色に塗られ、機体のあちこちに火砲を装備した巨大なヤチガが迫ってくる。

『げっ、これってプラチナタイプのヤチガ!?』

 未央の驚きの声が凛と卯月を揺さぶる。プラチナタイプのヤチガは通常のヤチガより強力な火力と高い運動性を持つ。凛たち三人が遭遇するのは初めてだったが、パイロット仲間からは恐ろしい敵だと聞いていた。緊張と恐怖が三人にのしかかる。

『ど、どうしましょう、初めて戦う相手ですけど』

 弱気な声を絞り出す卯月に未央が心細げに答える。

『どうするったって……勝つしかないよ!』

「……そうだね」

 凛はそれしか言えなかった。敵はこちらを殺しにくる。ならば自分たちはどれだけ相手が強くても殺される前に殺すしかない。シンプルで冷たいルールの中に自分たちはいる。そんなルールくそくらえだが。

 とりあえず三人はプラチナタイプを取り囲むように動く。プラチナタイプは急加速して凛たちに突撃、火砲から大量の弾丸を発射してきた。空を引き裂く猛射撃を凛たちは慌てて回避。機体から数センチ横の距離を敵弾が飛んでいく。からくも弾丸の雨を避けた未央が果敢にライフルを放つ。

『どりゃっ、これでどうだ!』

 未央のかけ声をあざ笑うかのようにプラチナタイプは高速でターンして射撃から逃れる。さっきまで相手をしていた通常タイプのヤチガとは段違いの素早い機動だ。

『あんなターンするなんて、なんじゃそれぁ!?』

 スピードを落とさずジグザグに機動し、急上昇からの急旋回をやってのけ、垂直にダイブしてこちらを攻撃してくるプラチナタイプに凛たちは応戦することすらままならなかった。敵の攻撃は激しく、こちらは回避で精一杯。このまま戦っていても集中力と体力を削りきられて撃たれるか、燃料切れで墜落するかのどちらかしかない。凛はそれを望まない。死にたくはない。

 必死でプラチナタイプの火砲を避けつつ、凛は言った。

「LIVEモードを使おう」

 モニターの隅に映る未央の顔はおびえきっていて、卯月は半泣きだった。

『LIVEモード、使うしかないか……』未央の声は硬かった。

『でも、危ないですよLIVEモードは……身体がGに耐えられるかどうか』

 卯月の言葉を打ち消すように凛は言った。

「このままじゃプラチナタイプに負ける。生きて帰るにはLIVEモードを使うしかないよ、卯月。やろう」

 凛は眼に力を入れる。自分だってLIVEモードを使うのは怖い。けれども命を落とすのはもっと怖い。未央が言った。

『うん。LIVEモード、やってみよう、しまむー』

『わ、わかりました!』

 卯月がうなづくのを見て、凛はLIVEモードスイッチをオン。すると背中から響いてくるエンジンの音が甲高くなった。LIVEモード中の機体はGリミッタとエンジンの安全リミットが解除され、通常時の機動よりハイレベルな高機動ができる。そのぶんパイロットの身体にかかるGは増大し、それに耐えられなければ死に至る。緊急時以外には使われない切り札だった。そんなリスクの高い手は打ちたくないが、これくらいしか活路を開く方法はない。

 LIVEモードになった機体――F-346シンデレラは一気に加速した。凛のシンデレラはプラチナタイプの高速機動にも対応できる速さで空を駆けていく。

 しかしスピードが速すぎて機体のコントロールが難しい。狭いコックピットの中で歯を食いしばり、凛たちはプラチナタイプと激しい戦いを展開した。大空を駆け巡る命を懸けたハイスピードなダンス。拷問のように身体を容赦なく襲ってくるGが辛い。接近と離脱、射撃と回避、光線と弾丸の交差。互いに決定打がない。ほんの少しでも華麗な舞踏を乱したほうが負ける。

 超高速の空戦のさなか、巧みに動いた未央がプラチナタイプの背後についた。絶好の攻撃チャンスだ。

『隙ありっ!』

 未央がライフルを撃つ。LIVEモード中はライフルの威力も増大する。放たれた光線はプラチナタイプに命中。ボン、と黒煙が上がり、プラチナタイプの機体が揺れて傾いた。

『いまならいけるはずです、えいっ!』

 卯月もプラチナタイプに射撃を浴びせる。プラチナタイプの全身に装備されていた火砲が爆発してはじけ飛ぶ。ゆらゆらと弱々しく飛ぶプラチナタイプが凛の正面に来た。凛は敵をにらみつけてトリガーを引きまくる。ライフルの光線が突き刺さったプラチナタイプは大爆発し、粉々に砕けた。今度こそ、戦術マップ上から赤い三角形は姿を消した。一瞬、空に静寂が訪れる。

