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1996_横浜のお嬢様_part1.../全話 第11~20話
全話 第1~10話<< | 第11~20話 | >>第21~30話
文字数は約15,800あり、読書の所要時間は約30分です。
1996横浜のお嬢様part1 主な登場人物
(年齢は1996年時)
会澤耕一 大手住宅会社 営業所 建築技術者 1970年(26歳)
幸田麗華 輸入商事の跡取り娘 女子大生 1976年(20歳)
白川萌奈 大手住宅会社 東京支店 事務 1974年(21歳)
幸田大介 輸入商事 社長、麗華の父 1940年(56歳)
あらすじ
故郷の婚約者から婚約破棄され、同僚の雪絵と関係を続けるが、支店の白川萌奈と交際を始め、恋人関係になる。横浜支店に転勤後、輸入品を扱う商事会社の跡取り娘・幸田麗華に見初められ、交際を始めて、三角関係になるが、萌奈は妊娠してしまうが、意外にも麗華はある提案をする
11.横浜トライアングル
耕一は、悩んでいた。
麗華から婿入りの話が出てから、萌奈と会うことを色々と理由を付けて、断ってきたが、等々明日行くと連絡があった。
もう直ぐ萌奈が来る時間だ。
その時、携帯が鳴った。
麗華に持たされれた、あれである。
多分、麗華が鳴らしているのだろう。
慌てて電話を取る。
耕一「もしもし…」
麗華「こーちゃん、ワタシ。これからマンションへ行くから。何か食材買って行くね…」
耕一「あっ、いや。これから出かける所なんだよ、明日じゃ駄目?」
麗華「ふーん、じゃ、あたし部屋で待っている…」
耕一「いや、だから出かけるので…」
麗華「…なんか、怪しい..」
耕一「全然、怪しくないから..」
その時、ピンポーンとチャイムがなる。
耕一、焦る。ガチャガチャと、ドアを開ける音。
萌奈「オハヨーウ」と言いつつ、上がり込む。電話をしている耕一に気が付く。
耕一、思わず、携帯を切る。
耕一「あれっ…」
萌奈「電話していたの?」
耕一「うん…」
萌奈「ふーん、誰?新しい彼女?」
耕一「…」
萌奈「ねー、こーちゃん。新しい彼女出来たの?最近、色々と理由付けて、逢ってくれないこと多いし、そうだったんだ。やっぱり、そんな気はしていた…」
耕一「ごめんね。話そうとしていたんだけど、言いにくくて…」
萌奈「責めているんじゃ、ないのよ。唯、なんで話してくれないのかなと、思ったの。何か理由があるの?」
耕一「実は、彼女と結婚を前提に付き合うことになりそうなんだ…」
萌奈「結婚、付き合う?」驚く…唖然としている。
耕一「そんな話、嫌だろう。だから言い出せなくてね。ご免ね…」
萌奈「謝らないで。どんな女なの?その女…」とその時。
ピンポーンとチャイムが鳴る。
耕一、直ぐに玄関へ行く。
玄関ドアを開けると、シックなドレスの麗華が立っている。
麗華、中の萌奈に気が付き、伺う。
麗華「あら、お客様?」
耕一「まー、その。紹介する、白川萌奈さん、会社の同僚…」
麗華「…ああ、前の彼女ね…」
それを聞いて萌奈が言う
萌奈「玄関先じゃ、話も遠いから、こーちゃん、中に入って貰ったら…」
耕一、慌てて「そうだね、上がって…」
麗華「失礼しますね…」とヒールを脱いで、上がり、萌奈の所へ行く。
萌奈「座ったら…」と憮然として言う。
麗華は萌奈の前には座らず、窓際の椅子へ座る。
耕一は、その二人の間に、おずおずと座り、二人の顔を交互に見る。
萌奈「こーちゃん、紹介してよ、この女…」
耕一「ええっと、幸田麗華さん、お施主さんの娘さん…」
萌奈「あら、お客様の..」
耕一「こちらは、会社の同僚で、白川萌奈さん…」
麗華「あら、社内恋愛?」
萌奈「こーちゃん、商品に手を出して良いの?」
耕一「いや、少し不味いかな…」
麗華「あら、私から手を出したので、耕一さんに、罪は無いわ…」
萌奈「この女とHしたの?」
耕一「…」
麗華「当たり前でしょ。何遍もしたわ。先週も別荘で、一晩中したわね」
耕一「…」
萌奈「こーちゃん、どうするの?どっちを取るの?」
耕一「それは、また日を改めて、話を..」
麗華「そうね、ここで修羅場もね。無粋よね…」
萌奈「それじゃ、あなた。帰りなさいよ…」
麗華「あなたこそ、帰りなさいよ…」
耕一「それじゃ、皆で、何処かへ行こうか…」
萌奈「どこへ?」
麗華「じゃー、私の家に行きましょ。下にクルマがあるから…」
耕一「そうしようか…」
萌奈「良いわよ」
三人、マンションの玄関先へ出る。
麗華の白いメルセデス280SLが停まっている。二人乗りである。
耕一「じゃー、僕と萌奈は自分の車で行くから、先に行って…」と麗華に言う。憮然として、麗華280SLに乗り込み、先に行く。
