久川颯ちゃんの再興
通信機から梨沙のシャウトが響く。
『ゴブリンが多すぎ! ええい、大人しく斬られろこのキモ幻獣!』
戦術マップを見ると、梨沙機の周りにゴブリンの群れが集まっていた。颯は戦闘隊長である瑞樹に言う。
「はーが梨沙ちゃんの援護に向かった方がいいかな?」
『梨沙ちゃんは私がサポートするわ。颯ちゃんは前進してゴルゴーンの処理を』
「りょーかい」
瑞樹の言葉にそう答えると、颯は士魂号をダッシュさせて敵へ向かっていく。瑞樹の言うとおりゴルゴーンが颯の前方に見えた。颯は接近しながらGアサルトをぶっ放す。
「オラオラオラオラー!」
叫びながら弾丸をゴルゴーンに浴びせる颯。敵も黙って撃たれるわけじゃない。生体ロケットを応射してくる。颯は右横飛びで生体ロケットを巧みに回避。撃ちながらゴルゴーンとの距離を詰めていき、超硬度大太刀を振り上げて斬りかかった。
「はーちゃん斬りだよ!」
颯の大太刀に切り裂かれたゴルゴーンは息の根を止める。撃墜数プラス1だ。少しのあいだ呼吸を整えて、颯は次の敵と仲間はどこにいるか、戦術マップに目を向けた。
梨沙機の近くにいたゴブリンたちは消えていた。数では押されていたが、小型の敵だからふたりで戦えば撃破は容易だったのだろう。マップ上に表示されている僚機のデータを見ると、梨沙も瑞樹も目立った損傷はなさそうだ。瑞樹から通信。
『順調に戦えているわね。いったん集合しましょうか、颯ちゃん』
「おっけーだよ」
そこへ梨沙のぼやきが挟まれる。
『あー、キモかった。斬っても斬っても襲ってくるし。疲れたわアタシ』
仕事をしたアピールを見せる梨沙に颯は言った。
「でも無事なんだからいいっしょ、梨沙ちゃん」
『無事だけどイライラしたわ。帰ったらストレス解消しないと』
瑞樹の苦笑が通信機ごしに聞こえてきた。『そうね、帰らないといけないわね。ここから』
「……そーだね」颯は言った。
戦場から帰ることを考えると、官能的な気持ちよさが背骨から昇ってくる。幻獣軍をやっつけて、この狭苦しい操縦席から出て、シャワーを浴びて昼寝をする。帰ったら、それが全部できるのだ。けれども戦死したらそれでさようならだ。
戦場の中央辺りに颯、梨沙、瑞樹の三体の機体が並んだ。戦術マップ上には幻獣の増援がちらほら見える。
『颯ちゃん、梨沙ちゃん、まだ戦える? 逃げる?』と瑞樹。
『まだまだ戦えるわよ! そして勝ぁつ!』勇ましく梨沙が言う。
「はーも死にたくはないね……全力で戦うよ」
三人は幻獣軍に立ち向かっていく。