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2004 双子姉妹の恋.../3.姉はたまに妹に譲る

登場人物
友部 彩 双子の姉 理科大 薬学部      1982年
友部 舞 双子の妹 ハウスビルダー 設計担当 1982年

友部 友梨 舞・彩の母
友部 幸太 舞・彩の父
友部 紀  彩・舞の弟

山下 敦 ハウスビルダー 設計担当 1976年
高山 耕一 製薬会社 新薬開発研究 1972年

彩は、舞が敦の勤めているハウスビルダーにインターンシップへ行くと言ったときに、こうなるだろうと漠然と思った。そして今、それは現実となっている。

敦「すこし、それは無茶な話だね、納得できないよ」

彩「だから、謝っているでしょ」

敦「第一、その理由が...」

彩「舞が内定したんでしょ、それが理由じゃいけないの...」

敦「だから、どうして、舞ちゃんの内定が、別れる理由になるわけ...」

彩「もう、これ以上、話したくないから..じゃー、さようなら」

と彩は席をたった。敦は呆然としている。

だが、少ししてから、もしかしてと思った。

彩は舞に遠慮して、自ら身を引いたのだと、妹の一途な気持ちを考えて、自ら身を引いたのだとしか、考えられなかった。

そんな馬鹿な話があるかと思ったが、それを言う相手は、もういない。

そんな言葉を自分の中に、飲み込むしか無かった。

彩は、舞が内定を貰ったその日から、ずーと考えていた。

なんで寄りにも寄って、敦のいる会社に内定したんだと。

考えられるのは、一つしか無かった。

舞がそれほど、敦のことを思っていたとは、知らなかった。

元々舞は、長女の自分に遠慮して、なんでも我慢したり、自ら譲ることが多かった。

だから、争って喧嘩になることは、殆ど無かった。

いつしか、それが姉妹の暗黙のルールになっていた節もある。

敦に別れを告げて、帰宅すると、彩は開口一番言った。

彩「まーちゃん、私ね、敦と別れたから」

舞「...」

彩「だから、彼とはもうなんでもないんで、好きにしていいから」

舞「...」

舞は、何も言えなかった。

自分は姉に敦のことなど、一言も言ったことも無いし、敦のいる会社への入社を希望した理由が、敦だなんて、一言も話していない。

にも関わらず、先に回り自分で恋人と別れてくるなんて...。

ある意味、姉らしいとも思った。

昔から、そういうところがある姉だった。

ただ今回の件は、姉妹の間に微妙な緊張関係を与えることは予想された。

彩は夏に始まるインターンシップでつくばにある製薬会社の研究所に行く予定だった。

薬学部の4年であと卒業まであと2年あるが、無理を言ってインターンシップを申し込んだ。幸い会社から、受け入れるとメールが来た。

自宅からその研究所まではクルマで40分で通える。

上手くいけば、そのまま就職してもと、そこまで考えていた。

だから敦と別れることに、そんなに執着はなかった。

多分、これから自分の前には、魅力的な男性が現れるだろう、今ここで敦に拘る必要は全くないと思った。

ある意味、彩は現実的だった。そういう意味で、この姉妹の性格は、普通とは逆だった。

姉の彩は、積極的で前向きだし、活発だが、妹の舞の性格は、控え目で大人しく、淑やかだと周囲から思われている。

だから、そんな舞が彩の恋人のいる会社へ就職を決めたと言うことは、敦への思いは、相当重く、揺るぎないものだろうと、直ぐに彩には分かった。

彩が、敦にそれを語らず、別れたのはそのことで、敦から責められるのが、嫌だったのだ。

ある意味、負けず嫌いの彩が妹と争っても、益は無いし、二人の溝が深まるのは避けたいと思った。

何せ、普通の姉妹では無いのだから。

これが、2003年4月の出来事だった。

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