 助かった、と思い汗まみれになった凛がLIVEモードをオフにすると、未央が歓声を挙げた。凛は浅い呼吸でその声を聞く。

『やった! 勝ったよ私たち! プラチナタイプに!』

 卯月も笑顔になっていた。

『LIVEモードのおかげですね。LIVEモードなんて怖くて使ったことありませんでしたけど、ものすごく強力ですね、LIVEモードは』

『アヒャヒャヒャ! しまむー何回LIVEモードって言ってんのさ!』

『え? あ、いや、その、ごめんなさい……』

『ウヒャヒャヒャ。別に謝ることないって。さ、帰ろうよ。しぶりん、しまむー』

「うん」

 凛はうつろな声で返事をした。今回の戦いはなんとか勝利した。けれども次はどうなるかわからない。複数のプラチナタイプと戦うかもしれない。そんな不安にお構いなくヤチガは襲ってきて、自分たちは立ち向かわなければならない。その繰り返しがいつまで続く? いつこの空という戦場から解放されるのか。

 三人で帰投コースを飛びながら凛は思う。私は空が嫌いなんだな。怖い敵も痛いGもみんなここにある。


 20XX年11月28日、これまでまったくその存在を知られていなかった文明の遺跡が九州のとある街で見つかった。そこで発見されたのは地下に建設された研究所と思われる施設だった。その施設からは現代の技術を超えた数々の機械があらわれ、シンデレラという高性能な兵器もそこから見つけ出された。発見されたテクノロジーは、それらを解析したある科学者の名前を取って、センカワ文明と呼ばれるようになった。

 センカワ文明のような高度な技術がかつて地球上にあった痕跡を示すものはこれまでになく、まったく未知の文明が発見されたのだった。歴史学者たちはさまざまな議論をしたが、なぜセンカワ文明がそこに残っていたかを矛盾なく説明できる答えは出てこず、未来人がタイムマシンで過去に跳んで地下に研究所を埋めたのだという説まで飛び出した。

 ともあれセンカワ文明の研究は勢いよく進んだ。その中で注目されたもののひとつがシンデレラだった。人型をしていながら飛行が可能で、空中を縦横無尽に動けるこの制空戦闘機に世界中の軍隊組織が関心を寄せた。

 しかし誰もがシンデレラを操縦できるわけではなかった。例えばある人がシンデレラに乗りこんでエンジンをスタートさせようとしても、まったくシンデレラは反応しなかったりする。だが別な、シンデレラのパイロットとしての適性を持つ人間がシンデレラを動かそうとするとすぐさま起動できたりする。適性のあるパイロットは男性より女性のほうが多かったが、その中でも規則性はなく、十代でパイロット適性を持つ女の子もいたし、テレビのアナウンサーをしていた女性でも適性がある者はいた。

 この点で世界の軍人たちはシンデレラを兵器としてあまり信頼しなくなった。大量にシンデレラのようなマシンを自軍に有していたとしても動かせるパイロットが少なければ戦闘に参加できる戦力は限られてしまう。だったらそこそこ高性能な戦闘機と戦闘機パイロットを大量生産した方が戦力として確実に機能する。またシンデレラが発見されたのは戦争参加を禁じている日本だったので、兵器とみなして研究されるのではなく、人間の指と同じくらい器用に動くシンデレラの指先のメカニズムや、機体を構成している部品の素材などが研究解析の対象となった。

 そんなある日、地球外からヤチガという侵略者がやってきた。ヤチガたちは地球に降下し、沖縄付近に拠点を築くと、センカワ文明の研究をしている施設を攻撃すべく飛行機を出動させた。この攻勢を日本の航空自衛隊が迎撃したが、機関砲も空対空ミサイルもヤチガの機体にはなんのダメージも与えられなかった。原理は明らかではないが、それらの武器による攻撃をヤチガの飛行機は無効化できるようだった。反対に、ヤチガたちは容赦なく迎撃に出た自衛隊機を破壊した。そのほか、センカワ文明関連の施設はもれなく攻撃を受け、死傷者が出た。

 ヤチガがセンカワ文明を敵視しているのは誰の目にも明らかだったが、ヤチガがどんな動機でセンカワ文明を攻撃するのかは不明だった。日本政府はヤチガとコミュニケーションを取ろうと数多の手段で呼びかけたが、いかなる言語を用いてもヤチガと会話することはできなかった。ヤチガは止まることなく攻撃を繰り返した。

 そうなると、日本は襲ってくるヤチガを撃破するしかないのにヤチガを破壊する術がないという事態に陥った。そこでシンデレラを戦いに投入すべきだと一部の政府関係者が言い出した。実際に適性のあるパイロットを乗せたシンデレラの武器でヤチガを攻撃したところ、見事にヤチガを撃墜することができた。こうして兵器としてのシンデレラが最前線に送り込まれることになり、ヤチガに対抗する手段を確保することができた。次に生じた問題はパイロット不足だった。そこで政府は、日本全国から民間人を含めた適性のある人間をかき集めてパイロットとして育てることで対処した。凛も卯月も未央も適性検査を受けた結果パイロット適性があったので、日本防衛団と呼ばれるヤチガと戦う組織に入り、訓練を受け、シンデレラのパイロットとなった。


