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2003_横浜のお嬢様part2.../後編 第20話~30話
Part2 の合本で、総文字数は約19,000です。所要時間は、約40分です。
part2 後半のあらすじ
2002年に幸田グループでは、女性の社会的地位向上の社内制度として「育児支援制度」に取り組んでいく。その結果、優秀な人材が入社し、業績も上がって行く。
一方、耕一は社内の魅力的な女性達と次々と浮名を流しいく。
麗華は、育児支援の一環として、幼稚園や福祉施設の設立を実行に移していく。
そんな中、横浜みなとみらい地区のプロジェクトに参加することに。麗華はそこに美術館をと提案し、耕一が社内に建設部を創設し、それを率いる事になる。
幸田グループの介護付き有料老人ホームや現代美術館がオープンしていく。
20.デートは奥様同伴
登場人物(2005年時点)
幸田麗華 ワイン専門店コウテク社長 1976年(29歳)
幸田耕一 幸田商事 施設部長 1970年(35歳)
白川萌奈 大手住宅会社 支店 建築担当事務 1974年(31歳)
岸野友一 大手住宅会社 営業所 営業 1971年(34歳)
神田 満 ライバルワイン専門店 部長 1960年(45歳)
吉田香織 ライバルワイン専門店 課長 1972年(33歳)
週末、山の手通りの幸田家の書斎で、麗華・耕一とライバルワイン店アイテカの吉田香織が話し込んでした。
麗華「大体、話は分かりました、でもそう思っている人は、香織さん以外に多そうね...」
香織「そうですよ。皆言ってますよ...」
耕一「そうなると、香織さん以外でも転職したい人は多そうだね...」
麗華「分かりました。こちらも前向きに検討しますね。でも、ライバル店だからね、少し慎重にね...」
耕一「ある意味、今結ぼうとしている協定も反故になる可能性もある...こう言うのは、ダメかな。いきなり、内に来るのじゃ無くて、一度Dハウスへ入り、2^3年後に内にくるのは...」
香織「ええ、それなら、大丈夫です...」
麗華「それなら、そのまま、内に派遣して貰うとか、出来るよね...」
そんな話で先ほど、香織は帰った。そのまま、二人は話している。
耕一「それにしてもね。これはちょっと...、社長と会長に話をしたほうが...」
麗華「お父さんは、今海外旅行だから...帰国後にするとして、来週江戸社長には...」
翌週、麗華と耕一は江戸社長の部屋に来ていた。
先週末の香織の話をすると
江戸社長「取り扱いが難しい話だね。パワハラやセクハラについて、外部から他社が、それも競合他社がクレームを付けるのは...その当事者の従業員を引き抜いたとも言われかねない。だから一端Dハウスを経由するのは、有りだろうが...」
麗華「だからといって、そんな話を知らぬ顔も...」
耕一「難しい話だね。大体、そんな会社は、将来下降線になるか破綻するよ...」
江戸「会社は閉鎖的なムラ社会だからね、表に出てこない方が多いと思うけどね。ある意味、ウチが革新的で先に進んでいるから、そう見えてくるとも言える」
麗華「知らぬ存ぜぬなんですか...」
耕一「これが、一般家庭なら、色々と社会福祉とかあるけどね...将来性は無いね、アイテカはいずれ自滅するか…減退期へ...」
江戸「自業自得かと...」
耕一「香織さんらの件は、Dハウスの飯島取締役にお願いいますよ...」
江戸「そうしてください」
麗華「釈然としませんが...」
耕一「麗華さんが、正しいんだけどね...」
その日の話し合いはそれで、終わったが、後日大介が帰国し、麗華はその話をした。
大介「そんな話は何処にでも聞く話だからね、麗華が大げさだと言われるだけだろう...どうしてもというなら、輸入ワイン協会のメンバーで、社長は知っているから、それとなく話しても良いが、江戸社長や耕一君は何と…」
麗華は二人の対応について説明すると、大介は頷く。「それが、常識的な判断だろうね」と。
結局、香織はDハウスへ転職した。競合アイテカの店舗展開のスピードは低下し、幸田商事のコウテクが先んじて、店舗展開を進める結果となった。
転職した香織から耕一に連絡があり、会うことになった。
香織「お世話になったので、皆さんに御礼を言いたくて...」
耕一「いや、良いよ。Dハウスはどう...」
香織「忙しいですが、前のような事はありませんね」
耕一「そうだろうね、今じゃ日本一位の売り上げを誇る最大手だからね」
香織「今晩は私の奢りで...」
耕一「そうなんだ、じゃー美味しいお酒になりそうだ...」
香織「あの一つ、質問しても良いですか。あんな美人の奥さんが、どうして耕一さんと結婚して、しかも浮気までされて、怒らないんですか...」
耕一「それは、話すと長くなるから...今晩、帰れないよ...ふふふ」
それが、2005年6月の出来事だった。
21.ユーロから飛び級
結局、あの晩耕一は香織とシンデレラリバティの午前2時朝まで一緒にいて、帰宅した。
山の手通りの家の通用門から忍び込むように、家に入ると、こそこそと2階の寝室へ行くと鍵が掛かっていて入れない。
頭にきた麗華が、耕一を寝室から閉め出したようだ。
仕方がないので、自分の部屋のソファで寝た。
翌朝、気が付くと麗華が腕組みをして、耕一の頭の前に腕組みして睨んで見下ろし立っている。
麗華「昨日は大分遅かったわね、誰と一緒に居たの...」
耕一「ああ、野島オーナーだよ」
麗華「ふーん、どうだか。どうせ女でしょ。新しい女は誰?」
耕一「だから女じゃないよ」
麗華「どうせ、その内分かるから、良いわ...」
と捨て台詞を残して、食堂へ行った。
やがて麗奈と耕介がやってきて、朝の挨拶をして、遊んでとせがまれた。その日は、それで済んだが..,。