萌奈「なんなの、あの女…」
耕一「さっ、僕たちも行こう…」
と山の手通りの邸宅へ向かう。
萌奈はクルマの中でも、憮然として、耕一が話しかけても一言も口を利こうとしない。
やがて、幸田邸の大きな玄関の前に着く。
萌奈、驚いていると、麗華が来て案内する。
麗華「応接間で話しましょ…」
三人、ホールから傍の部屋へ入る。
萌奈は、驚いて呆然としている。
麗華「さっ、どうするの、耕一さん…」
耕一「どうするって言ったって..ここは穏便に…」
萌奈「何が、穏便よ。私は、こーちゃんと分かれませんからね..」
麗華「どうしても?」
萌奈「どうしてもよ。占有権は私にあるわ…」
耕一「占有権って、なんだよ?」
萌奈「私の方が、先だから、わたしのものよ。誰にも渡さない…」
麗華「そんな話、聞いたことがないわ…」
萌奈「じゃー、なんで私があなたに、こーちゃんに熨し付けて、あげなきゃいけないわけ?」
耕一「熨し付けてって、何だよ?」
麗華「熨し付けて、頂きたいわ…」
萌奈「だから、あ・げ・な・い!」
そこへ、執事が紅茶をトレイに持って、入ってくる。皆、黙る。
給仕が終わり、彼が出て行くと。
麗華「耕一さんは、どうなの?」
耕一「僕は、その、つまり..平和に..その、解決できないかと..思案して..いる訳で..」
萌奈「ああ、面倒くさい。こーちゃん、この人のこと、好きなの?愛しているの?」
麗華「当たり前でしょ、耕一さんと私は、熱烈恋愛中よ」
萌奈「私だって、強烈恋愛中よ。大体、あんたに聞いていない、こーちゃんに聞いているの!」
耕一「それはですね。どちらも好きな訳で、どちらと言われてもですね..」
結局、この日は、話は決裂したままで、後日再開ということになった。これが横浜トライアングル第1次紛争だった。
それが、1999年2月の出来事だった。
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12.横浜トライアングル第2次紛争
2月の麗華と萌奈の遭遇から、勃発した「横浜トライアングル紛争」は第1次では、双方譲らず、決着が付かず、次回へと持ち越された。
次回は3月第1週の土曜日で、場所は今回は横浜パシフィックホテルの17階の客室になった。
耕一と萌奈はエレベーターで上に上がっている。
萌奈「何回話しても、私はこーちゃんから手を引くつもりは、一切ありませからね。あんな女に負ける訳には行かないわ…」
耕一「...」
エレベーターが17階に着き、予約した部屋へ行くと、既に麗華は来ていた。
麗華「遅いわね。早く決着付けたいんだから、さっ、どこから行くの?」
耕一「いや、だから、もう少しこう、穏やかに、話をして..」
萌奈「私はいつでも、礼儀正しいわ…」
麗華「私はいつでも、レディよ…」
萌奈「でっ、こーちゃん、どちらかに決めて来た?」
麗華「そうよ、いつまで、こんな不毛な会話続けるの、ビシッと言って、終わりにしましょ」
耕一「..それが、ですね。いろいろと考えたんですが、どうも、その結論って、難しくてですね…」
萌奈「何!まだ決めていないの!」
耕一「..まー、その。そういう事でして…」
麗華「まー、呆れた。耕一さんって、そうなの。これから内で、ビジネスして貰うのに、それは困るわ」
萌奈「ビジネス?なにそれ?」
麗華「あら、話して無かったかしら。耕一さんは幸田家の婿になるのよ」
萌奈「ええ、そうなの?」
耕一「うん、そういう話は出ている..」
萌奈「知らなかった..」
麗華「こんなことは、言いたく無いんだけど..萌奈さん、ここで手を引いたら、ここは私の勝ちよ」
萌奈「何言っているの、こーちゃんが決める話よ」
麗華「耕一さんが、言えばそれできれいに手を引くのね」
萌奈「そう、でもこーちゃんは、私を選ぶわ」
麗華「なんで、そう言えるの?」
萌奈「そのうち分かるわ」
耕一「何か、有るの?」
萌奈「うん、これはこーちゃんにだけ、言いたかったんだけど、実は赤ちゃんが出来たみたいなの..」
耕一・麗華「..」驚いて、何も言えない。
萌奈「生理が遅いので、検査薬したら、陽性だったから、そうだと思う」
耕一「病院には、行ったの?」
萌奈「来週行く予定」
麗華「そう、じゃー、分かったら、又会いましょ」
その日は、それで別れた。意外にも、萌奈の妊娠疑惑が発覚して、その真偽待ちになった。翌週、再開することになった。
耕一と麗華の二人が残っている。
麗華「あれ、ホントなの?時期的に言うと、箱根に泊まった頃だけど、逢ってHしてたの?だって、あの時、私と散々して、もうこれ以上出来ないって、言ってたわよね」
耕一「うん、確かに。でもマンションに帰ったら、彼女が居て、それで…」
