[恋愛小説] 1976年の早春ノート 第3部...6/疑惑
ゴールデンウィークの後半初日に、優の部下の三人が岡田の家に遊びに来た。
相澤昭夫「係長の家、凄いですね。びっくりしました」
亜希子「ほんと、なんか民家って、いいですね」
優「広いと大変だよ。管理が。かみさんが苦労している」
泉「いらっしゃい。いつもゆーちゃん、がお世話になっています」
優「おいおい、ゆーちゃん、は止めろよ」
早奈江「ゆーちゃん、なんだ。可愛い」
昭夫「今日は、押しかけてすいません」
泉「いいのよ、とりあえず、中見る?」
亜希子「はいー、楽しみにしてました」
三人、小屋組の梁の架構や真壁の柱や漆喰壁のモダニズムとも言えるダイニング・キッチンを見て、関心しきり。
亜希子「古いけど、新しいインテリアデザイですね」
泉「そう言って貰えると嬉しいわ」
優「裏に岸があるから、見る」
早奈江「霞ヶ浦ですか?」
優「そう、湖面を吹き抜ける風が気持ちいいよ」
亜希子「行きます、行きます」
泉「じゃー、その間に、バーベキューの準備しておくね」
昭夫「僕、手伝います」
泉「いいの、悪いわね」
三人、裏に出て、岸へ歩いて行く。
亜希子「奥さん、綺麗ですね」
早奈江「ホント、何処で見つけたんですか?」
優「高三の学園祭で、逆ナンパされてね」
亜希子と早奈江、顔を見合わせて笑う。
亜希子「逆ナンパですか。奥さんやりますね」
優「そうだろう。君たちも、いい男いたら、逆ナンした方がいいよ」
早奈江「そうですよね。奥さん、玉の輿ですものね」
亜希子「奥さん、係長がこんな家に住んでいるなんて、知らないで逆ナンしたんですよね」
優「ああ、知らなかった」
早奈江「凄いな、奥さんの直感」
亜希子「ああ、あたしも玉の輿がいいなー」
GWも終わり、また通常業務に戻る毎日。
34階のオフィスでも、連休明けの忙しい日々が始まっている。
来週は、優は札幌へ出張なので、打合せ用の図面と書類を纏めている。
優「吉村さん、どう纏まりそう?」
早奈江「はい、係長。任せてください」
優「厳しいなら、言ってよ」
早奈江「はい」
結局、部下の三人が纏め終わったのは、出張前日の夜11時50分だった。
昭夫「すいません、係長。遅くなって」
優「いや、ありがとう」
早奈江「私が、もう少し早ければ」
優「そんなことはない、十分頑張ってくれてる。ありがとう」
出張から帰って来た優は、三人を誘ってバー秋月に来た。
優「この前は、ご苦労様でした。お陰で、無事打合せも済んで、予定通り現場も進みそうです。皆のお陰です」
早奈江「すいません、私が足を引っ張って」
優「そんなことは、無い。みんなよくやってくれてる」
昭夫「さっ、乾杯しましょ」
四人「かんぱーい。」
酔いも迷って、亜希子と昭夫は、二人で先に帰るといい、早奈江と優が二人になる。
早奈江「係長、わたし今日は楽しいんです」
優「早奈江ちゃん、酔ってますね」
早奈江「係長、全然飲んでいないでしょ…。ヒック」
優「大丈夫、飲んでるから」
早奈江「係長、私相談があるんです」
優「なに?」
早奈江「わたし、学生時代からズーと付き合っている彼氏がして…」
優「…うん…」
早奈江「本当にわたし、彼と一緒になっていいのか、よく分からなくて…」
優「…うん…」
早奈江「…ほら、あっちの相性もあるでしょ…」
優「まー、あるだろうね…」
優は、話が段段、怪しい方向へ行こうとしているのを感じてきた…。
早奈江「PePeのバーに行きますよ。飲み足りない…」
やれやれ、長い夜になりそうだ…。
結局、優は松戸に帰らず、早奈江と一晩を共にした。
その時はまだ、これが後に大きな問題となるとは思っていなかった。
これが、1986年6月の出来事だった。
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