ギャラリーaaploit― 道又蒼彩 個展「Own pace」作品について by p
ギャラリーaaploitで開催されている道又蒼彩個展「Own pace」の作品は全て木版画である。リトグラフやシルクスクリーン、エッチングなどの版画作品を目にした事があるが。道又は2000年生まであり、そのような若いアーティストの木版画作品を目にしたのは初めてであった。
ギャラリーには12点ほどの作品があったが、その全てが鑑賞者が舞台の客席からステージを見ているような構図で、背景の手前にステージがありその上や下にいる人物たちには動きが感じられ、アニメのワンカットを見ているようにも、イラスト画のようにも見える。また一色に見える箇所を接近してみるとオレンジやグリーンのインクの重ねが見て取れ、木版画らしさがじわじわと伝わってくる。筆者は特にスモーキートーンの柔らかいインクの色使いが道又版画の魅力とも思っている。ギャラリー正面にある『カフカの階段♯1』作品の、山並みなのか田園風景なのかわからないがその背景の美しい色の組み合わせに見入ってしまった。
だが道又にとって重要なのはその作品の中のステージの上にいる女性たちの関係性にあるようだ。作品タイトルの『カフカの階段』とは、社会活動家生田武志氏が提示した概念で、野宿生活者(ホームレス)がそこに至るまでの一段一段降りていくのは簡単だが逆に登って上に戻るのは不可能に近く、そのような人生の理不尽さを表しているという。
作品『カフカの階段♯1』のステージ上の女性三人はカフカの階段の上部にいる者、いわゆる人生の成功者とそのフォロワーらしい。
道又作品のユニークなところは、背景の雲やステージの影の部分などに、和風デザインの雲形や網代柄を使用しており、木版画ということもあり、浮世絵とリンクしてしまう。江戸時代に刷られた美人画が当時流行柄の着物を纏い季節の花を鑑賞する版画が浮世絵ならば、『カフカの階段♯1』は2023年の浮世絵なのであろう。現実には存在していない「カフカの階段」という妄想のステージの上でフォロワー数という実態のない単なる数字で人間の価値を競うこの浮世を表現している版画である。この浮世をどのように捉えるべきか道又版画を見て思う。江戸時代から数百年たちわれわれは何が変わり、われわれは何を守り生きてゆくべきなのか。