麗華「それで、したの?信じられない…」
耕一「それしか、思い当たらない…」
麗華「そう、まだ余裕があったのね。しくじったわ…」
耕一「もし、本当に妊娠していたら、どうする?」
麗華「私に、考えがあるわ。次会うまでに、手は打つわ」
麗華の言い方や態度は、24歳の若い女性とは思えない、落ち着きや貫禄がある。
やはり経営者の父からそういう英才教育を受けていたのだろう。
それが、1999年2月の出来事だった。
13.調停案
山の手通りの幸田邸。幸田大介が仕事をしている書斎に、麗華が入ってくる。
麗華「パパ、少し話し良いかな?」
大介「うん、どうした?」
麗華「実は、耕一さんに、恋人がいて、どうも妊娠しているみたいなの、それで相談なんだけど…」
大介「そうか、やはり、そういうことか。あの男なら、女のひとりや二人いるだろうな..」
麗華「そう、やっぱりよ。今の所は、一人みたい。そこはもう少し確認しないと、いけないかも…」
大介「それで、妊娠は確かなのか?」
麗華「病院で確認して、来週会うんだけど…」
大介「なるほど。それで、もし妊娠していたら、どうするかということか?」
麗華「そう言うこと…」
大介「麗華は、どうしたい。もし妊娠していたら…」
麗華「うん、これも相談だけど、養子として私たちが育ててもいいかなと、パパはどう思う…」
大介「うん、堕胎は避けたいから、そうなるかな。それで良いのか?」
麗華「相手の彼女が良ければ、そうしたい…」
大介「分かった。相手を怒らせないように、丁寧に交渉しなさい…」
麗華「はい、パパ」
この親子の思考は、常にビジネスライクであり、損益が判断基準らしい。たとえ、それが恋人の過ちで出来た赤ん坊でも、そうなるようだ。
翌日、麗華は、耕一のマンションへ行った。
麗華「耕一さん、萌奈さんの赤ちゃんは、分かった?」
耕一「うん、昨日連絡があった。やはり、妊娠していると…」
麗華「そう…」
耕一「どうしようか。下ろしたくは無いし…」
麗華「パパと相談したの。赤ちゃんは、こちらで引き取れないかしら。養子にして、私達で育てない…」
耕一、驚いて、麗華を見つめる。
耕一「ホントかい。それで良いの?」
麗華「そう、彼女に伝えてくれる?」
耕一「ありがとう、そう伝える…」
麗華「詳しいことは、うちの弁護士から連絡させようか…」
耕一「取り敢えず、自分が話してみるよ…」
麗華「そう、じゃー。それはそういうことで。耕一さん。今日はあれは、無いの?」
耕一「あれ?」
麗華「そう、あれ…」
耕一「ちょっとね…」
麗華「だって、この話でもう3週間もご無沙汰よ。そろそろ、溜まっているでしょ…」
耕一「まー、そうかな…」
麗華「やっぱり…」と言って、耕一の前に跪き、股間を撫で始める。
耕一は、やはり抜いて置くに越したことは無いと思うようになった。
しおらしい時が一番危ないと今回の件で、身に染みて分かった。
あの年末の箱根のホテルであれだけ、抜いたのに、その直後にこの様で有る。
どれだけ、抜けば良いのか、そら恐ろしい男だと思った。
が、惚れてしまった弱みで、それも含めて抱擁しないと、この男の妻の役目は果たせないと思っている。
ある意味、悲壮とも喜劇とも言える。そんな自分が、馬鹿な女だと思う。
それが、1999年の3月末の出来事だった。
14.出産の条件
耕一は、調布に来ている。
萌奈に会いに来ているが、萌奈は実家なので、そこへ行くわけにも行かず、かと言って、喫茶店で話せる内容でもないので、多摩川河川敷に誘って、二人で座っている。
耕一「どう、体調は、大丈夫?」
萌奈「うん、大丈夫。最近は優しいのね、こーちゃん…」
耕一「今頃分かった、自分が優しいこと…」
萌奈「そうね、もっと。色々と知りたいわ、こーちゃんのこと…」
耕一「それで、考えてくれた。先日のこと…」耕一は数日前に、電話で養子の件を伝えてあった。
萌奈「ええ、考えたけど、直ぐには結論は出せないわ。気持ちの整理が付かないの…」
耕一「そうだよね。じっくり考えて良いよ。結論でたら、連絡してくれれば…」
萌奈「今日、この後の予定は?」
耕一「特に無いけど、何処かへ行こうか…」
萌奈「そう、鎌倉行きたいな…」
耕一「良いよ、行こう」
萌奈・耕一はカレラ2に乗り、鎌倉を目指す。
こんな状態なので、会話は盛り上がらない。
萌奈「もう少し、こーちゃんと色々な所へ遊びに行きたかったな…」
耕一「そうだね、お腹大きくなると、この硬い脚のクルマじゃ厳しいね…」
萌奈「ううん、そういう意味じゃなくてね…」
耕一「どういうこと?」
萌奈「..相変わらずね..」
耕一「何が…」
萌奈「良いわよ..」萌奈は、悲しかった。
赤ちゃんが出来て、てっきり耕一は結婚しようよと言ってくれるものだと、思っていた。