翌週、江戸がゆかりを9月に帰国させると麗華達に知らせた。
子会社の日仏食品ワインビジネスサポート部の課長のポストを用意するという、係長を飛び越えての昇進で、社内では驚きを以て受け止められた。
麗華「飛び級昇進は、社内で初めてじゃない。凄いね、それだけの実績と今後の期待があるのね...」
耕一「ユーロでワイナリーの開拓とスポット契約の大口を幾つも決めたからね」
江戸が日仏食品ビジネスサポート部課長のポストにゆかりを据えたのは、既にSNSやデジタルマーケティング(DM)が本格化し、それ抜きでシェア拡大はあり得なかった。
麗華・耕一のワイン専門店と両輪で進めて行かなければ、シェア拡大は望めないし、今が勝負時と見た
ゆかり「帰国しました。また、よろしくお願いします」
麗華「お帰り、社長に口添えしたからね」
耕一「DMのリーダーとして活躍すれば、直ぐに部長職もあり得ますね」
ゆかり「役職は兎も角、やらなければならないことをやるだけです。スタッフの補充もリスト作ったので、決済お願いします」
ゆかりのDM部は16名を目指した。現在8名なので、倍増である。
3週後、4名が採用された。その中に、木名瀬 愛が居た。理科大の情報工学科を出て、大手IT企業で働いていたが、休日も無く働く職場に嫌気が差して、転職してきた。
面接で、江戸達の質問に的確に明るく受け答えしていたのを、麗華も耕一も良く覚えている。
江戸「当社のどういう所に魅力を感じましたか...」
木名瀬愛「はい、育児支援制度です。これからの企業に一番必要な倫理性や社員への愛を感じました。御社なら、従業員も会社を大好きになり、頑張れると思います」と、言っていた。
正に幸田商事の意向を正しく理解している。
この娘なら、ゆかりの右腕になるだろうと。
ゆかりも同席していて、幾つか質問をしていた。
面接最後の愛の質問は「もし残業をしなければならない場合は、残業命令ですか…」
ゆかり「基本的に残業をしないで業務を完結するスケジュール管理をします。もし、残業をしなければならない場合は、管理者と担当者で協議して決めますが、普段から残業をしない業務を目指してください」
麗華も耕一もゆかりと同じ事を普段から部内で進めている。
残業して、効率は落ちるし、健康も低下する。
良いことは何も無い。
もし、残業が出るなら、その業務量はどこか不具合があるか、メンバーを増員する必要があるのだろう。
その補充で、DM部は加速した。
2005年10月の出来事だった。
22.女子社員の復職を整える
ゆかりは、デジタルマーケティング課の設立を麗華に相談した。
単なる販売サイトだけでなく、SNSを有効に活用する。
#やイイネなどの口コミからバズる売り上げは売り上げに効果が大きく 、その点をサイト構築に取り入れることにした。
麗華「良いと思うわ。ネット上の#やイイネを売り上げに絡めていくのは、必要よ。社長へ上げるから、企画書お願いね…」
ゆかり「2^3日で提出します…」
麗華「木名瀬さんは、どう...」
ゆかり「段段、慣れてきましたが、優秀ですね...」
麗華「最近、ウチの旦那がそっちへ良く行かない...」
ゆかり「はい...たまに打ち合わせと言って来ますが...」
麗華「本当に、そうなの...」
ゆかり「...まあ...」と曖昧な返事をする。
最近、自分が飛び級昇進したのは、耕一が強くプッシュしたことも多いという噂を聞いたからだ。
だから耕一の悪い癖に目くじらを立てたく無かった。
そもそも耕一は、ゆかりの所で一番話をしていくので、悪く言えないし、以前より友好な関係になりつつある。
ある意味、麗華の旦那でなければ、恋人にとも一瞬思い、自分で慌てた。
麗華「なら良いわ...」ゆかりが耕一を庇っているとも思わずつぶやいた。
麗華にはもう一つ懸案があった。
長女の麗奈が5歳、長男の耕介が3歳、次男の翔が1歳になったが、キャリア復帰で子供達の保育や幼稚園が問題になった。
やはり女子社員が育児から復帰する際の懸案は子供の保育・幼児教育だ。
小規模でも会社で付属の保育・幼児教育施設を設けたいと考えた。
大介・愛子に相談したら、賛成してくれたので、準備室を設けた。
Dハウスへ転職した吉田香織を幸田商事へ戻して、室長にした。
更にその教育経験者を2名公募した。
その3名で、2年先の2007年4月開園を目指して、準備を進めた。
出産・育児から復職する障害の一つが、幼児の保育や子供の育児を誰に任せられるかということであり、世間では待機児童という問題が大きく取り上げられていたが、麗華はこの問題にも幸田グループとして、取り組む事を役員会議に掛けた。
麗華「この問題を解決しないと、女性社員達の復職はスムーズに進みません。本社のそばと市街地の2カ所にそれぞれ設けることを提案します」
大介「優先的に当社社員が対象ですが、近隣住民や一般の方へも対応することにします。設立から数年で黒字へ転換できるようにします」
他の役員からは、その園の明確な教育方針について、質問があったが、採決され実施へ移行された。
役員会議の決定を受けて、準備室は吉田香織をヘッドにして、萌奈が建築担当者として、基本設計から設計監理まで担当した。
特に2ndと呼ばれた、郊外型は楕円形にして、その中央と屋上を園庭にして、既存の欅の大木も残して、子供達が自分たちで工夫しながら、他者との関係を体験できる空間を用意した。
開園後は、保護者や園児からは好評だったので、更に3,4th目の園も計画された。
それが、2005年11月の出来事だった。
23.信頼される企業経営
12月の良く晴れ日、テラスで耕一が雑誌を読んでいると、大介が隣の椅子に座った。
大介「耕一君、どうだね、最近の調子は...」
耕一「ええ、順調ですね。あの育児支援制度がターニングポイントでしたね。あれから業績は右肩の勾配が変わりましたね」
