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言いかけた言葉は桜の花となる

空を黒い雲が覆っている
ぽつんと
ひと粒の雨雫

今にも降りだす予感、予感、予感

でも
まだ大丈夫
お互いの顔を見合わせる
言いかけた言葉を飲み込む

言葉はいらない
ここまでの時間がきっと支えてくれる

大きく息をのむ
さあ
行こう

耳に馴染んだ音楽が流れ始める

 
 先日、体育大会が行われました。入学して初めての全校開催です。少女たちはこの2年間、学年開催の行事の体験しかしていませんでした。
全校が注目する中、静かに流れ始める「さくら」の音楽。54年に渡る伝統。かつて映像で観た憧れの演舞です。

春、桜は美しいピンクの花を咲かせます。その美しさに人々は魅力されるのです。桜は一年をかけて、その準備をします。幹や枝、皮の奥まで、木の全体を桜色に染めて春を待ちます。花の色はその末端に過ぎないのです。

少女たちの「さくら」も長い月日をかけて準備したものでした。桜の花が咲き始める様子をピンク色の扇子を使って表現します。しなやかで優しい流れ。周りにそろえた乱れぬ動き。

こだわりは感動を生みます。

直前まで彼女らは、視線や指先にまでこだわり、お互いに声を掛け合って演舞を完成させました。得意な者が苦手な者に自然と教え合いました。うまく踊れなくて、時には涙を流す者もいました。

個人の活動が優先される世の中です。教育は個性を重んじ、それぞれの価値観や感性に寄り添うことを意識することに舵をきり始めています。

これからは指導より援助の時代。

少女たちはお互いに支え合い、自らの演技の質を高めてきました。

こだわりは感動を生みます。

その年その年の演舞があります。花は積み重ねの上に咲きます。多くの種を蒔いた一年目。水をやり、世話をしたニ年目。そして三年目。時間をかけて育ててきたからこそ、じっくり人間関係を育んだからこそ咲かすことのできる花。たくさんの人に支えられていること。こうして日々を送るのとは当たり前で、かけがえのないことであることへの気づき。

そんなさまざま想いが込められた演舞。
今年の桜は優しい色をしています。心を込めて一途に舞うその姿は感動を生みました。
そして人の心を動かします。
だからこそ憧れ、伝統として引き継がれていきます。

この経験を経て、少女たちは前を向きます。今度は自分の桜の花を咲かせるために、未来を見つめます。
苦労して動きを身につけたこと。お互いに教え合い、支え合ったこと。自分らしさを出すために話し合ったこと。

彼女たちが入学してから、すべての行事は中止になったり、大きく変更されたり。制限ばかりでした。当たり前のことが当たり前にできる感謝が溢れます。

すべてを心の糧として、半年後に卒業という人生の大きな分岐点に向かいます。


舞い終わった笑顔の彼女たち
「ありがとう」
自然と溢れる感謝の言葉と涙
きりっと背筋を伸ばして
自分の席に戻る姿は
それその胸に宿る
達成感を表している


降り出した雨
でも
大丈夫
雨の日も風の日も
しなやかに強く
自分の舞を舞う

少女たちの瞳は
希望の光を讃えている

言いかけた言葉は桜の花となり
あま霞晴らすか扇の舞いは

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