もしくは堕ろして欲しいと。
なのに、相手の女の養子にするという。
あんまりだと思う。
本当は、耕一に「あんたは、大馬鹿よ」と言ってやりたかった。
それにしても、相手が悪かった。
あの山の手通りの邸宅に行ったとき、これは敵わないと思った。
それにしても、耕一を思う気持ちでは、あの女よりも自分の方が強いと、それは自負しているが、それが、何の役にも立たないことは百も承知している。
だから、そんなことも気づかないのか、気づいているが、知らん振りなのか、耕一にも腹が立つ。
こうなったら、無理難題を吹っ掛けて、気の済むようにしようと決心した。
子供が生まれるまでは、耕一には会える訳だし、産んでからも会えるようにしてやろうかと、考え始めていた。
そんなことを耕一の横の助手席で窓の外を流れる風景を見ながら、考えていた。
翌週、山の手通りの幸田家で、三人で話し合いが持たれた。そこで萌奈から色々と条件が出された
出産に関する費用は、全て幸田家が負担すること。
出産は、希望する場所・医療施設でできる。
出産前後の休職その間の手当を幸田家が負担すること。
出産後は、希望すれば、子に面会できること。
同じく、希望すれば、耕一と会えること。
その他、幸田家は出産とそれに付随することに誠意を尽くすこと。
そのメモを耕一と麗華が読んで、
麗華「大体は、分かった。少し時間ください。内部で検討します…」
萌奈「わかりました…」
麗華「昼食を用意しているので、向こうの部屋へ行きましょ…」と二人を食堂へ誘った。
麗華「ランチですが、どうぞ…」というが、テーブルの上には、盛りだくさんの料理皿が並べられている。
耕一「いつも、こんなに食べているの?」
麗華「ううん、今日はお二人が来るので、コックにお持てなしの料理を頼みました…」
萌奈「ふーん。こんなに食べていたら、間違いなく、太るわね…」
耕一「確かに。でも、美味しいね。コックって専属なの?」
麗華「普段は、執事やメイドが作ったりしますが、こう言う時は、近くのレストランからコックに来て貰います…」
耕一「麗華さんは、料理は?」
麗華「簡単なものは、作れますが、得意ではないかな。萌奈さんは?」
萌奈「あたしも、料理は自信ないな…」
耕一「もしかして、二人より自分の方が、料理できるとか…」
麗華と萌奈は、顔を見合わせる。
麗華「私、3月で卒業だから、4月から料理教室へ通うつもりなの…」
萌奈「私も産休する間、習おうかな」
これが、1999年3月下旬の出来事だった。
15.跡継ぎ婿へのプレゼント
倉庫の現場も契約工期より2週間前に引き渡しを終えた。
その引き渡しが終わり、大介から話があるから会社へ来るように言われた。
大日本大通りの会社へ行くと、秘書から少し待ってくれと言われた。
少しすると、大介が出てきた。
大介「耕一君、昼飯は食べたかね?」
耕一「いえ、まだですが…」
大介「それなら、近くの店へ行こう」と近くの中華料理店の個室へ通された。
どうも幸田は常連の様で、ホール係と何事か話をしている。
4人掛け円卓に、二人で座って、メニューもろくに見ないで注文をしている。
大介「耕一君は、横浜は長いの?」
耕一「丁度1年になります…」
大介「どうしてうちの麗華は、君を選んだんだと思う?」
耕一「さて、どうなんでしょ…」
大介「外見や寝技だけじゃ無いと思わないか…」
耕一「..」
大介「あの娘は、自分が会社を背負うことをキチンと自覚している。だから、真に信頼できるパートナーを探していたんだ。でないと、私に知らない相手を押しつけられると思っている..」
耕一「…」
大介「去年、君が会社に来たときに、あの娘は偶然君を見たんだろうが、何か感じるものが有ったんだろう。その後、現場に差し入れに行ってたよね。それは、自分の判断を確認していたんだね」
耕一「..」
大介「確かに、あの娘が小学生の時に、母親が、ガンで亡くなってから、私が甘やかして育てたので、いろいろと問題はあるが、親バカの視点を外しても、あの娘には、ビジネスセンスはあると思う。だから耕一君、君にはサポートを頼みたいんだ。暫く、下積み仕事になるが、頼むね」
耕一「分かりました。そうします」
大介「それと、あの養子の件だが、生まれて落ち着いたら、山の手通りで養育するから、先方の彼女には、弁護士から連絡させる。これからはそっちの方面は、慎重に頼むね。麗華を大切にな」
耕一「はい、気をつけます」
大介「それと、クルマ好きだそうだが、後で欲しいクルマがあれば、秘書か麗華に言ってくれ。入社祝いにプレゼントするから…」
その後、料理がテーブルに運ばれ、食事になった。色々と指示され、釘を刺されて、飴とムチのランチタイムは、食事の味もよく分からなかった。