大介「ウチはね、従業員を大切にして成長することを目標にしているんだよ。麗華には、小さいときからそう教え込んだ。サントリーって知っているね...」
耕一「はい...」
大介「ウチはサントリーさんに近いかな。上場することは、かんがえていない。長期的な視野で経営することを重視しており、短期的な利益追求や株主還元を意識しない経営を昔からしている」
耕一「そうですね...入社した時から、それは感じていましたし、だから最近、一層それを感じています」
大介「最近の企業の動向をどう思う...」
耕一「多くの企業が、短期的な利益や株主のご機嫌伺いがで、法的に違反しなければ良いと言うぎりぎりで動いていますね。それで良いんでしょうか...」
大介「経営者が自分たちの利益しか考えていない。自分が重役の地位にあるときだけ、利益が上がれば良いという、実に身勝手な経営者が多いね、そんな会社はどうなるね...」
耕一「将来は厳しいでしょうね...」
とそこへ、麗華が二人を見つけて、会話の輪に入った。
麗華「あら、珍しい二人で真剣なお話かしら...」
耕一「ああ、お義父さんに教えを請うていたんだ...」
大介「麗華は、小さいときから、私の横で色々と見てきたから、別に特別な事では無いが、耕一君には一度話しておこうと思ってね...」
麗華「そうよね、曾お爺さんの頃からの考え方があるからね...」
大介「曾祖父は、インドシナ今のベトナムで貿易会社を興して、日本に移住してきたからね。カトリック的な考え方は強いね。利益の一部は必ず、従業員や社会へ還元する、ボランティアや芸術・文化へ援助する。だから、今回の幼児教育もそうなんだ、社会への還元の一部なんだよ...」
耕一「僕たちも、そう心がけます」
大介「麗奈を長女として、育てているのもそういうことだよ」
耕一と麗華の長女の麗奈は、養子である。耕一が麗華と結婚する前の恋人だった、白川萌奈が産みの母である。耕一と麗華の婚約寸前にそれが発覚したが、大介と麗華は動揺することも無く、直ぐに養子として育てることを、萌奈に提案して引き取った。
麗華「だから、まだ孫が欲しいということね、パパ...」
大介「あはは、察しがいいな...そういうことだ、頼むよ、耕一君」
と笑いながら大介は、ガレージの方へ歩いていった。
麗華「だって、それじゃー、寝室へ行きましょ...」
耕一「ええ、だってまだ午前中だよ...」
麗華「大丈夫よ。カーテン引けば、良いでしょ...」
と耕一の手を引いて、2階へ上がって行った。
それが、2005年12月の出来事だった。
24.妻が留守の間に
年が明けた、2006年1月に、麗奈は部下の木名瀬愛を連れて、ユーロ支店へ視察と、イタリアのワイナリーとの親睦会へ2週間の予定で出かけた。
麗華「こーちゃん、私が留守の時に、会社の娘や他の女に手を出して遊ぶのは絶対禁止よ、お目付役を付けて置くからね...」
耕一「流石に、もう飽きたよ。でもお目付役って、誰なの...」
麗華「ふふ、誰でしょうね。ひ・み・つ よ...ふふ」
と謎かけを言い残して、出張へ出かけた。
その3日後、耕一のところへ山口ゆかりが、相談があると来た。
ゆかり「お願いがあり、来ました。DM部も順調なんですが、将来を考えて、スタッフの補充をお願いしたくて…」
耕一「何人くらいなの...」
ゆかり「6名くらいを考えています。昨年も、アクセスが増えて、ダウンしたこともあり、フレームから再構築もあるかなと...」
耕一「分かりました。後で書類にして上げてください。麗華が帰国後、採決しますから…」
ゆかり「ありがとうございます。御礼に、今晩、一杯どうですか...」
耕一「それなら、ポセイドンでいいかな…」
ゆかり「ええ、野島さんにも会いたいわ...」
その夜、いつものイタリアレストラン ポセイドンで耕一とゆかりがワインを飲んでいる。
耕一「ゆかりさんともう2年以上、こうして逢っていかなったね…」
ゆかり「もう、過ぎた事よ…」
耕一「もう、元には戻らないの...」
ゆかり「ダメよ、あんな地獄でしょ。蟻地獄よ...」
耕一「そうか、そうだね...例えば、僕が麗華と別れてもなの...」
ゆかり「冗談は止めて、そんなことはあり得ないわよね...」
耕一「そうね。じゃー、そういう関係にならなければ、良いのかな...」
ゆかり「えっ、どういうこと...」
耕一「今週末、ドライブに行こう。そうだね、日帰りで帰れる所で...」
ゆかり「日帰り旅行...なら、良いわ」
耕一「何処が良いかな...山形の銀山温泉はどう...」
ゆかり「あの銀山温泉か...一度、行って見たかったの...」
耕一「じゃー、決まりだ。クルマは、何が良いかな、やっぱり、雪があるからレンジローバーかな...」
週末、山形・銀山温泉へ向かうレンジローバーの車中。
耕一「ゆかりさん、もし今晩積雪とかアクシデントで帰れなくなったら、どうする...」
ゆかり「それは、困るわ...日帰りという、お約束でしょ...」
耕一「まー、そうだけど...」と良いつつ、帰れなくなることを期待している。
雪に埋もれた温泉街は綺麗だった。川沿いの雪道を二人歩く、耕一が手をゆかりの肩に回すと、その手を邪険に払いのける、ゆかり。耕一がゆかりの顔を見ると、唇が歪んでいる。怒っているのだ。
ゆかり「だから、そういう関係にならないの...忘れたの...」
耕一「だって、雪景色とゆかりちゃんが、余りに綺麗なので、つい...」と悪びれもせず、歯の浮いた台詞を吐く。
ゆかり、呆れて「どうして、そんな台詞がさらっと出てくる訳...そうやって、色んな女を落としたのね…性悪男ね…」
耕一「その言い方は、少しあれだけど、褒め言葉として受け取るよ...」
ゆかり「はぁー...」
それが、2006年1月の出来事だった。
