《Ghost have a poor eye sight》作品評 by T.N
今から40年以上も前だろうか、祖父母の家が近くにあった千束八幡神社、その秋の例大祭には移動式のお化け屋敷が出ていた。40年というと大昔のようだが、既に東京ディズニーランドにホーンテッドマンションができていた時期でもある。
小学生ながらも屋台に近いお祭りのお化け屋敷は子供だましだろうと考え、貴重なお小遣いはソース煎餅や型抜きなど別のものに使っていた。ただ、それでも入ることのなかったお化け屋敷はその毒々しい看板とともにいまだに心に片隅に印象として残っている。
前田梨那の"Ghost have a poor eye sight"は、作家自らが額装した黒の枠の中に、黒い紙を地としてはモノクロ写真が据えられたミクストメディアの作品である。最も人目を惹くであろう写真の主題として浴衣を着た二人の人物がいるのだが、そのいずれも顔が白く塗りつぶされ表情を読み取ることはできない。塗りつぶされた顔はジョン・バルデッサリも用いていた手法であるが、鑑賞者を生理的に不安にさせる。
日本人が日常的につけるマスクを欧米人は気味悪がる、以前から言われていたことだがコロナ禍でより知られるようになった。これは使う顔文字からも分かるように欧米では口元で表情を読むためにそれがマスクで隠されると不安になる、逆に日本人は目元で表情を読むためサングラスで隠されると不安になると言われている。いずれにせよ、洋の東西を問わずに生物の本能として表情が隠されると人は不安を抱くのである。その観点で塗りつぶされた顔を中心に外側に目を向けていくと、死者が着るとされる左前の浴衣、モノクロの写真、"She shattered her time."の文字、黒い枠、そしてタイトルの"Ghost"、全てが鑑賞者を不安にさせるギミックとなっている。仕掛としてはチープではあるが不思議と印象に残る、自分にとってはお祭りのお化け屋敷のような作品である。