その後の話で、耕一の今の会社の退職時期と、幸田商事の入社時期を、確認後連絡することになった。
翌日、耕一は住宅会社へ退職届を出し、7月上旬に退職し、数日後幸田商事へ入社することになった。
5月のGWは、以前行った山中湖畔の別荘へ泊まりに行くことになった。そこへ向かう、フェラーリ ディーノの車中での会話。
麗華「パパに色々と言われたでしょ…」
耕一「うん、色々とね…」
麗華「何言われたの?」
耕一「沢山…」
麗華「そう言えば、クルマは決めた?」
耕一「うーん、ロータス エリーゼ にしようかと…」
麗華「エリーゼか。ライトウエィト スポーツカーか。こーちゃんらしいね。事故らないでね…」
耕一「わかった、気をつけるよ…」
麗華「もうパパ達、着いているかな…」
耕一「パパ・た・ち、って社長だけじゃ無いの?」
麗華「うん、秘書の佐藤愛子さんも一緒なの…」
耕一「あの秘書の方?」
麗華「いずれ分かるから、先に言うけど、パパと愛子さんはそういう関係なの…」
耕一「そうなんだ、知らなかった…」
麗華「会社では、ビジネスライクにしているからね。その内、結婚するかも、しれない。多分、私たちが結婚してらか、そのタイミングを考えているんじゃないかな…」
耕一「そうなんだ…」
麗華「パパもママが亡くなってから、15年になるんで、良いんじゃないかな。愛子さんも、いい人だし…」
耕一は、何度か大介と面談する度に、佐藤愛子と話をしているが、優しい年上の美女で、どことなく雪絵に似ていたので、印象に残っていた。
最初見たときは、一瞬、雪絵と思う程、似ていた。容姿だけで無く、纏う雰囲気も似ていたし。
少し陰があるところも。
別荘に着くと、大介のシルバーのメルセデス560SLが停まっていた。
麗華の予想通り、愛子も来ていて、台所で何か作っていた。
大介「耕一君は、ここは初めてか?」
耕一「いえ、一度..」と言いかけたら、麗華に肘鉄された。
麗華「あれは、パパには内緒だから…」と耳元で囁く。
耕一「聞いたことは、ありましたが、初めてです…」
大介「まっ、麗華の部屋に二人は狭いから、客室で良いかな…」
麗華「パパ、大丈夫。私の部屋で…」
大介「そうか?」
愛子「そうよね…」と上目遣いに微笑む。
それが、1999年の5月GWの出来事だった。
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16.下積み期間
耕一は、予定通り住宅会社を7月上旬に退職し、幸田商事に1週後に出社した。
耕一「おはようございます」
愛子「おはようございます。社長がお待ちです」
社長室に入ると、もう一人が居た。
大介「耕一君、こちら輸入部の江川部長」
耕一「会澤耕一です。よろしくお願いします」
江川「こちらこそ、よろしくお願いします」
大介「耕一君は麗華と婚約することになっているんだよ」
江川「そうですか。おめでとうございます」
大介「ありがとう。だからと言って、手加減しないで、鍛えてほしいんだ。婿として、恥ずかしく無い仕事が出来ないと困るからね」
江川「今までは、どんな仕事を」
耕一「住宅会社で現場施工管理を」
江川「あの倉庫・工場を担当された方ですか」
耕一「はい、お世話になりました」
江川「そうですか。初めは下積み仕事になりますよ。覚悟してください」
耕一「はい、覚悟しています」
それから、江川について1ヶ月基本的な知識や仕事のフローを覚えた。
入社後最初の週末、耕一のマンション。
麗華「どうですか仕事は?」
耕一「まだ1週間だから、何も分からない…」
麗華「耕一さんのあだ名が決まったらしいわよ…」
耕一「なんなの?」
麗華「管理人だって…」
耕一「はっ、管理人..なに、それ?」
麗華「朝は誰よりも早く、出社し。会社のセコムを解除し、そして帰宅は誰よりも遅く、セコムの施錠もする。だから…」
耕一・麗華「あはは」
耕一「確かに…」
麗華「それより、最近ご無沙汰だから、今晩はサービスしてね…」
耕一「そうだね。久しぶりに、しっとり行きますか…」
麗華の予想通り、その晩は、何度行ったか分からなくなった。
確か8回までは、数えていたが、その後は記憶が朦朧として、覚えていない。
耕一は、相変わらず、”絶倫耕一”だった。それが、麗華が付けた耕一のあだ名だった。
麗華は耕一無しでは、生きていけない体になっていた。
幸田商事は、グループ会社で日仏食品とセダという2社で構成され、日仏食品の下にはユニバースリカーズがあり、セダの下には幸田ファーマと他2社があった。
幸田商事は、幸田大介の祖父、幸田・ドニ・一郎が1949年に創設した、彼はフランス人の父親を持ち、若い頃フランスに留学をしていた。