25. 妻の出張先はフィレンツェ
登場人物(2006年時点)
幸田麗華 ワイン専門店コウテク社長 1976年(30歳)
幸田耕一 幸田商事 施設部長 1970年(36歳)
江戸直樹 幸田商事 社長 1950年(56歳)
山口 ゆかり 日仏食品DM 課長 1978年(29歳)
木名瀬 愛 日仏食品DM 1980年(26歳)
吉田 香織 Dハウス 1972年(34歳)
飯島孝三 大手Dハウス 常務取締役 1945年(61歳)
2006年1月に、麗華は木名瀬愛を連れて、ユーロ支店へ視察と、イタリアのワイナリーとの親睦会へ2週間の予定で出かけた。
ユーロ支店 販売課長のジュリアン・セベールが二人のガイド役で同行している。
今回はイタリア・トスカーナ地方のスーパータスカンは、イタリアのワイン法に縛られないカベルネ・ソーヴェニヨンを使用している。
コスパが良いので、ネット販売の目玉にしようとその下見である。
その一方、フィレンツェのホテルに1週間滞在し、近郊のワイナリーを見学する傍ら、時間があれば市内観光をしていた。
その所為もあり、麗華と愛はかなり意気投合した。
長身の麗華と比べ、少し小柄だが端正な美形な愛は、麗華のお気に入りになったようだ。
麗華「愛ちゃん、明日は休息日にして美術館巡りにしましょ…」
愛「分かりました。フィレンツェは見所多いですからね。ルート調べて置きますね。美術品で見たいもの、ありますか...」
麗華「いいや、愛ちゃん、に任せた...」
ワイナリー巡りの合間、二人はフィレンツェの美術館巡りを楽しんだ。
メディチ家の残した建物や美術品を見て歩くのは、新たな進むべき道のヒントが得られたと麗華は感じた。
それは、単にビジネスを進めて行くというだけで無く、そこらの社会への還元をどういう形にするのかという、ことでもある。帰国したら大介に相談しようと思った。
フィレンツェで2日目の夜。
レストランで今日訪れたワイナリーんの赤ワインを飲みながら話していると、目の前の愛が何故が愛おしく見えて来た。
何故そう感じたのか、麗華自身にも分からなかった。
浮気ばかりしている旦那と真逆な誠実な態度で毎日、フォローしてくれる愛の可愛らしさが急に愛おしく思えてきた。
麗華に姉妹は居ないが、まるで妹のように思えてきた。
麗華「愛ちゃん、私の部屋に来ない...」
愛「はい...」
酔って少しふらつく麗華を愛が横で支えて、エレベーターへ乗る。
ドアが閉まるなり、麗華が唇を重ねてきたが、愛はそれを受け止めた。
やがてドアが開き、廊下を歩いて、麗華の部屋に入るなり、また二人はキスをするが、今度は麗華が舌を愛の唇の間から入れてきた。その舌を愛も自分の舌を絡めて応じた。
麗華は愛が入社した時に、自分を見つめる熱い視線を感じた。
それから愛と接するときに、目が合うと絡みつくような視線を交わしていた。
試しにフィレンツェ出張を打診すると、即答で「あたし、行きます」と応えたので、一緒に連れてきたが、こうなることも密かに予感していたし、期待もしていた。
麗華にとって久々の経験だったが、本番になると愛は手慣れていることが、分かりそこからは愛の言うがままにした。
終わることの無い、快感の渦に身を任せた。
愛が何度目かの絶頂を迎えて、麗華がまだ息が荒い愛に尋ねた
麗華「愛ちゃんって、百合専門なの...」
愛「うーん、特にどちらでもいけますけど、百合の方が気持ちは良いですね...」
麗華「これは、周りには内緒よ。依怙贔屓していると思われるから...」
愛「帰ってからも、逢ってくれます...」
麗華「勿論よ...、さっ、もう一度…」
麗華は女盛りだし、またぞろ悪い癖が出てきたが...。
麗華がフィレンツェで愛と情欲に溺れて居る時に、横浜では耕一にDハウスの飯島取締役から、話が有ると連絡があった。
翌日、耕一がDハウス・横浜支店の重役室へ行くと、飯島取締役から意外な話が有った。
飯島「今日来て貰ったのは、内密の案件があり、相談したかったからです…」と何時になく真剣な表情で取締役は切り出した。
横浜みなとみらい地区の69街区にとあるディベロッパーが計画した案件が、頓挫しており、Dハウスと幸田で合同会社を作り、その土地を購入し、複合高層ビルを建設、運営管理して行かないかという話だった。
もし参加する意志があるなら、その準備会議があるから、参加するかという話だった。
耕一は、急ぎ帰社し、江戸に話をし、その足で幸田会長を訪ね、三人で話合った。
それが、2006年2月の出来事だった。
26. MM69タワー
耕一にDハウスから横浜・みなとみらい地区の超高層ビルへの参加の打診があった、翌週緊急役員会議が招集された。
幸田グループビルの25階の役員会議室に、役員がそろった。欠席したのはイタリアへ出張している麗華だけだったが、彼女はネットで会議へ参加した。
会長の大介も参加している。普通の会議なら社長の江戸が仕切るが、今回はその重要性からか大介が上座に座っている。
耕一がDハウスの飯島取締役から打診された概要の説明を先ほどまでしていた。
江戸「部長そうすると、その69街区では、四菱重工業の2棟計画があったが、度重なる延期があったと...そういうことかな..」
耕一「そうです。2003年から着工する計画でしたが、延期され現在も実行される状況にないので、この話がウチに回ってきたとも言えます。延期の理由ですが、採算ベースだろうと言うことです...」
役員A「それは、当社にとっても同じ事ですね。テナントが埋まらない、ホテルが赤字になるでは、話に成らない...」
江戸「ビルの構成案をもう少し詳しく説明してください」
耕一「はい。資料の20ページをご覧下さい...」
と説明を始める。このプロジェクトは、複合構想ビルで地上28階、建築面積約6,100㎡、延床面積約121,000㎡、低層部(1~2階)に商業テナント、中層部(4~18階)にオフィス、高層部(20~27階)にホテルが入居する。
