1996_横浜のお嬢様part1.../7.山の手通りの邸宅
登場人物
会澤耕一 大手住宅会社 営業所 建築技術者 1970年(26歳)
幸田麗華 輸入商事の跡取り娘 女子大生 1976年(20歳)
白川萌奈 大手住宅会社 東京支店 事務 1974年(21歳)
幸田大介 輸入商事 社長、麗華の父 1940年(56歳)
12月の上棟式に麗華が来てから、毎週麗華は現場に、差し入れを持ってくるようになった。
職人や耕一に、飲み物や自社の焼きパウンドケーキを持ってくるので、いつの間にか、現場の人気者になり、皆麗華がくるのを楽しみにするようになった。
なにせ美人なので、なおさらである。
電気工「会澤さん、今週はまだ幸田さん来ませんね。待ち遠しいですね…」
耕一「何言ってんですか…」
と話していると、当の本人が、白のレンジローバーに乗って来る。
電気工「おっ、噂をすれば、なんとやら、ははは…」
麗華「こんにちは。今日は冷えますね。今日は、ホットコーヒーとシュークリームを持って来ました。皆さんに配ってください…」と耕一にケーキを手渡し、自分は、ポットからコーヒーを紙コップに注ぎ、職人達に配り始めた。
耕一「いつも、すいません。余り無理しないでください…」
麗華「無理してません。父が無理な工期でお願いしているので、これくらいしかできませんが…」
耕一「今年の工事は、今日で終わり。来年は1月7日からになります。工程は予定通りで、引き渡しも間に合いそうです…」
麗華「そうですか。父も喜んでいます…」
耕一「はい、社長さんにも、そうお伝えください…」
麗華「あの、今晩、会澤さん予定ありますか?」
耕一は怪訝な表情で「いや、特に有りませんが…」
麗華「お世話になっているので、父がお食事にと、言っております。如何でしょうか…」
耕一、如何もなにも、施主の招待を断る訳にも行かず「はい、お招きありがとうございます。お伺いします…」
麗華「家で用意していますので、おいでください…」
耕一「あのフェリス女学院の傍の?」
麗華「そうです、これ地図です。7時で宜しいでしょうか…」
幸田家は、山の手通りのフェリス女学院の傍の大邸宅である。
話には聞いていたが、ご招待とは驚いた。
横で聞いていた、職人達は、驚いていた。
麗華が帰った後、大騒ぎになった。
電気工「これは、凄い。大邸宅で晩餐会か。いやー、会澤さん、後でどんな料理を食べたのか、教えてくださいね…」
確かに、これは凄いことなのかもしれないが、耕一はどうも、今一実感が湧かなかった。
その晩、耕一は、麗華から貰った地図を片手に、幸田邸の門の前に立っていた。
確かに邸宅だった。高い塀で囲まれた、洋館で、インターフォンを押すと、男性の声が。
耕一「会澤と言います…」
インターフォンの声「はい、お待ちください。今開けます…」
門が自動で開いた。
玄関先に、執事らしき男性が立っている。
男性「いらっしゃいませ…」
耕一「どうも…」
男性「中へお入りください…」
中に入ると、吹き抜けのホールで、良く映画で見るあの洋館そのままである。
麗華がローズピンクのドレス姿で出てきた。
麗華「いらっしゃい。直ぐ分かりましたか?」
耕一「ええ、大丈夫でした…」
麗華「父も待ってます、食堂へどうぞ…」
食堂といっても、それだけで100平米は有りそうな大ホールだった。
そこに3人である。グラスが置かれている席に座り、麗華も反対へ座る。
麗華「こんな部屋で落ち着かないでしょ。別な部屋でと言ったんですが、父が此処でというので、あの通り頑固で…」
耕一「いや、素晴らしい部屋、お屋敷ですね。洋館は初めてです…」
麗華「そうですか、それじゃ、後で家の中を案内しますね…」
そうこうするうちに、大介も来て、食事が始まった。
玄関先にいた、男性はどうも執事らしい。更に、メイドらしき女性も、飲み物や料理を運んでいる。
大介「現場は、順調だと聞いています…」
耕一「はい、お嬢様にもお話ししましたが、予定通り進んでいます。引き渡しも早めに出来そうです….」
大介「そうですか。早いことに越したことは無い…」
麗華「パパ、仕事の話はそれ位でいいでしょ。後で耕一さんが家を見たいというので、案内するわね…」
大介「ああ、それがいい…」
食事の後、麗華に案内されたが、あまり記憶にない。何時幸田家を出て、自分のマンションに戻ったのかも、何か夢うつつだった。
それが、それが、1998年12月暮れの出来事だった。