 当初の予定より十九分遅く凛たちは新田原基地に帰投した。エプロンにシンデレラを着地させ機体から降りると、涼しい風が凛の顔に吹きつけた。風を浴びて息を吸っていると、やがて整備班の面々がシンデレラに集まってくる。

「お疲れ様だにぃ。今日も凛ちゃんたちが帰ってこられてとってもうれしいぃ~!」

 そう言って整備員のきらりが凛たち三人に笑顔を向ける。凛は苦笑いして言った。

「LIVEモードを使ったから、かなり機体に負荷がかかっちゃったと思う。整備、お願い」

 そう言う凛にきらりは笑顔を絶やさず「LIVEモード、それは大変! きっちり整備するにょわ!」と返した。その横で、同じく整備員の莉嘉が口を尖らせる。

「アタシもシンデレラに乗って戦いたいな~。かっこいいじゃん、空飛ぶロボって」

「整備の仕事だってかっこいいところはあると思うにぃ。それに整備を怠けちゃったら凛ちゃんたちは戦えないんだにぃ。きらりたちの仕事にも大切な役割があるんだよ、莉嘉ちゃん」

「そんなものかなー」

 ため息をつく莉嘉をきらりがなだめる様子を見ながら、凛と卯月と未央は基地の中へと入っていく。

「疲れたー。シャワー浴びよ、しぶりん、しまむー」

「確かに今日の戦いは疲れましたね。あとでしっかりデブリしましょう」

 凛は未央と卯月を無言で追った。ヤチガとの戦いに終わりは見えてこない。苛立ちはどうしても拭えなかった。

 シャワーを浴びてデブリをやって出撃レポートを書いて食事をとると、もう夜だった。未央と卯月は宿舎に引き揚げていったが、凛はなかなか眠れず、気分を紛らわせるためエプロンの隅をぶらぶらと歩いていた。

 夜空の下、向こうから誰かがやって来て、凛に声をかけてきた。

「おや凛ちゃん、どうしましたか?」

「あ、菜々さん……」

 凛の前を通りかかったのは基地の司令官、菜々だった。弱冠十七歳にして基地司令を務める天才少女だ。基地で度々すれ違う相手だが、いつも明るい雰囲気を振りまいている、親しみやすいリーダーだった。

「ちょっと眠れなくてさ。菜々さんはなにを?」

「ナナはこれから仕事ですよ」

「遅くまで仕事しているんだね」と凛。

 菜々の両手はたくさんの書類と大型のタブレットで塞がっていた。それを見ながら、ふと、みんな戦っているんだなと凛は思う。作戦を立てたり機体を整備する人間がいるから凛たちは戦場で引き金を引けるのだ。

「ヤチガに勝つために必要なことですから」

 菜々は穏やかな口調で言って、不意に上を向いた。

「きれいな夜空ですね」

 つられて凛も空を見る。星が輝く美しい空だった。凛はその空を見ながら言った。

「きれいだけど、私は空って好きじゃないな。あそこに昇ればまた命がけで戦うことになる。でもヤチガからは逃げられないから出撃しなくちゃいけない……空を飛ぶのは、怖いよ。いつ死ぬかわかったものじゃない。いくらきれいでも、怖いところなんだ」

 それを聞いた菜々は凛を見つめて、励ましの色を声に乗せて言った。

「自分に合わないならやめてもいい、とかそういうレベルの問題ではないですからね、対ヤチガ戦は。あまりにも多くの命がかかっている。ナナも毎日恐ろしい気持ちで仕事をしていますよ」

 菜々さんも怖いんだ、と思って凛は次の言葉を聴く。

「でも、その恐ろしさをやっつける方法もあります」

「どんな?」

「ヤチガとの戦いに勝って、ヤチガがいなくなった空のことを考えるんです。すると元気が湧いてきます」

 凛はぽかんと口を開けた。

「ヤチガのいなくなった空?」

「はい。青くて澄んでいてどこまでも平和な空。そんな空を取り戻すために、ナナはがんばっています。みんなもがんばっています。そのがんばりが、ヤチガをやっつけるパワーになるんですよ」

「空を取り戻す……」

 凛は夜空を見つめる。あそこからヤチガがいなくなって、シンデレラで空を自在に飛べたら――?

「おや、いい顔してますね、凛ちゃん」

 菜々がうれしそうに言った。凛はびっくりして返事をする。

「え? 私、なんか変わった顔してた?」

「いえ、優しく微笑んでいました」

 自然と頬がゆるんでいたらしい。自分は空を見て笑えるのだと思ったら、凛はとても安心した。

 凛と菜々のふたりはしばらくの間、黙って夜空を見上げていた。

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