aaploit の2024年
昨年に引き続き、2024年の aaploit の活動を振り返っておきたい。
2024年も毎月のように展覧会を実施してきたが、今年大きく変わったのは、アートフェアに参加したことと、海外で展示をしたこと。自身で管理しているスペースだけでなく、外部のスペースで発表するということを経験することができた。冒頭に総括をしようと考えたものの、それぞれを時系列に振り返っておきたい。
2024年のスタートは、岡田佳祐の「地球の音と色の距離」を開催した。
東京藝術大学の大学院、油画技法材料研究室に所属している現役の大学院生。岡田佳祐の作品を初めて見たのは、2023年の東京藝術大学の卒業制作展、油画の内覧会だった。大きな作品と岩石が並べられていた。聞いてみれば、岩石を砕いて、顔料を作っているという。それだけでは欲しい色が得られないので、様々に工夫しているということを教えてもらった。一通り話を聞いた後で、展覧会をオファーする。実際に展覧会を開催できたのは最初に会ってから1年後になった。何度か打ち合わせを行い、アトリエにお邪魔した際に、ごはんもごちそうになった。岡田佳祐は様々なコミュニティに関わっていることが分かり、豊かな体験を重ねているのだと思った。
展覧会の内容については、個展であるため、岡田佳祐のやりたいことを優先してもらう。ギャラリーの壁という壁に作品を提示し、それまでで一番の作品点数になった。
ギャラリーからは架け替えを提案した作品が一点あったが、話し合いの末に、期間中の展示替えとして落ち着いた。実際には、架け替えを提案した作品がコレクターにお買い上げされた。展覧会の全体の雰囲気としてはその作品は浮いていて、そのために架け替えを提案したのだが、そのようなことは時としてギャラリストのエゴになるということを学んだ。アーティストとコレクターを結ぶのがギャラリストの役割、アートとの出会いとは何かということを再考するきっかけとなった。
2月の展示は韓国拠点のアーティストLee YeRim の個展を開催する。
2023年から先方の韓国・ソウルのギャラリーと企画を話し合い、何を見せるのか、どのようなメッセージを込めるのかを協議してきた。韓国のギャラリーは国際的なアートフェアの出展経験もあり、いろいろと教えられることも多かった。Lee YeRimは展覧会前に実際にギャラリーを訪れて、展示空間を見た。そこで打ち合わせも行い。aaploit は、ただ作品を並べるだけでなく、展覧会は何かを伝える場であることを重視していることを話した。絵画展であるからこそ、作品それぞれだけでなく、展覧会に通底する考えを示したいと思う。
英語でコミュニケーションをとりながらのインストールも初めて経験する。本業で使っているボキャブラリーと違うこともあり、なかなか戸惑う具合だった。Lee YeRim は、2025年にも世界的に展示を行う計画がある。aaploit でも継続して紹介していきたいと思う。
3月は1ヶ月の展示期間をとって植松美月の『月に浮かぶ、』を提示した。
2023年の野村美術賞受賞記念展に続く二回目の展覧会となった。二回目の展覧会を実施するのは初めてのこと。
植松美月の作品は作品そのものの提示と、それに注入するアーティストの行為がポイントだろうか。一月、ナンバリングされた作品を毎日掛け替える。鑑賞者が居ない間もそれは儀式のように繰り返した。植松の行為の痕跡は作品にあるが、その奥側にまで踏み込まないと得られない解釈があるだろう。
テラスアート湘南アワード2023受賞を受けたArtStickerのインタビューも、この展覧会期間中に実施した。
4月は道又蒼彩の二回目の個展があった。
道又蒼彩の二回目の展覧会、居場所をテーマとして提示する。道又蒼彩は1月に表参道で大作を発表していた。2023年の最初の個展、表参道の個展から繋がるような展覧会、企業はゴーイングコンサーン(継続企業の前提)として会社が継続していくことを前提としている。ギャラリーについても継続していくことが重要だと考えるが、ギャラリーだけでなくアーティストとの関係も継続していくことが重要だと考える。一過性の展覧会もあるが、やはりアーティストとは、長期的な関係性を持って展覧会を発表していきたい。
表参道の大作は、アーツ前橋に収蔵されることが決定した。昨年の夏から始まった展覧会の企画、準備と並行して美術館へのプレゼンなど、いろいろと大変だったけれど、だからこそ前橋市での作品寄贈式は感慨深かった。
5月は井上ゆかりの『育てる絵画』を実施した。