そして、合同会社KRF69を組成するDハウスはショールームと横浜支店オフィスが、同じくKJ建設も横浜支店オフィスをここに移転する予定なこと。ホテルはMGホテルが入ることが、内定していると説明する。
麗華「仮に当社が参加すると、テナントとして入居するのか、その専有階を所有するのか、決定する必要があるかと…」
耕一「それは試算しました。別紙2ページに試算表があります。結論から言うと、幸田グループ全社+アルファで6階全フロアなら自社分として、専有した方が、メリットが大きいかと…」
麗華「そのアルファって、例えば福祉厚生スペースとか言う意味..」
耕一「そうですね。あと1階にワイン専門店のスペースも確保すべきですね」
江戸「それは、日本大通り店とは、別にという意味ですか...」
耕一「それは、日仏の部長の判断かと...」と暗に、麗華に振ってきたが、麗華はそれに触れず。
麗華「先ほどの+アルファですが、現在準備室で進めている幼稚園が考えられますが、実はこれは来月会議に提案しようと思っていた案件がありまして...」
大介「なんだね、言いなさい...」
麗華「はい。実はグループで文化事業として、美術館の設立準備室を提案しようかと。それで、そのMM69のスペースもあり得るなと...」
大介「そうか、それは来月聞きましょ。今日は合同会社KRF69への参加・出資について、結論を出しましょ。」
その後、賛成2名、反対1名の発言があり、採決となった。
採決は、出席役員15名中12名賛成、3名反対となり、事業参加することになった。
条件は、専有部分は6階分全フロアと1階ショップスペース300㎡以上となった。合同会社KRF69へは、江戸が担当し、耕一が出向することになった。
その結果は、即日耕一からDハウスの飯島取締役に連絡が行った。
役員会議で条件についても、伝えられ。先方の会議で翌週議題として、採決されることになった。
それが、2006年2月の出来事だった。
27. 芸術とビジネス
フィレンツェ出張から急遽帰国した麗華は、帰国後直ぐに耕一から詳細を聞いた。
麗華「そうなんだ。内は設立からずーと日本大通りビルに居たからこれは、大きな転換点に成るわね...」
耕一「会長もそう言っていたよ。組むのが、DハウスとKJ建設だから、その点は問題ないけど、今後の展開については、再度見直しが入るね...。君の幼稚園や美術館もそこに行く可能性は高いね…」
麗華「そうなのよ。今後、それが基本になるからね...」
耕一「ところで、フィレンツェは良かった...」
麗華「良かったわ、今度一緒に行きましょ...」と笑顔で答えていた。
帰国後麗華は愛と私共に一緒に居る時間が多くなっていた。
ここ数日、美術館設立の企画書を二人で作成していて、気が付いたら、17階のフロアーには、二人しか居なかった。
麗華「ああ、もうこんな時間よ。そろそろお仕舞いにしましょ...」
愛「はい。じゃー、後片付けしますね...」
と、そこに耕一が顔を出す。突然現れた耕一に驚く二人。
耕一「どうも、遅くまでご苦労様です...」と愛に声を掛ける。
愛「どうも...お疲れさまです…」
麗華「ああ、どうしたの。急に...」
耕一「最近、二人で遅くまで仲よさそうなので、少し様子を見に来たの...」
愛「そうなんです、社長とラブラブなんです...」
麗華「愛ちゃん、冗談は止めて。この人、本気にするから...」
愛「ふふふ、勿論冗談ですよ...」と微笑む。
耕一「ふーん、そうなんだ...ラブラブね,,」
麗華「愛ちゃん、もう上がるわよ..」
愛「はい、社長...」
麗華「一緒に帰るから、乗せていって...」
愛「それじゃ、お先に...」
麗華・耕一「お疲れさま..」
愛がEVホールへ出て行く。
耕一が麗華の横に来て、印刷された原稿を読む。
耕一「ふーん、美術館か...面白そうだね...」
麗華「あら、美術に興味があるの...」
耕一「ああ、ユーロ支店へ出張の時は、ベルサイユ、オルセーなど観ていたよ...」
麗華「あら、誰と。かす美さん...それとも、ルシア...それとも真由美さんかしら...」
耕一、図星で動揺して「なにを...一人でですよ...」
麗華「隠してもダメよ。聞いているわよ、かす美さんから...」
耕一「ゴホン、ゴホン。これって、れーちゃんが、ヘッドなの...」
麗華「どうかな...幼稚園もあるし、その件は、これから、かな...」
耕一「この下書き、借りていいかな...」
麗華「良いわよ...」すると、耕一はまだ下書きの報告書を持っていった。
麗華「クルマは地下の駐車場...」
耕一「ああ、いつもの場所にある。行こう…」
翌日の夜、麗華の寝室で、隣の耕一が切り出した。
耕一「あの美術館準備のヘッドだけど、愛子さんはどうかな...」
麗華、驚いて、耕一の顔を見る。愛子は大介の後妻である。元々は大介の秘書だった。
麗華「ホント...驚いたわ...でも、パパは承知しているの...」
耕一「それは、これからだけど...」
麗華「大丈夫なの...彼女は専門外よ。どんな分野の展示にするか、企画もあるし...大変よ...」
耕一「でも、美術キュレーターを公募するんだろう…」
麗華「そうなるけど...」
耕一「そもそも、立地はMM69にするのか、それとも郊外にするのか…、どんな分野の美術館にするのか、日本なのか外国の作家なのか、作品はどう購入するのか…、ある意味、課題だらけだ...」
麗華「そうなのよ、だから美術キュレーターの募集が先かも...」
耕一「それも含めて、企画を役員会議に通す為の方策は...」
麗華「一応、パパには話してあって、了解は貰っているわ...」
耕一「江戸さんは...」
