1996_横浜のお嬢様part1…/1. トップライトの雪
登場人物
会澤耕一 大手住宅会社 営業所 建築技術者 1970年(27歳)
渡邊雪江 大手住宅会社 営業所 事務 1965年(32歳)
幸田麗華 大介の長女 女子大生 1976年(21歳)
久野幸恵 地方銀行 行員 窓口 1971年(26歳)
白川萌奈 大手住宅会社 支店 建築担当事務 1974年(23歳)
幸田大介 輸入商事 社長 麗華の父 1940年(57歳)
佐藤愛子 幸田商事 社長秘書 大介の愛人 1966年 (31歳)
岸野友一 大手住宅会社 営業所 営業 1971年(26歳)
江川直樹 幸田商事 輸入部 部長 1950年 (47歳)
志田大容 住宅会社の関連会社の社長
耕一は、さっきからベッドに仰向けに寝ながら、真上のトップライトに降り積もる雪を見ていた。そろそろ夜が明けてきたのだろう、空が白み始めて来た。
隣に寝ている渡邊雪絵が耕一の横顔を見ている。
どうして婚約者がいるのに、他の女とこうしているのか、自責の念と後悔の念に押しつぶされそうだが、雪絵の涙に心を動かされて、此処に来てしまった自分の軽率な行動にも、我ながら呆れる。
恐らく婚約者の久野幸恵は、昨夜何遍も耕一のマンションへ電話をしただろう。
なんと言い訳したら良いのか、今から頭が痛い。
友人の岸野の所に、泊まったとでも、言うしか無いだろう。
夜、マンションに帰るなり、電話が鳴った。まるでその場で、帰宅したのを見ているかの様に。
幸恵「もしもし、耕一さん、昨日何遍も電話したのよ…」
耕一「ごめんね。岸野の所に泊まっていたんだ…」
幸恵「あっ、そう。なら良いけど、心配したのよ、事故にでもなってるんじゃ無いかって…」
耕一「今度から、泊まる時は、話しするよ…」
幸恵「その岸野さんって、誰?」
耕一「同じ営業所の営業担当で、仲が良い奴なんだよ…」
幸恵「来週は、帰ってこれるの…」
耕一「ああ、帰るから、日曜日にラルーチェに10時で良いかな…」
幸恵「分かった、電話に出なかった罰で、美味しいケーキ食べようと…」
耕一「ああ、分かったよ…」
幸恵「じゃー、来週ね…」
耕一「ああ、来週…」
受話器を置いた耕一は、ほっとため息を吐いた。
危ない危ない、こんな事をしていたら、いつかはバレる。もうやめようと思った。
その矢先、又電話が鳴った。
受話器を取ると雪絵だった。
雪絵「電話長かったわね。彼女…」
耕一、見透かされて動揺しながらも平静を装い「いや、岸野と話してた…」
雪絵「ホント?どうだか、怪しいな…」
耕一「何…」
雪絵「うん、昨夜は、凄く良かったよ。あたし、5回も行ったの、初めて。こーちゃんって、もしかして、絶倫なのかな…」
耕一「何、バカなこと、言ってるんだよ…」と言いながら、満更でもなく、ニヤけている。
雪絵「来週も、Hしたいな。週末会えないの…」
耕一「来週は、予定が入っているから、ダメだけど…」
雪絵「あっ、そう、彼女に逢いに行くのね…」
耕一「いや、親が帰って来いと言うから…」
雪絵「ふーんん、怪しいけど、じゃー再来週なら、良いのね…」
耕一「うっ、う、うん…」
雪絵「じゃ、再来週は、私ね…」
耕一「うっ、うぅ…」
雪絵「じゃ、明日会社でね、おやすみ…」
耕一「ああ、おやすみ…」
嗚呼、この状況は、かなり不味い。何処かで、とんでもない事になりそうな気がしてきた。
かと言って、優柔不断な耕一には、幸恵か雪絵の何方か一方に決める事も、かと言って振ることも出来ない。二人とも、いずれ劣らぬ美女なのだ。
だが、性格や考えていることは、真逆だった。
それが、1997年12月の出来事だった…。