井上ゆかりは銀座のギャラリーで個展を重ねていた。神楽坂・江戸川橋エリアにあるギャラリーで展覧会をやってみたい。ということで、熱烈なアプローチを受けた。CVとポートフォリオと参加型の絵画制作プロジェクト《育てる絵画》を見た。井上ゆかりはベテランであり、コンペでいくつも賞を獲得している。彼女の作品を、展覧会を企画するとは、どういうことか。それを経験してみたいために展覧会企画を受けた。開催まで一年くらいの期間があった。久しぶりの東京での個展ということもあり、旧知のアーティストや、コレクターが見に来てくれた。
5月にもうひとつの展覧会、山田彩七光 の個展『traces』を開催した。
aaploit は入り口が四枚ガラス引き戸であり、展覧会の様子は表の通りから全て見える。その入り口を遮光フィルムでカバーした。ギャラリーによく来る方も「超絶入りづらい」という珍しい感想をもらう。この展覧会では山田彩七光が参加する東京藝術大学の陳列館とオンラインで接続し、リアルタイムの映像とギャラリーに提示した映像作品とを混在させた展示空間をプレゼンした。そして山田早七光はキヤノンマーケティングジャパンが企画するGRAPHGATE展2024で佳作を獲得した。
6月は写真展、神威 惟明 の『Squares』を開催した。
今までで一番の作品点数だろうか。初めて外部のインストーラーによる展覧会作りとなる。手際のよさ、仕事など、学ぶことが多かった。
7月は韓国・ソウルで aaploit が企画するグループ展を開催する。
ソウルのCOLORBEATとは、2023年のFRIEZEで初めましての挨拶を交わす。そこで打ち合わせを行い、2月の Lee YeRimの個展、7月のaaploit 企画のグループ展へと繋がった。
作品を海外へ送る、海外のギャラリーでインストールを行う、ギャラリー提携の交渉などもあり、様々な経験を積むことができた。
韓国のアート系ネットメディアが取材を行ってくれて、とても丁寧なレビューを掲載してくれた。展覧会レビューに加えて、オープニングに参加した糸川円のインタビューも掲載され、注目度は高かったと思う。
並列で企画と準備が進む。ソウルのグループ展がスタートしたら、aaploit では初めての二人展の準備が待っている。
乾幸太郎は京都芸術大学の修了制作を見て、安村日菜子は広島市立大学の修了制作を見て、とても引っ掛かりがあった。今年の展覧会では卒展・修了展で見た作品、アーティストをグループ展で提示しようと考えていた。
安村日菜子の漂着ごみを集めて形を作る作品と、乾幸太郎のテキスタイルの組織を見せるために不可逆的にストレスをかけ形を作り出した作品とを見せたかった。
夏の展覧会はグループ展が続く。辰巳寧々、ダーヤマ佰彩、永原直輝の3人展を開催する。
辰巳寧々は東京藝術大学で修了制作を見た。絵画棟の一部屋に、それこそ床にまで絵を展開する。キャンバス、紙、支持体を選ばずに展開される作品が面白いと思った。経歴も、指導教授も、所属ゼミも、同級生も何かと話題のアーティスト、ソウルのグループ展にも作品を出してくれた。
ダーヤマ佰彩は、薬を包むPTPシートでイラストに色合いを添える。積層されたボードにPTPシートが張り付いた作品は、物体的な強さがあり、イラストは不思議な魅力を持っている。ダーヤマ佰彩の作品は2023年の多摩美の卒業制作展で見ていた。その後の活動も見守っていて、とあるタイミングで展覧会のオファーをした。ソウル展にも作品を出してもらい、先の韓国のアート系メディアでも注目されていた。
永原直輝は武蔵美の芸祭ではじめて作品を見た。病理的なモチーフと機械学習による画像生成から作品制作をしている。リンシードオイルを画面に盛り付ける制作方法をとっている。当然ながら乾かない。それでも、しばらくすると固まってくる。そうしたことを繰り返して作品制作を行なっている。輸送途中に壊れることもあるという。そうした脆さも含めて精神性を表しているということだろうか。乾いた作品は堅牢さを見せていた。
9月もまた忙しくなる。申請していたAFAFで展示をすることができた。aaploit が初めて参加するアートフェア、事務局との連携、出展ブースの展示構成などを考える。ギャラリーの個展はアーティストの発表の場、新作だったり、アーティストが取り組んでいることを発表する場。一方で、アートフェアはギャラリーの発表の場。ギャラリーがどんなプレゼンテーションをするのか、そうしたことが問われると考える。
AFAF は期待するほどの結果にはならなかったけれど、新たな、いろいろな出会いがあった。そして、出店していた他のギャラリーと挨拶もできたし、情報交換もできた。ネットワークを広げる効果はあったと思う。こうした露出が増えることが一因だと思うが、月刊アートコレクターズからも取材を受けるようになった。