麗華「勿論、了解して貰っているわ...」
耕一「なら、大丈夫か...」
麗華が心配した通り、愛子の件については、ペンディングになり、役員会議では異論が出て、今回は予備費として承認された。
美術キュレーターを優先的に採用して、それから本格的に検討していく事になった。
幼稚園設立案とは異なり、社員への福祉厚生にはならないからだ。
役員会議で紛糾するのも、当然で試算しても美術館自体で運営するのは無理で、常に幸田グループからの補助が必要だったからだ。
ある意味、近視眼で言えば、経営的なお荷物でしかなかった。
前途多難な美術館準備室となった。
それが、2006年3月の出来事だった。
28.美術館の創設準備
登場人物(2006年時点)
幸田麗華 ワイン専門店コウテク社長 1976年(30歳)
幸田耕一 幸田商事 施設部長 1970年(36歳)
江戸直樹 幸田商事 社長 1950年(56歳)
山口 ゆかり 日仏食品DM 課長 1978年(29歳)
木名瀬 愛 日仏食品DM 1980年(26歳)
吉田 香織 Dハウス 1972年(34歳)
幸田大介 輸入商事 会長 1940年(66歳)
佐藤愛子 大介の妻 1966年(40歳)
岸野友一 KGC建設 建設部長 1971年(35歳)
高橋 直美 KGC建設設計部長 1970年(36歳)
白川萌奈 大手住宅会社 建築担当事務 1974年(32歳)
麗華が美術館創設を企画したのは、幸田グループのイメージを文化的なものにして、商品をプレミア路線へ乗せていく意図があった。
元より、大介も今まで、節税策や減価償却費として毎年、絵画や彫刻など数々の美術品を会社のロビーや会議室に飾っていたが、ここに来て麗華が纏めた企画を全面的に推し進める事にした。
幸田グループが独自の美術館を設立し、それらを展示することは、会社のイメージアップに繋がり、企業活動に新たな展開をもたらすと考えた。
特に高級ワイン専門店の展開にこれは有効と思われた。
大介はこの件で久しぶりに本社へ出向き、社長の江戸に話を付けた。
大介「社長、娘から美術館設立の件は聞いていますか...」
江戸「はい、伺っております...トータル的に考えて、進めて行きたいと思いますが...」
大介「そうですか、そうして下さい。役員会議で反対する人もいると思いますが、根回しをお願いします...」
江戸「承知しました。後は麗華さんと相談して進めて行きます」
大介「よろしくお願いします。ところで奥さんはお元気ですか」
江戸「お陰様で。あの、まだ早いかも知れませんが、美術館長は誰をお考えですか…」
大介「うん、女性が良いかなとは思っているが...まだ...」
江戸「例えば、麗華さんは...」
大介「麗華は幼稚園が良いかなと...孫達も居るしね...かす美さんは、どうなの...」
江戸「家内ですか...美術に興味はありますが...」
大介「そうですか...聞いてみて下さい...」
江戸「分かりました...」
その晩、江戸社長がかす美と話をした。
江戸「そういう訳で、会長がどうかと...」
かす美「良いわよ...私で良ければ...問題は、スタッフね。キュレーターはこれから募集するの...」
江戸「そうらしい...、ゼロからのスタートだから苦労するけど、良いのかい...」
かす美「ええ、やりがいがあるわ...」
翌週から、麗華とかす美が打ち合わせをし、公募していた美術キュレーターも4名内定した。
チーフは経験を買われ、角田美香が務め、他の3名と協力して進める事になった。
美香は美術大学を卒業後、国内の美術館やボストン美術館でキュレーターとして活躍した経験があり、そこを買われた。
彼女にしても、白紙の企画で異業種からの参入で、やりがいをそこに見たらしい。
美術館の施設場所は、MM69タワーが前提で、企画を進めた。
そして、展示内容も、様々検討したが、現代美術の絵画とモデル・彫刻に絞った。
但し、主力商品のワインに関連する作品も収集するという条件が会社から着けられた。
同時に麗華が進めている、幼稚園もMM69の一部を活用できないか検討された。
麗華「幼稚園は、やはり地面に近い所に置きたいわね。どうしてもMM69に入れなきゃダメなの...」
耕一「いや、どうしてもということは、無いよ。それより幼稚園の趣旨が先だろう。だって、れーちゃんが考えていた事が優先されて良いと思うよ...」
麗華「そうなのよ、私のイメージでは、ドーナツ型の平屋に、中庭と屋上にプレイガーデンを設けて、シンボルツリーが欅かな...」
耕一「なら、それを通すべきだろうね...」
麗華「ありがとう、江戸社長とパパにも下話しておくね...」
麗華は、二人に話を通したので、翌月役員会で、敷地以外の企画に関して、承認された。
敷地は依然として、まだ見つからなかった。
そして、麗華はフィレンツェから帰国後多忙になり、愛と逢えないことが、残念だった。
その上、美術館準備室から離れることになったので、愛は元の日仏食品DMへ戻ったし、麗華は幼稚園準備室と部長職を兼務する多忙な日々を送っている。
一方、耕一はグループ内の建設部を幸田グループで建設する建築が増加すると考えて、建設会社へ分離独立する企画書を役員会議へ提出した。
それには、グループ内の建設部として活動していたが、今後グループ内ではあるが独立採算し一企業として活動すること。
設計部と建設部、総務部を設立すること。
今まで社外へ発注していた建設工事をこの子会社で担当することが、提案されていた。その名称は、幸田G建設(KGC)となった。
会議で承認され、その社長に耕一が就いた。
岸野友一が建設部長に、高橋直美が設計部の部長に就いた。
岸野は今まで、耕一の右腕として支えていた。
高橋は今まで設計をチーフとして担当していたが、今後は部長として設計部長を纏めることになった。