その関係で、フランス原子力庁のエージェントで核医学分野やフランス・シトロエンの代理店をしていた時期もある。麗華の日本人離れした美貌はその所為かもしれない。
今でも放射性医療医薬品の製造や研究機関への販売もしている。
江川部長は、日仏食品のフード&ビバレッジとしてフランス食品会社から食品と飲料ブランドの輸入とマーケティング事業を担当している。
だから江川は年5,6回海外出張している。だから耕一にも英会話等の語学力は求められた。
因みに、大介も麗華もビジネスや日常的な英会話は、問題なかった。
耕一は入社後、週末には英会話教室へ通うことになった。
それが、1999年7月の出来事だった。
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登場人物
会澤耕一 大手住宅会社 営業所 建築技術者 1970年(26歳)
幸田麗華 大介の長女 女子大生 1976年(20歳)
白川萌奈 大手住宅会社 支店 建築担当事務 1974年(21歳)
幸田大介 輸入商事 社長 1940年(56歳)
佐藤愛子 幸田商事 社長秘書 大介の愛人 1966年(32歳)
ルシア・マルガリータ・ロペス ワイナリー勤務 1978年(18歳)
江戸直樹 幸田商事 輸入部 部長 1950年(46歳)
会澤 新 耕一の父
会澤麻子 耕一の母
会澤 恵 耕一の姉
17.ポジション
耕一は、幸田商事に入社して初めて、会社組織の構成の複雑さとその変遷の多様性に驚いた。
輸入という共通項以外では、殆ど関連性のない多様な商品群を扱っていたからだ、最初食料品がメインだと思っていたが、扱う取引が利益になるものなら拘りは無かった。
過去には自動車シトロエンの輸入代理店までしていたからだ。
だから山の手通りの邸宅のガレージにあれだけ名車があるのかと納得した。
流石に今はその部門は、売却されてないが。
耕一が前職で現場を担当していた建築は、医療用放射性治療薬を研究・貯蔵庫だったのも、そうだ。
その部署は、会社の中でも独立性が高い。
耕一が最初に配属されたのは、江川部長のフード&ビバレッジだが、食品輸入と現地企業との交渉や商品開発、連携など一から携わることも多い。
だから現地企業や生産者たちとの交流は重要になる。
当然語学力が必要であり、耕一は翌年1月から3ヶ月間カナダへの語学留学が予定されている。
8月の旧盆に休暇を取った耕一は、麗華を両親に紹介しに郷里の水戸へ帰省した。麗華のレンジローバーが一番大人しいので、それで常磐道を水戸へ向かった。
耕一「両親はどちらも教員で、跡取りとか難しいことは言わないから、あと姉がいるけど、三人とも普通だよ…」
麗華「なんか、私達が普通じゃ無いような言い方ね…」
耕一、心の中で「邸宅や名車が詰まっているガレージは普通じゃないと…」と思ったが、声には出さなかった。
会澤新「ようこそ、耕一がいつもお世話になっています」
麗華「はじめまして、幸田麗華です。よろしくお願いします」
新「耕一がおたくの会社へ入社したと、聞いてます。お父様にも宜しくお伝えください」
麗華「父もよろしくと申しておりました」
耕一「実は婚約しようと思っていて、11月に横浜に来てくれるかな…」
会澤麻子「それはおめでとう」
その晩は、会澤家の夕食を麗華も一緒に食べたが、普通の家庭のこういう食卓も経験が無いらしく、珍しがっていた。
やはり、浮世離れしていると思った。
会澤恵「お兄ちゃんは、何処で麗華さんと知り合ったの?」
麗華「会社の建築現場に差し入れに行って、それで親しくなったんです…」
恵「現場でナンパしたの?」
耕一「ナンパじゃなくて、なんとなく親しくなったんだよ…」
恵「なにも向きになって言わなくても..」
麗華「ふふ、恵さん、実は私が、ナンパしたんですよ、会社で耕一さんを見かけて、ピンと来たんです。霊感みたいな、あっ、この人だと、不思議ですが..」
恵「へー、そんな魅力あるかなお兄ちゃんに…」
耕一「有るんだよ、お前には分からないの」
麗華、横で微笑む。
麗華「明日、何処かへ連れて行ってくれる…」
耕一「大洗海岸に連れて行くよ…」
翌日、大洗海岸で二人は座って沖を見ていた。
麗華「萌奈さん、来月予定日ね。順調らしいけど…」
耕一「先月、会ったけど、お腹大きくなっていた。女の子だって…」
麗華「そうなんだ、名前考えた?」
耕一「うん、二人の名前を貰って麗奈にしようかと、どう?」
麗華「あなたらしいわ、良いんじゃない…」
翌9月、東海村でJCO臨海事故が起こるが、この時はまだ誰も知らない。
それが、1999年8月の出来事だった。
18.養子誕生
萌奈の出産については、三人で細かく話し合いがされた。