ブースに立って作品の説明をする。来場者はアートを見に来ている。コレクションを始めようと考えている。アートが買えると思っていなかった人や、買うつもりで見に来ている人もあり、様々な人があった。
アートフェアはいろいろと見ていたが、会期を通じてアートフェア会場に居ることはなかった。オープン前の準備、後片付け、いろいろ舞台裏が見られたのもギャラリーを始めたからこそだと思う。
アートフェアに作品を出してくれたアーティストに感謝、半分以上のアーティストが美術館での展示あるいは収蔵の経験がある。2年半のギャラリーで、こうしたグループ展ができるのは誇らしかった。
そんな折に植松美月のアート・イン・ザ・オフィス受賞の報告が入る。
関係者だけが招待されるプライベート・レセプションに参加し、松本会長とも挨拶ができたし、様々なアート関係者ともネットーワーキングすることができた。単純な招待客ではなく、植松美月作品を取り扱っているギャラリストだからこそだと思う。受賞した植松美月へのお祝いと感謝とをゆっくり伝えられないほど、当日はバタバタと充実した時間を過ごすことができた。植松美月の方が忙しかったのは言うまでもないことだけど。
9月の後半から大越円香の個展『Binocular Data Visualization』を開催した。
大越円香の作品はIAMASの修了制作展で見ていた。テクノロジーがどのように習慣を変えるのか?そうしたことに関心を持ち、作品制作を行い、提示して見せている。
メディアアートの展覧会、大型のディスプレイを並べた展示空間は、いつもと違った雰囲気を商店街に露出させていた。
大越円香はDNPコミュニケーションデザイン社によってカレンダーを制作し、そのカレンダーが日本印刷産業連合会・産経新聞社主催「第76回全国カレンダー展」第3部門で金賞を受賞した。加えて経済産業省大臣官房商務・サービス審議官賞を受賞し、W受賞となった。
カレンダーという機能をもたらされているものの、ポスターのような大判の美麗な印刷、さすがだと思う。
10月は春名真歩の二回目の個展『現実』を開催する。
個展は春名真歩の新作を中心に提示する。在廊も aaploit の展覧会としては多く、オープニングとクロージングに在廊していた。春名真歩は、ただ在廊しているのが苦手なので、ひたすらドローイングをする。水彩紙に、オイルパステル、水彩、油彩と様々な形と色を表していた。鑑賞者も絵を描いている人が多かったように思える。
11月はインターバルを経て、秋場康平の個展『まなざしの境界』を開催する。秋場も中堅のアーティスト、日本国内よりもパリでの展示の方が多いアーティスト。反響が多くあり、「なんで展示が決まったのか?」という質問も多かった。出会いは様々、質問者の意図が他にあるのかは分からないけれど「Instagramでやりとりをした」という回答にしかならなかった。
不思議な魅力のある秋場康平の作品、ギャラリーの近所にホステルができた影響か、スーツケースを引いた外国人が多くなった。ギャラリーの窓越しに鑑賞し、数ヶ国語で感想を言っていく光景をよく見かけた。
年末に韓国のギャラリーのファーストコレクションショーのインストールを実施し、2024年のすべてのインストールを終えることになる。
aaploit の展覧会は12回、ソウルの展示は2回、アートフェアと表参道の展示の撤収、コレクターからの依頼を受けてのインストールと、2024年も新しい経験を得ることができた。作品に関する問い合わせは展覧会以外が、展覧会の会期中と同じくらいに多くなった。ギャラリーのビジネスとしては、まだまだこれからだけど、アーティストから受賞したという報告を聞くことも幾度かあった。
グループ展、アーティストの二回目の個展などを実施しているうちに、もう少し広いスペースが欲しいと考えるようになる。今はギャラリースペースとは別に倉庫を借りているが、これだと取り扱いアーティストの作品を見たいというコレクターに対応が難しい。そんな折に江戸川橋駅の近くに手頃な物件がでた。
ビジネスとしては投資回収を考えるべきで、今のスペースで2年半という期間だし、リソースを使い潰しているとも言い難い。まだまだ引越しは早い。けれども、スペースを広げることで実現できることも見えてきた。次の物件はオフィスビルの2階、現在の商店街にある路面店からは露出は減るが、より没入できるスペースになるはず。
年明け早々に内装工事が入り、2月に柿落としの展覧会を開催する。どのような展開がまっているのか、予測すらできないけれどもaaploit は、これからもコレクターに育てられながら、アーティストと二人三脚で歩んでいきたいと思っている。