そんな状況なので、耕一の火遊びはほぼ消えており、業務に精進していた。多分過去最高であり、麗華は喜んでいた。
麗華「やっぱり、こーちゃんにはお仕事が似合うわね。男は仕事よ…」
耕一「KGCの準備や設立で忙しくて、そろそろバテてきたよ...」
それが、2006年5月の出来事だった。
29.新設建設会社の社長職
登場人物(2006年時点)
幸田麗華 ワイン専門店コウテク社長 1976年(30歳)
幸田耕一 幸田商事 施設部長 1970年(36歳)
幸田大介 輸入商事 会長 1940年(66歳)
江戸直樹 幸田商事 社長 1950年(56歳)
江戸かす美 社長夫人 1968年(38歳)
山口 ゆかり 日仏食品DM 課長 1978年(29歳)
木名瀬 愛 日仏食品DM 1980年(26歳)
吉田 香織 Dハウス 1972年(34歳)
幸田大介 輸入商事 会長 1940年(66歳)
佐藤愛子 大介の妻 1966年(40歳)
岸野友一 KGC建設 建設部長 1971年(35歳)
高橋 直美 KGC建設設計部長 1970年(36歳)
角田美香 美術キュレーター 準備室長 1972年(33歳)
4月の役員会議で、美術館の企画と準備室長にかす美という議事が決定された。
かす美が準備室へ来るようになり、連日会議となった。
最初は大介や江戸も出席していたが、2回目からはかす美、麗華、耕一、角田美香と他3名のキュレーターの計7名で話合った。
が、その内、麗華と耕一は抜けてかす美達の5人だけになった。
一方、幼稚園準備室では、理事長に愛子、園長に麗華が兼任、副園長 太田直美が連日、検討会をしていた。
そして耕一がみなとみらい地区/69街区開発のディベロッパー・合同会社KRF69に幸田グループから代表として参加して、執行役員になった。
元々Dハウスがメインなので、その常務取締役飯島と昵懇の仲なので、妥当だと見なされた。だからKGC建設の社長と兼務になる。
基本役員会議への対応が主なので、本業のKGCの社長職がメインになる。
MM69タワーの企画・基本設計はKJ建設の設計部にKGCの設計部がJVとして参加し担当した。
企画・基本設計から実施設計へと進んで行くので、毎週会議があり、その上、幼稚園の基本・実施設計そして美術館の基本設計、ワイン専門店の各地への展開、やがて明らかになる新規事業の設計業務も加わり、多忙な生活を送っていた。
だから浮いた話など無いと思われていたが、実際は裏で美術館準備室の角田美香と密会していた。
定例の会議は毎週水曜日の午後にあり、この時期麗華は美術館準備室を離れ、福祉介護事業の検討に入っていた。
数ヶ月後に役員会議へ提出する企画書の基本資料の読み込みや、関西の同業者への見学する多忙な日々を送っていた。
これは麗華もかす美も感知することが出来なかった。
どうもMM69タワーの定例会議の後に、コンチネンタルホテルで密会をしていたらしい。
美香がどうして耕一と関係を持つようになったのか、後でそれを知った麗華は青天の霹靂だった。
美香が入社した直後に、耕一がアプローチして、麗華と耕一が夫婦だと知る前に、関係を持つようになったらしい。
確かに美香は、耕一好みの清楚な美人だったし、その少し影のある雰囲気は、耕一の好みだったと、後から麗華は気が付いたが、その時は、既に二人は深い関係に落ち込んでいた。
大体、耕一がKGC建設の社長職で多忙な日々を送っており、帰宅もほぼ10時過ぎだったから、油断していたとも言えるが。
だが、それだけでは済まなかった。
設計部長の高橋直美とも親密な雰囲気で居るところを、総務部の女子社員が何度か見たと後で、かす美から聞いたのは、翌年幼稚園が開園する時期なので、かなり後のことである。
だからある時期、二人と並行して浮気をしていたことになる。
これには、麗華は怒るより、呆れた。
耕一の視点で語ると別なものが見えてくる。
この時期、この夫婦の寝室は、麗華と愛がフィレンツェ出張帰国後から別室になっていた。
耕一がMM69タワーの役員になったあたりだが、帰宅が遅くなるときが多くなり、起こすのも悪いと耕一が言い出した。
確かにこの頃は、純粋に仕事量が増えていたし、その周囲に女性は居なかったので、麗華はすんなり隣室に耕一の寝室を設けた。
耕一のビジネス用のクルマもレクサスからBMWのシルバーのM5に代わった。運転手も付けようかと大介が話したが、まだそんな歳でも無いし、自分で運転したいのでと言って、地味なシルバーのM5に乗るようになった。
BMWのMシリーズは、メイカー純正のスポーツタイプだが4ドアセダンで、普通の人には、見分けられない。
それくらい地味である。ある意味、街ですれ違っても、分からないだろう。
休日には、家のレンジローバーやジャガーに家族で乗るので、浮気の証拠品の片方のピアスや長い髪の毛にも気付かれなかった。
しかも時々、朝着ていたシャツが帰宅時にポロシャツに成っていても麗華もメイドも気付かなかった。
そして5月にKGC建設が発足し、多忙になると帰宅時間は、遅くなり10時過ぎになることも多くなった。
幸田グループの就業時間は、基本9時から6時までだが、KGCは建設業界では、皆そうだといい、遅くまで残業をしていた。
特に設計部は10時頃まで残業することが、多く他部門から異端視されていた。
それにしても、社長とその部下の部長の関係は微妙だった。
それが、2006年5月の出来事だった。
30.お嬢様の油断と逆襲
2006年5月の幸田グループの役員会議で正式に幼稚園準備室が決まり、理事長に愛子、園長に麗華が兼任、副園長 太田直美が就任した。
又KGC建設が発足し、耕一が社長、岸野建設部長、高橋直美設計部長が就任した。
麗華も耕一も多忙を極めたが、その一方二人ともやることはやった。
