箪笥の整理は時空を超えた宝さがし
実家の父の箪笥の整理。亡くなってから1年以上経って、やっと手をつけることになった。母は何やら楽しそう。
「こんなに絵の具がいっぱい。お父さんいつの間に買ったのかしら?」「野菜の種が出てきたけど、植えたら芽が出ると思う?」
「こんな写真、いつ撮ったのかしら?」
いつにも増して、1人で話し続けている母。父が亡くなってから、最近やっと元気になった。
「どれどれ。」と顔を近づけて見てみると、父以外の家族全員が揃った写真だった。
そうすると、撮った人物は父?
いつ撮ったのか、私も母もまるで記憶にない。よく見ると、皆の視線はカメラのレンズを見ていないようだ。
こんな場面あったんだね。お父さんよく撮ったね。二人で笑い合う。
これは、仏壇に置いておこう。
「こんなところにあった!」また何やら見つけた様子。ああ、見覚えがある。
「お父さん、その時計ちょうだい。」
私はその時計が気に入っていた。
「これはあかん。」
娘に甘いはずの父だが、このときは「おねだり攻撃」が効かなかった。
早くに逝った伯父さん、つまり父のお兄さんのものだと言う。
「ふーん。」さすがに貰えないな。と諦めたものだった。
代わりにと父が買ってきたのは、なんと熊のプーさんのついた時計!!
プーさんは好きだが、もういいかげんよい年頃の娘にプーさんとは、、、。
父はの常識は、世間のそれとは、かなりかけ離れていた。娘二人をへのプレゼントは、大人になってもたいていチョコレートだった。
車の免許を取りたいと言ったときは「あんな人の命を奪うものに乗るな!」と大反対。時代に合わない、その主張はたちまち退けられたが。
「この時計、私がおねだりしたやつだ。」
そう言うと母は
「それならあげるよ。」
いやいや今貰ってもなぁ。よく見ると、そんなにかっこよくないし。
でも、形見として持っててもいいのかもしれない。
「あ~。私のお絵描き帳。こんな昔のものがとってある!」
それは私の小学校のときのものだった。中には父の日に描いた似顔絵もある。
「下手だね~。」
母は容赦ない。
でも、ほんとに下手だ。また、二人で笑う。
仏壇で眺めているだろう父も笑っているだろうか。いや、笑い転げているに違いない。何しろ
「笑顔でいりゃあいい。笑顔でいさえすれば幸せになれる。」
が口癖だったんだから。
「もうすぐお盆だね。なすときゅうりどうする?」
「そりゃあ、買ってくる。お父さんが帰って来れんといかん。」
時計も直そうか。動くかどうかわからないけれど、母の体内時計はやっと動き始めている。
父の箪笥の整理は時空を超えた宝さがしだ。懐かしいものがたくさん詰まっている。
何より母とのこんな穏やかな時間という宝物つきだ。
そして
亡くなった人との繋がりは、生きている人が忘れないかぎり切れないのではないだろうか。その繋がりは、新しい思い出を今なお、生み出し続けている。
さて
お盆に帰ってきた父に、似顔絵でも描いてプレゼントしようか。