山道を2時間半歩く温泉の話
久しぶりに取れた三連休。海を渡るには短く、型通りのリゾートもつまらない。
それならたまには歩いてみようか。
選んだのは日光、奥鬼怒の手白澤温泉。最寄りの駐車場から歩いて2時間半の場所にある。
車を停めて林道に進むと、竿を振るう人が目につく。岩魚が獲れるそう。「体長20cm以下は放流」と書かれた看板をあちこちで目にする。
林を抜けて澤に入る。もしこれから向かう人がいたら平らな道のりだから特別な装備はいらないけど、靴と雨具、リュックは防水を勧めたい。
橋を渡って、蔵を抜ける。
それから、しばらくゆるい坂を登れば宿に着く。看板犬のガクくんが迎えてくれた。
荷物を置いて温泉へ。
窓が開け放たれた内湯はサッシが額縁のように緑を切り取る。お湯は力強く、浸かるだけでじわあっと疲労が取れていく。
見渡すとシャワーもカランもない。源泉がとめどなく溢れるからいらないそうだ。
何度目かの入浴で、四季折々に訪れる男性に旬の時期を伺った。春には春の、夏には夏の良さがある。冬も格別。でも、もし季節をひとつしか選べないなら秋がいい。山の秋は早いから街の紅葉の少し前に。
「ご夕食のお時間です」
部屋で横になってまもなく声が掛かる。
リストを開くとビオワインが並ぶ。ロワールのソーヴィニヨンを空けてもらう。網戸を抜ける風も相まって心地いい。
料理は前菜5種・魚・肉・米・デザートのコース仕立て。山菜や燻製、鹿肉をならべた一皿目からワインが進む。
庭の生け簀に放されてた岩魚は塩焼きで。
丁寧な火入れの牛ヒレもいただく。
セルフサービスのコーヒーでひと息ついて、部屋に引かれたふかふかの布団で眠る。
翌日は日本で一番の高所にある沼、鬼怒沼湿原へ。宿から片道4時間ちょっと。地図を片手に歩く。
途中で小雨が降り出して、山頂に着くころには霧に包まれていた。残念だけど足早にくるっと見て回る。
先日とは異なる品揃えの夕食を美味しくいただいた後、星を見に玄関へ。
晴れた夜は天の川も見えると伺った。
浴衣には肌寒い風も、鈴虫の音も、東京に秋が近いことを教えてくれた。
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