久川颯ちゃんの立腹
戦場に現れる天使たちはだいたい三種に分けられる。剣を持ったナイト・タイプと、弓を持つアーチャー・タイプ、そして魔術を操るメイジ・タイプ。
『颯ちゃん、梨沙ちゃん、対天使戦用意』
チームリーダー瑞樹の声が颯の操縦席に届く。颯は深呼吸して返答する。
「こちら久川、用意できてます」
『こちら的場、トーゼン用意はできてるわよ。早く行きましょう』
ふたりの返事を聞いた瑞樹が言った。
『いままでの敵と大して変わらない相手よ。二体のナイト・タイプが前衛を務め、三体のアーチャー・タイプが後衛にいる。まずはアーチャー・タイプを潰してからナイト・タイプを叩きましょう。行くわよ、前進一杯』
言うと瑞樹機は猛ダッシュして前方へ突き進んでいく。颯もコクピットのペダルを踏み込んで機体を前へ。梨沙も遅れずに着いてくる。
四分ほど走ると、目の前に白い光が瞬いた。アーチャー・タイプによって放たれた光の矢だ、と認識した瞬間すぐさま颯たちは散開し、攻撃を避ける。矢がヒットした道路に穴が開く。颯は背中に汗が流れるのを感じつつ、さらに前へ。
やがて視界の中に天使たちの姿があらわれた。白い羽と白い肌。光る弓矢と輝く剣。幻想的な天使たちの望みは人類皆殺しだ。
アーチャー・タイプの天使が矢をつがえるのが見えた。同時にナイト・タイプ二体がこちらの前に立ち塞がる。ナイト・タイプたちは硬い鎧に身を包んでいるから防御力は高い。そのかわりスピードはそれほどでもない。
『梨沙ちゃん、先頭を走って。颯ちゃんは二番手、アンカーは私がやるわ』
「「了解」」
瑞樹の指示通りに順番を組んで駆ける。最後尾の瑞樹がナイト・タイプたちに牽制射撃を浴びせ、その隙に颯と梨沙がナイト・タイプたちの後方に位置していたアーチャー・タイプたちへ接近していった。
『颯、アタシが囮になるから、攻撃お願い!』
「わかったよー」
アーチャー・タイプの弱点は矢を放ったあとにできる隙だ。矢を放ち、もう一度矢をつがえるあいだは動きが止まる。囮役を引き受けた梨沙は単独で飛び出し、天使たちのターゲットになるように走った。アーチャー・タイプたちの矢じりが梨沙機に向けられるのを確認した颯は、機体右肩の武装ステーションからレールガンを取り外し、構える。
息を止めて颯はチャンスを待った。梨沙機がわざと走るペースを緩めたとき、アーチャー・タイプが矢を射った。その瞬間に颯はトリガーを引く。レールガンの弾丸が、アーチャー・タイプの天使を撃ち貫いた。梨沙が無事なのを視界の隅で確かめる。
身体に大穴が空いた天使は、白い羽を散らして消えていく。天使の羽に関する研究は急ピッチで進められている。地球外の物質だから、燃料にできないか、装甲材に使えないか、など活用方法の見極めを人類は急いでいる。
対天使戦に勝利するには人間が天使たちの難題に合格することならば、まずは天使と戦って負けない人間の強さを示すことだ、と颯は思う。天使の侵略に打ち勝ち、仲間を集め、できるだけ多くの命を残す。それぐらいしか颯には思いつかない。
颯はレールガンに弾丸を再装填し、梨沙に矢を向けている天使を撃つ。