子は幸田家の養子になること、萌奈は母親としての親権を麗華に譲ること。
そして萌奈の出産は周囲の家族や会社関係者に悟られないようにしなければならなかった。
だからお腹の変化が顕著になる前に、海外留学するということ、にして、会社は休職扱いに、家族にはそれで1年留守にすると話した。
誰もそれを信じて、疑わなかった。
麗華「本当にごめんなさいね…」
萌奈「いえ、こうなることは半分覚悟していましたし、本当はこーちゃんに結婚を迫ろうとしていたんですから、しょうがないですね…」
耕一「やはり、そうだったんだ…」
麗華「耕一さんも、悪いのよ。なんで避妊しなかったの…」
耕一「いや、てっきりピルを飲んでいるのかと..」
麗華「そういう所は、今後直して貰います…」
耕一「..。」
なにか、将来を暗示するやり取りである。
この件で、三人の意見が一致したのは、子供は産んで育てるという事だった。
大介も含め、誰も子を堕ろすという考えは無かった。
大介にしてみれば、確かに幸田家の遺伝子は入っていないが、将来の婿の子供で有れば、それで十分で、幸田家の跡取りの資格があると考えた。
例えそれが女子でもだ。
だから将来、麗奈と命名されるその子が、幸運だったのは、そういう大人が周囲に居ると言うことだったし、生まれてからも周囲から深い愛情を持って、育てられることになった。
萌奈は山の手通りの幸田邸で、出産した。産婦人科医が出産時来たが、安産で母子ともに健康だった。
耕一「がんばったね、女の子だよ…」
萌奈は赤ちゃんの顔を見ると、ホッとして眠った。
翌日、麗奈と命名され、耕一が父として出生届を市役所へ出した。
麗華の「麗」と萌奈の「奈」を取り、麗奈とした。
授乳期は萌奈が母乳を与えた、飲みは良く、健やかに育った。
萌奈は、出産後の生活については、元の生活に戻るつもりでいたが、流石に自分が産んだ子と別れるのは、とても辛く、悲しんだ。
このまま、ずっと一緒に居て育てて行きたかった。
それを麗華や耕一も、身近にいて、強く感じた。
麗華「もし、萌奈さんがこのまま麗奈と一緒に暮らすことは、可能なの?」
耕一「それは、当初の約束から外れることだけど、全員が納得しているなら、それは良いんじゃ無いのかな…」
萌奈「実際にこうなると、やはり麗奈と別れるのはとても辛い…」
麗華「だったら、暫く3人一緒にここで暮らしてみる?」
耕一「そうなると、萌奈の立場はどうなるの?」
麗華「萌奈さんは産みの母で、私は育ての母ね…」
萌奈「私は、こーちゃんとHして良いの?」
麗華「うーん..それは、少し考えさせて…」
耕一「自分は、良いけど..」
麗華「ちょっと!」と、耕一を睨む。
この問題は、麗奈への授乳期が終わるまでペンディングとされた。
誰も正解をまだ持ち合わせていなかったからだ。
そして麗奈は幸田家の養子として耕一、麗華と萌奈の三人によって育てられた。
昼間、彼らが居ないときは、メイドや執事が面倒を見た。
夜泣きするときは、萌奈が授乳を与えたが、離乳食が始まるとそれも順調に食べた。麗華は自分の子の様に愛情を注いだ。
大介も初孫が出来たと喜んでいたので、麗奈の部屋は、あっという間に、おもちゃで一杯になった。
10月に耕一に岸野から久しぶりに電話があった。
岸野もまた住宅会社を退職して、大手のホームセンターのSEとして再スタートしていた。
岸野「久しぶり。今度横浜へ行くんだけど、会いたいね…」
耕一「ああ、美味しい中華料理店に連れて行くよ…」
岸野「いいね、そう言えば、白川萌奈さんが海外に語学留学していると聞いたけど、そうなの..」
耕一「ああそれね、その時にまた…」
数日後、中華街の市場通りの梅蘭という店で、待ち合わせした。
岸野が先に店に来ていると、そこへ耕一と萌奈が現れる。
岸野「あれ、白川さん、帰国していたの?」
萌奈「そうなの、先月に…」
岸野「何処へ留学していたの?」
萌奈「近くの外国…」
岸野「..?」
耕一「まっ、その話は後で、どう新しい会社は?」
岸野「全くゼロから立ち上げなんで、大変だよ..」
その日は、そんな話で別れたが、萌奈は岸野と交際を始めた。
山の手通りの幸田邸で娘と暮らしたいが、やはりそこは彼女が何時までもいる所では無くなりつつあり、気持ちは動いた。
翌月の耕一と麗華の婚約の1週間前に、山の手通りの幸田邸を出て、調布の自宅へ帰った。
萌奈「色々とありがとうございました…」
麗華「麗奈は、ちゃんと育てるから安心してね…」
耕一「何かあれば、連絡して…」
それが、1999年10月の出来事だった。
19.婚約パーティー
11月、山の手通りの幸田邸で耕一と麗華の婚約の儀があり、指輪交換や親戚の顔合わせがあり、その後婚約パーティーがあった。