つまり、二人ともお互いに知られること無く、愛人を作っていた。
麗華は1月のフィレンツェ出張から愛と関係を続けていたし、耕一はKGC建設に入社直後の高橋直美と恋愛関係になって行った。
コンチネンタルホテルの高層階の一室。二人は1回目の愛の行為が終わり、天上を見ていたが…
直美「社長、幼稚園の幸田園長は奥さんなんですか...」
耕一「ああ、最近は幼稚園長と呼ばれているの...良く肩書きが替わるよね...この間まで、日仏食品ビジネスサポート部長って呼ばれていたが...」
直美「そうじゃなくて、お婿さんなんですって...私、そんなこと知らないで...」
耕一「そんな、大丈夫だよ...心配することは無いよ...僕を信用して...」
直美、耕一の瞳をみつめて、唇を重ねて、また耕一の愛撫を受け、快楽の泉にまた入っていく...。
同じ頃、麗華も愛とベットの中にいた。
この二人は既に1時間以上も、快楽の海を漂っていた。
押しては引く波の合間に浮かんでは、沈む二人だ。
愛「最近、麗華さんが美術館準備室から移動になったでしょ。かす美さんが、少しキツく成ってきて、あたりが強いんです...皆、愚痴ってますよ...」
麗華「分かった。少しかす美に言っておくね。でどうなの、進捗は...」
愛「一応MM69タワーのワンフロアーで、オープンする前提で進めていますので、ペースはこれから上がると思いますが、展示内容がまだ、纏まらないですね...」
麗華「そうか、すこし会長の意見も取り入れるかな...」
どうも、この会社の仕事は、オフィスよりもベットの中で進んでいくようだ。
6月になり、幸田商事とそのグループはみなとみらい地区/69街区開発のディベロッパー・合同会社KRF69に正式に参加、土地を取得した。
以降MM69タワーと仮称される開発は軌道に乗った。
この設計に、KGC建設の設計部も参加したので、定例の会議には耕一と高橋直美部長が一緒に出席した。
だから毎週水曜日に二人は、会議に出た後、打ち合わせと称して、その夜まで一緒に過ごした。
最初は、実際本当に仕事だったが、やがてそれの後にディナーになり、そしてディナーがベットになるまで、そんなに時間は掛からなかった。
だからある意味、設計部の上のメンバーは、社長と部長の関係を薄々感じていたが、表だってそれを言うのは憚れた。
なにせ、社長は、グループ総裁の婿だったからだ。
だから、その愛娘の麗華に告げ口するなんて、あり得なかった。それはKGC建設の公然の秘密になった。
7月になり、美術館準備室にキュレーターとして、角田美香が入社した。
停滞していた、展示内容の検討は彼女の参加で進むだろうと、思われた。
彼女は幸田グループの内情を知ると、キーマンと目される大介と麗華に面談した。
美香「会長、美術館の方向性が未だ定まらないので、今日は相談に来ました。今までの検討会では、現代美術とワインに関する美術品だと聞いていますが、それでよろしいですか...」
大介「そういう意味だと理解して貰って良いと思うよ...」
麗華「はい...、でもその二つだと難しいの...」
美香「常設展はその二つにして、企画展は現代美術を中心に考えるということは、あり得ると思いますが...。」
大介「やはりワイン路線は、難しいかね...。」
美香「ある意味、ワイン関連は、2^3年に一度企画展で公開する位でも良いかなと…」
麗華「そうね、それでも良いわ...」
大介「分かった、後は君たちで決めてくれ...」
と大介は、その席から離れたので、麗華と美香の二人で話を進めることにした。
麗華「MM69タワーの事は、どの位知ってる...」
美香「みなとみらい地区69街区に建設予定で、美術館は中層部に入る。1フロア約1,250坪(約4,100m2)、美術館は18階の予定...」
麗華「そうね、20階からはホテルなの、中層のオフィス階では最上階なんだけど...」
美香「19階は何になるんですか...」
麗華「確認したら、空調設備とかを置く、設備階らしい...」
美香「でも、1フロア約1,250坪(約4,100m2)は、MMじゃ一番大きいんじゃないですか...」
麗華「だからやり甲斐はあるわね...」
そして、この打ち合わせから麗華と美香は頻繁に会うことになる。
そんなある日の夕方、麗華は建築の進捗を見に、耕一の居るKGC建設に足を向けた。
設計部で耕一と高橋直美の二人が、立って打ち合わせか、何か親密そうに話をしている。
ふと気になり、彼らから少し離れて様子を見ていると、不思議な雰囲気というか、怪しい雰囲気が彼らの周りに漂っていることに気が付いた。
もしかしたら...と見ていると、直美が耕一と何かで微笑み、二人の体が密着する位、近づいていく...。
麗華は迷った...、二人に声を掛けるのか、それともここを離れるのか...。
どうしたものかと迷っていると、そこに岸野が麗華に気が付き、声を掛けた。
岸野「部長...いや、今は社長でしたか...こんな所で、中に入れば良いじゃないですか…」と麗華の視線の先に耕一と直美がいるのに気が付く。
岸野、少し慌てて咳払いをする。
岸野「ゴホン、ゴホン。耕一社長、麗華さんが来てますよ...」
その声に、慌てて後ろを振り返ると、麗華と岸野が立っていた。直美も気が付き、慌てて耕一から離れる。
麗華が二人に近づいて言う「何か仲よさそうにしていたので、思わず声を掛けずらくてね、眺めていたのよ...お二人とも全然気が付かないんですもの...」
耕一慌てて、「何だ来るなら、言ってくれれば、そっちへ行ったのに…」
直美「じゃー、私は戻りますね...」
麗華「いいえ、少し話をしましょ、三人で。耕一さんの部屋でね」と耕一の社長室へ、先に歩いて行く。
耕一と直美は顔を見合わせて、しぶしぶ続く。
それが、2006年6月の出来事だった。
2003年の横浜のお嬢様part2 完