カスからの脱却
「パチンカス」「スロッカス」
それはパチンコやパチスロに無駄なお金と時間を費やし、勝った負けたで、一喜一憂し、地の底に落ちるまでその無駄に気づかない人間のカスのことである。
これはそのカスの一人、高須の物語である。
(フィクションであり、特定の人を批判するものではありません。暇つぶしとして読んで貰えると嬉しいです)
平日の朝、高須は9時に起きると、床に落ちているジャージに着替えた。
インスタントコーヒーを飲みながらタバコに火を付け
「今日も稼ぎますか」と独り言を言った。
顔を洗うどころか鏡を見ることもなく、外に出て自転車を漕ぎ始めた。
向かう先は行きつけのパチンコ屋だ。全くだらしない男である。
高須は今年で33歳になるフリーターで、今まで正社員として働いたことはない。
パチンコで一発当たれば、サラリーマンの何日分も稼げるし、朝から晩まで働くなんて馬鹿馬鹿しいから。
それが理由のようだ。
常識的に考えると馬鹿なのは高須の方なのだが、本人はそれに気づいていない。
晴天を見上げた彼は「絶好のパチスロ日和だぜ」とご機嫌だ。
室内でやるパチスロに天気は関係ないだろうに。
店に着くと空いている席のデータを確認し、※1
自分の中で当たりやすいと思っている台の前に座った。
座ったのはジャグラーという彼のお気に入りのパチスロ台だ。
※1:それぞれの台毎に前日や当日の当たり履歴や確率等を見ることができる。
「これは当たるでしょ」
全く根拠のない、自分の中だけで作り出した当たるパターンと一致するデータを見て、高須は心の中でつぶやいた。
典型的なカスである。
サンド※2に1000円入れ、2000円入れ・・5000円使うまでは彼の気持ちはウキウキだった。
※ 2:お金を入れるところ
ところが8000円使っても当らない頃から段々と機嫌が悪くなってきた。
「なんで隣のおっさんはすぐ当たったのに俺は当たらないんだよ」
自分が当たると思って台を選んだことをもう忘れている。
「ガコ!」という音が後ろの席から聞こえた時振り向いて舌打ちした。※3
※3:「ガコ!」という音は当たったことを知らせるもの(鳴らない時もある)
「あー、後ろのババアも当たりやがった。ふん、どうせレギュラーだろ」※4
※4:ジャグラーには当たりが2種類あって、BIGボーナスとレギュラーボーナスがある。レギュラーボーナスの方が出てくる枚数が少ない。
♪テテテテテテテテテテテテテッテケテー♪※5
※ 5:BIGボーナス確定の音
「くそ!BIGかよ!」
高須は振り向かず小さな声で言った。
他人の当たりを羨ましがるどころか、憎しみまで感じてしまう。それがカスの証拠である。
♪テンテレテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテーン♪※5
※5:BIGボーナス中の音楽
後ろから聞こえて来るメロディーが終わったと思ったら、同じ台から軍艦マーチが聞こえてきた。※6
※6:当たり終了後1回転目で当たると軍艦マーチが流れる。
「ついてんなババア。でもまあ俺だって2回連続でBIGを引けばプラスだし。まだまだ余裕っしょ」
連続BIGが来るのが当たり前のように彼は考えていた。
すると今度は隣の席からベートーベンの運命のメロディーが聞こえてきた ※7
※7:回転数の二桁がゾロ目で当たると通常と違う音楽が流れる
隣の回転数を見ると33回転だった。
「んだよ。おっさんまですぐ当たってんじゃねーかよ。」
「おっさんもババアも当ててんだから若い俺もそろそろ当たるだろう。」
この考えはどこからくるのだろう。しかも高須は33歳。十分おっさんである。
そしてしばらく回すも思惑通りになるはずもなく、結果は15000円負け。
「やっとペカった※8と思ったらレギュラーだしよぉ。やってらんねぇよ。このクソ台」
クソなのは自分である。
※8:当たりを知らせる「GOGO」と書かれたランプが光ることをペカると言う。
たったの1時間程で15000円を失った彼は機種を変えることにした。
当たればハイリターンも期待できるが、その分ハイリスクな台を選ぶ。
「これで大当たり引けばジャグラーの負けなんてすぐ取り戻せるぜ」
ここまでくると救いようのない馬鹿者である。
タラレバはカスの常套句である。
次に彼が選んだのは北斗の拳-強敵 ※9
※ 9:「強敵」と書いて「とも」と読む
「頼むよ〜ケンシロウ」※10
※10:北斗の拳の主人公 ケンシロウが敵に勝つと当たり
他人を頼りにする時点でお前はもう負けている。
「よーし、まずは緑ランプ」※11
※ 11:北斗カウンターと呼ばれるランプが3種類あり、緑ランプが一番当たる確率が低い
「こっから赤も点いてよ〜」※12
※ 12:赤ランプは当たっている可能性がある
期待に胸を膨らます高須だが、この先どうなってしまうのか?
次回につづく・・かも