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シリーズ 日韓請求権協定 個人請求権は残っているって本当!?

1965年に締結された日韓請求協定によってそれ以前の請求権は全て清算されたが、いまだに「完全かつ最終的に解決したのは国家間の請求権だから、日本は原告に補償すべきである」という声が根強い。今回は「個人請求は残っているのか、残っていればそれはどのような権利なのか」をテーマに解説いたします。

「個人請求権」とは

韓国側の主張で「日本は国会で『個人請求は残っている』繰り返し答弁してきたではないか」というのをよく耳にします。根拠にしているのが以下の国会答弁です。

いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます

(第121回国会 参議院予算委員会 外務省柳井俊二条約局長の答弁 91年8月27日)

条約により「外交保護権」は放棄したが、「個人請求」は消滅させていないという説明です。じゃあ「個人請求権には何が含まれるの?」「個人請求権ってなに?」ってなりますよね。韓国側は個人が無条件に補償を受けられる権利と理解しているようですが、果たして本当にそのようなものなのでしょうか。言葉の定義をしっかり確認しましょう。柳井局長は別の答弁で「個人請求権」をこのように説明しております。

先ほど申し上げましたとおり、日韓間においては完全かつ最終的に解決しているということでございます。ただ、残っているのは何かということになりますと、個人の方々が我が国の裁判所にこれを請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおいて、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは、これは司法府の方の御判断によるということでございます

(第123回国会 衆議院外務委員会 第2号 外務省柳井俊二条約局長の答弁 92年2月26日)

つまり「個人請求権」とは日本の裁判所に訴えを起こすことであり、決して無条件で支払いを認めるという権利ではないということです。少し考えたら当たり前ですよね。裁判を起こせば必ず原告が勝つ権利なんてこの世にはありません。日本の最高裁も個人請求権について以下ような判断を示しております。

(3) そして,サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄の趣旨が,上記のように請求権の問題を事後的個別的な民事裁判上の権利行使による解決にゆだねるのを避けるという点にあることにかんがみると,ここでいう請求権の「放棄」とは,請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく,当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまるものと解するのが相当である

(西松建設事件 最高裁判所第2小法廷 2007年4月27日 判決)

ちょっとややこしいですが、「請求権の放棄」とは個人の権利を消滅させるという意味ではなく、日本に対して裁判を起こし「その訴えを認める」という権利を消滅させることであると最高裁は説明しています。つまり92年の行政と同じ説明を司法が繰り返しているのです。


実は韓国も個人請求権を理解していた

1962年に韓国から「対日請求要綱」というものが日本に提出されました。簡単に言うと請求書をベースに離婚の財産分与が話し合われたというイメージです。この対日請求要綱には下記のような項目があります。

第6項 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及び法人)に対する権利の行使に関する原則。

対日請求要綱

この請求項目について会談で以下のようなやり取りがありました。

日本側:この会談は私的請求権を含む問題を処理することを目的としているものである。他の要網で私的請求権が排除されておれば問題はないが、要綱の多くは私的請求権を含んでいるので問題がある。

韓国側:韓国側としては、請求権のあることを認めろというのではなく、請求権が成立つかどうかを含め、日本なり韓国なりの数判所で審議される権利を認めて貰いたいということである。要綱第1項ないし第5項に属するものは私的請求権でも韓国政府が代理して片付けるので、これらは主張自体ができなくなる。これに属していないものは、主張はできるがそれを認めるか否かは裁判所が判定にするといういわば説明的条項にほかならない。

『日韓会談における韓国の対日請求8項目に関する討議記録』

韓国は「日本の裁判所で審議することを認めてほしい。徴用工問題は韓国で処理するから個人が主張すること自体出来なくなる」と説明しておりました。


請求権協定は人権に基づく解決方法

さらに韓国側は以下を援用して「日本の言い訳は国際人権規約、国際法違反である」と反論しています。

第2条
3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。
(a) この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。

第8条
3(a) 何人も、強制労働に服することを要求されない。
(b)(a)の規定は、犯罪に対する刑罰として強制労働を伴う拘禁刑を科することができる国において、権限のある裁判所による刑罰の言渡しにより強制労働をさせることを禁止するものと解してはならない。

国際人権規約b規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)

この規定により韓国側は「日本に強制労働させられたのだから、日本が賠償責任を負わなければならない」と主張しています。しかし人権規約にはこのような規定があります。

第2条 1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。

国際人権規約b規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)

この条項は「締約国は、国内の個人の人権を尊重しなければならない」と説明しています。つまり韓国国民は、韓国政府が補償しなければならないという事です。日韓請求権協定は個人補償以上の経済援助を提供し、国民の問題はそれぞれの国で解決しましょうと合意した条約です。人権規約が人権のルールブックなら、請求権協定は人権を重視した解決方法であると言えます。


まとめ

・「個人請求権」とは裁判を起こす権利
・「個人請求権」とは訴えを認める権利ではない
・個人が補償を受ける権利は消滅していないが、日本が補償する義務は消滅している
・韓国は個人請求権を理解していた
・日本は国際法を遵守している
・請求権協定は人権に配慮した解決方法

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