惑星久川颯ちゃんのテーマ

 前方にナイト・タイプの天使が三体見えた。瑞樹の声が聞こえる。

『私は正面に出るわ。颯ちゃんと梨沙ちゃんは側面に移動して攻撃をお願い』

「了解です。はーにまかせて」

『了解! さっさと行くわよ颯!』

 ふたりの返答を聞くと瑞樹機がダッシュして天使たちへ近づいていく。颯と梨沙は瑞樹と別れて、敵側面へ移動。三体のナイト・タイプが走ってきた瑞樹機に気づき、剣を振り上げて瑞樹へ突進してくる。

 瑞樹がアサルトライフルを撃ち、ナイト・タイプたちを牽制している間に颯と梨沙は敵の横側へ回り込む。ナイト・タイプの天使は剣による戦いしかしない。攻撃するときは、近寄って剣で斬る、というパターンだけで攻めてくる。剣のリーチよりライフルの射程の方がはるかに長いが、ナイト・タイプたちは律儀に剣による接近戦を挑んでくる。天使たちにとっては、剣を振りかざして斬りかかるという戦い方が合理的で美しいから、そうするらしい。

『やつらは瑞樹さんのほうしか見てないわ。始めるわよ颯』

「おっけー」

 瑞樹にひきつけられている敵の側面から颯と梨沙は攻撃を開始した。トリガーを引き、アサルトライフルの射撃をたっぷりと敵に浴びせる。この攻勢を予想していなかったナイト・タイプたちを殲滅するのはたやすかった。銃弾の雨が敵に降り注ぎ、天使たちは人間には聞こえない声でなにかを叫び、絶命していく。

 人類は天使たちが発する声を聞き取れずにいる。もし聞こえれば、天使たちの会話を傍受して有効な作戦を練ることもできるし、天使の言葉を理解できれば、人間と天使が互いに話し合うことで戦いを止めて、和平のために交渉ができるかもしれない。しかし未だ天使語の解析はあまり進まず、人間と天使間でのコミュニケーションは成立していない。

 対天使戦のはじまりは、天使の代表と思われる背中に六枚の羽を生やした天使が地球語で「いまの人類たちは、我々が予期していたモデルとはあまりに異なっている。よって我々は人類を根絶し、正しい人類を作り直す」という声明を南極にある天使の拠点から発信したことにある。それが天使の最初の呼びかけであり、最後の呼びかけだった。以後、天使が人間に話しかけたことはない。少なくとも前線で勤務している人類軍の兵士たちに天使からの呼びかけを聞いた者はなく、ひたすら殺し合っているだけだ。

 颯がいま殺した天使も、梨沙が倒した天使も、意志を持っているはずなのに、会話が成り立たない。もしかしたら友達になれるかもしれない相手の声が聞こえないというのは、颯にとってはとてもつらいことだった。人類のモデルが好ましくないというのなら、どのような人類になればあなたがたは満足するのか、という質問すらぶつけられない。

 戦術マップを見ると、新たな敵集団が接近中だった。ナイト・タイプが四体、アーチャー・タイプが二体。そして嫌なことにメイジ・タイプが一体見えた。瑞樹から通信が入る。

『メイジがいるけれど、負けるわけにはいかないわ。大丈夫、私たちもずいぶん強くなったもの』

『ふふん、アタシたちは極東最強のチームよ。なにが来ようと勝つ!』

「はい。はーもがんばります!」

 こうした戦いでしか、人間と天使は交われないのか、一緒に過ごす時間をとれないのか。ならば戦場で歌を歌ってみたらどうだろう。アイドルのように。颯は接近する天使たちを見てそう思った。

 天使は地球語で戦いのスタートを告げた。人類は天使の言葉を理解できないが、天使は地球の言葉を操れる。ならば地球語で天使に捧げる歌を歌えば、天使は歌の内容を理解するかもしれない。そこから新しいなにかが生まれる可能性はあるだろうか?

 颯はライフルの残弾数を確認し、仲間と一緒に機体を走らせる。

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