【手紙】前田梨那「tide land」 by M.I
東京都文京区にある現代アートギャラリーaaploitにおいて、前田梨那の個展「tide land」 が催されている(会期:2023/07/07〜2023/07/30)。
前田の制作における主軸には「自己と他者との境界」にある。事実、写真を撮影する行為についてはあまり関心がないと前田は語っていたように、写真を制作するプロセス段階での試行錯誤が、自身の問いに対する答え探しのように感じられた。
たとえば本展のタイトルでもある≪Tide Land≫では、暗室作業によってプリントした印画紙を撮影したのち、デジタルネガを作成し、元のネガと密着プリントによって表象していた人物を不明瞭にしている。最終的に表象するのは、原型を留めない人物らしきシルエット=外型が浮かび上がる。
こうした行為を行うことについて、前田は暗室作業による不確実性や偶然性に興味があるという。自らの手作業で完全にコントロールできない暗室作業は、ある種の魔術的なプロセスに期待しているのではなかろうか。
「私」という人間性は「他者」との差異を比較することによってのみしか、知る由はない。もしこの世界に元々私という人間しかいなければ、「私」という人物像を理解する必要はないのである。他者との優劣を比較することによって、特定の人間の外型が作られてしまうのだ。
前田は自身の制作を通じて、「私」という人間、つまり「前田梨那」という人間と他者との差異を探ろうとする一方で、外型までにしか踏み込めない「境界」が潜んでいるように作品からは感じられた。いわば、自らがあえて「境界」を作りだしてしまっているかのように。
やがてその境界が消失したとき、前田の目にはどのような世界が待っているのであろうか。現代を生きる「前田梨那」の生き様を知る証人の1人として、足を運んでみてほしい。