久川颯ちゃんの頑張り
戦術マップを見やると、前方にキメラが三体いた。瑞樹が言う。
『私が正面に立って敵を引きつける。颯ちゃんは迂回して敵を側面から攻撃、お願いするわ』
「おっけーです」
颯が応えると、言葉通り瑞樹の機体は前進してキメラと向かい合う。颯は左サイドに寄って走った。
今日は梨沙は体調を崩していて出撃できなかった。たった二機の士魂号で幻獣軍と戦うのは神経を削られるが、現に敵が来ているなら迎え撃つしかない。
そう思っていると、瑞樹が敵の間合いに入った。
『さ、キメラさんたち、餌が来ましたよ~』
言いながら瑞樹はキメラにGアサルトを撃ちこむ。キメラのほうもレーザーを応射。瑞樹は細やかな機動でレーザーを回避して、さらに敵へ射撃を浴びせ、キメラをその場に釘付けにする。
あとは颯の仕事だった。サイドを駆けた颯が敵を捉える。
「いくよ、はーちゃんショット!」
瑞樹と撃ち合っているキメラ三体の側面からGアサルトで攻撃。瑞樹に注意を取られていた敵は弾丸の雨に打たれ、よろめき倒れていく。颯はダメ押しでさらに連射。
「おらおらおらー!」
気合いの入った射撃でキメラが全滅するのにそう時間はかからなかった。
「はーの勝ちだ!」
死んだキメラが消えていく。幻獣は死体を残さない。戦闘の騒音が消えて、周囲は静かになった。すると颯の機体に瑞樹の機体が近づいてきた。
『お疲れ様。でもまだ増援が来るみたい。残りの弾薬はどのくらい?』
「えーと、四五パーセント」
『私の方はちょっと余裕があるわね。射撃は私がメインになるようにして戦いましょう』
「お願いします」
颯の真面目ぶった口調に瑞樹は苦笑いを漏らした。
『梨沙ちゃんがいないぶん、がんばりましょう』
「はーはいつでもベストを尽くしてるよ!」
『私も隊長として恥ずかしくない闘いをしなくちゃね』
ベストを尽くして自分たちは殺しあいをしているのだ、と颯はふと思った。幻獣は人間を駆逐する。だから人類は殺されないために幻獣と戦う。
パイロットとして当たり前の話だが、颯は幻獣を何体も殺してきた。そのなかには十代の颯より幼い幻獣とか、大切な家族がいる幻獣さえも含まれていたかもしれないのに。
『颯ちゃん、行くわよ』
「は、はい。いま行きます」
瑞樹の声で颯は意識を切り替える。目下のところは幻獣を殺すしか、自分にできることはない。毎日の戦いを勝って、帰投する。それしかできない。
戦術マップを見ると、新手の幻獣が接近しつつあった。颯は瑞樹を追って機体をダッシュさせる。もっと生きるために。