[恋愛小説] 2002年の二人の妻たち.../9. 噂
Two wives in 2002
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雅春の実家は、茨城県守谷市にある地主である。
本人は長男だが実家を継ぐ意志はなく、妹の妙子が後を継いでいる。
2003年に開通したつくばTX線で、秋葉原まで30分のこの周辺は土地が値上がり、今や福山家は、県内の納税額番付で上位に入っている。
今日は、雅春が優香を伴い、彼女を紹介に来ている。
雅春「優香さん、父です」
孝造「雅春が、お世話になります」
優香「石橋優香です。よろしくお願いします」
妙子「妹の妙子です。兄がお世話になっています。よろしくお願いします」
優香「こちらそこ、よろしくお願いします」
妙子「優香さん、お幾つ...」
優香「今年、28です」
妙子「まー、お若いのね。良いんですか、こんなお爺さんで...」
雅春「お爺さんは、酷いな」
妙子「お兄さん、あたしより4つ上だから、47じゃないですか。立派に、お爺さんです」
孝造「石橋さんのご両親には、挨拶に行ったの...」
雅春「去年の10月に。なかなか厳しいこと言われました...」
妙子「そうりゃ、そうよ。こんな若いお嬢さん、そうそう、お爺さんにあげられないわよ」
孝造「そうだな」
雅春「二人ともそれは無いよ」
4人「あははは」
雅春の実家は、いつもこんな感じである。
帰路のアルピナB10の車中。
優香「まーちゃん、これで親たちには、一応話はしたし、そろそろ一緒に住みたいな…」
雅春「でも、常陸太田のお父さんは、まだ納得してないでしょ...」
優香「そんなこと、言ってたら、何時まで経っても一緒になれないわよ。」
雅春「確かに。でも、良いのか?」
優香「私は、いつでも良いわよ。来週でも良いわ…」
雅春「流石に、来週はあれだけど、何時が良いかな…」
優香「ゴールデンウィークはどう?連休で、片付けも出来そうだし…」
雅春「と言うことは、優香が晴海に来るの…」
優香「…駄目…」
雅春「駄目じゃ無いけど、良いの、あそこで…」
優香「大体、もう実際住んでいるようなもんでしょ…」
確かに、優香は昨年常陸太田へ挨拶に行った後、晴海から市ヶ谷の会社へ通っている。
地下鉄、有楽町線で30分なので、西荻窪より近い。
雅春も同じ路線だから、朝は一緒にマンションを出て、同じ電車で通っていた。
そんな彼らを、雅弥の事務所の女子社員が見かけて、社内で噂になっていた。
山口昇平「福山部長、噂になっていますよ…」
雅弥「何が…」
昇平「毎朝、N住宅の石橋さんと一緒だって…」
雅弥「…そうか…」
昇平「ホントなんですね…」
雅弥「昼、一緒に飯食おうか…」
昇平「はい、分かりました…」
昼休み、近くの喫茶店。
雅弥が経緯を話す。
昇平「分かりました。で何時結婚式なんですか…」
雅弥「いや、式はやらないかもしれない…」
昇平「えっ、石橋さん、それじゃ、納得しないでしょ…」
雅弥「そうなんだよ、今それで揉めていてね…」
昇平「そりゃ、そうだ…」
雅弥「簡単な式でも、した方がいいかな…」
昇平「彼女のことを、考えたら、普通に式を挙げた方が、良いでしょうね。だって、やりたくないのは、雅弥さんの我が儘ですよね…」
雅弥「やっぱり、そうか…」
昇平「そうですよ…」
雅弥は、何か考える。
その日の午後、思いもしない方向から、雅春に矢が飛んできた。
香から話を聞いた、かす美が雅春に電話を掛けてきた。
離婚したあとでも、前妻のかす美は正直恐い存在だ。未だに恐妻家である。
かす美「香から聞いたけど、再婚するんだって…」口調が荒れている。
雅春「ああ、そうなんだ。連絡しようと思っていたんだ、ちょうどいい。でも何か…」
かす美「何かじゃ無いわよ。電話じゃ、話せないから。今晩、会って…」
雅春「じゃ7時に華で…」
ガチャ。
有無を言わせず、切られた。仕方が無いので、7時5分前に、神楽坂の料亭 華に行った。
そこは雅春が仕事でよく使う料亭で、ここなら落ち着いた雰囲気で話が出来るし、万が一かす美が感情的になっても、何とか処理できるだろうと雅春は、踏んでいた。
女将が、複雑な表情をしながら、奥へ案内してくれた。
既に、かす美は、座敷に座り、一人で飲んでいる。
雅春をジロリと見上げる。
雅春「なんですか、急に呼び出して…」
かす美「なんですかも、ないでしょ。再婚するなら、前妻の私に一言位、話が有ってもいいでしょ…」
雅春「話そうと思っていた矢先に、君から電話だよ…」
かす美「ホント?怪しいな…」
雅春「ホントだよ…」
かす美「で、どんな人なの?美人?あたしより美人…」
雅春「何言っているんだよ。普通の人だよ…」
かす美「ふーん、今度香と私に、会わせなさいよ。見てあげるから…」
雅春「はー、そんな話聞いたこと無いよ…」
かす美「それと、本題だけど…」
雅春「まだ、何か有るの…」
かす美「再婚するなら、もう二度と浮気はしないで。いい!」
雅春「いいけど、なんで君からそんなこと言われなきゃいけないのか、意味不明だよ…」
かす美「あのさ、私たちが、あなたのその女癖の悪さで、どんだけ泣かされたのか、調停の時に、散々言ったわよね…」
確かに、離婚調停の際に、散々言われて、反省させられた。思い出したくも無い位だ。
雅春「ああ、あれから全然だよ、自粛してる…」
かす美「ふん、どうだか…」
未だに、前妻から攻められる雅春だった。
それが2004年6月の出来事だった。
登場人物
福山雅春 :大手N設計事務所 第1事業部 部長 47歳(1956)
石橋優香 :N系列設計事務所 住宅設計担当 28歳(1975)
有村かす美 :福山雅春の元妻 40歳(1962)
有村 香 :雅弥の一人娘 17歳(1985)
斉藤修 :石橋有華の婚約者、大手電機会社営業27歳(1975)
石橋吾郎 :優香の父、常陸太田の造り酒屋社長 52歳(1950)
石橋桜 :優香の母 46歳(1956)
福山孝造 :雅春の父 71歳(1931)
福山妙子 :雅春の妹、福山家の後を継ぐ 40歳(1960)
田口雅美 :福山雅弥の高校時代の友人 46歳(1956)
安西清志 :福山雅弥の大学時代の友人 45歳(1957)
萩谷健一 :弁護士、高校時代の友人 46歳(1956)
岡田真澄 :石橋優香の女子大時代の友人 27歳(1975)
山口昇平 :大手設計事務所 第3事業部 課長