招待客は150名以上になり、市内の2件のレストランからコックやフロアー係が20名近く派遣された。
司会に指名された大介が挨拶を始めた
大介「本日はお忙しいところ、ありがとうございます。今日長女麗華と会澤耕一君は婚約しました。婚約です。結婚ではありません。婚約でこれだけ沢山集まって頂き、結婚式の時は、どうしようかといまから頭が痛いです」
客一同が大笑い…
次に耕一と麗華が挨拶をする
耕一「今日は、ありがとうございます。麗華さんと今日、婚約しました会澤耕一です。初めての方も大勢いらっしゃいますが、今後ともお付き合いをよろしくお願いします。」
麗華「今日婚約しました。私が婚約したので、ショックで寝込んだ方も多いと聞きました。でも会場には、私と同じくら魅力的な女性が大勢来ています。彼女たちも待っていますので、よろしくお願いします。」
と言うと、若い男性陣は「おー」と声を出していた。
やはり、この親娘は、ただ者では無い。
婚約後、耕一も白楽のマンションから山の手通りの幸田邸へ越してきた。
身の回りの物は大して無く、カレラ2をガレージの隅へ入れただけである。
ある意味裸ひとつで乗り込んできた風でもある。
多分耕一が引っ越してきて、一番喜んだのは麗華である。
耕一の部屋は麗華の部屋の隣になり、二部屋は内部で行き来ができる。
だからいつでも麗華は耕一におねだりが出来ることになり、引っ越し当日の夜、耕一の部屋を覗いた。
「どう?片付いた?」と水色のネグリジェを纏った麗華が入ってくる。
耕一「麗奈は寝た?」
麗華「今寝たところ、あと3時間は寝ているね…」
耕一「うん、まだ段ボールの本が…」
麗華「ふーん、こんな本を読んでいたんだ..」と、紐で結ばれた本の背表紙を見る。それは建築の専門書である。
別な本の束を見つける「吉行淳之介?って、誰?」
耕一「昔、赤線地帯と言われた色街の女達を書いた小説家だよ…」
麗華「へー、そうなんだ、面白い?」
耕一「女性の微妙な心と肉体の変化や動きの表現は秀作だと思う…」
麗華「ふーん、そんなの読んで、あたしの気持ちと体を分かるように努力していたのね…」
耕一、苦笑いし「そう、美女の心理と肉体は複雑で、繊細だからね…」
麗華「分かっているわね、そう繊細なのよ。だから、あたしが今、何を考えているか、当てて見て…」
耕一「多分、こういうことかな…」と麗華の顔を上げて、キスをする。
麗華「流石..その先は?」
耕一「それは、こうだね…」と言いつつ、麗華の首筋から胸元へ舌を這わす。
片手で左の丘陵を揉みしだく。
ベットへ運び、脚の方から顔を入れて、腿内側を舐めていく、麗華はネグリジェ以外何も身についていない。
小さな茂みが、こんもりとある。
その中を耕一の舌が掻き分けて進んで行く。
もう既に溢れている泉を一瞬、舐めるとまた、太股へ移動してしまう。
代わりに、耕一の指が、少しづつ泉の中へ入っていくと、麗華は溜まらず、悶える。
指で周囲や中を刺激しつつ、さらに口で吸い始めると、あえなく麗華は行った。
それが、1999年11月の出来事だった。
20.ロンドン語学留学
耕一は、クリスマスと正月を初めて山の手通りの幸田邸で過ごした。
なにせ初めての事ばかりで、麗華の言うがママだった。
特に正月は、年賀の挨拶で来る客が多くて、それへの対応で追われた。
やはり、商売は人間関係なので、最優先だった。
だから休みとは名目で実際は仕事をしていたことになる。
今までの生活とは真逆で有るが、その道を選んだのだからしょうがない。
麗華「明日から、ロンドンだね。3ヶ月か…こーちゃんが居ないなんて、あたしもロンドンに行こうかな…」
耕一「ばかだな、3ヶ月なんて直ぐだよ。行ったと思ったら、直ぐ帰って来ているよ。」
麗華「あとね、向こうで金髪の美女と浮気は絶対ダメよ。ちゃんと見ているからね。離れているから大丈夫なんて思わないでね…」
耕一「何、言ってんだよ。そんな余裕も無いし、大体そんなに信用無いの?」
麗華「まー、前科ばかりでしょ。証人が隣の部屋で寝ているわ…」
耕一、それを言われると、グーの根もでない。
麗華「それより、早く…」とベットに倒れ込んで、耕一の股間を愛撫し始める..。
留学先はロンドンで翌日、ANAの直行便でロンドン・ヒースロー空港へ向かう。
語学留学先は、ロンドンの語学学校でビジネス英語の最短12週間28レッスンを選んだが、それ以上、業務を空ける訳にも行かず、これになった。
カナダ・バンクーバーという選択肢もあったが、日常的な英会話から経験することと、幸田商事のメインの取引先はフランスが多いので、帰路に2^3週間フランスに寄り、先方の会社を視察・挨拶を兼ねることになった。
そしてそのタイミングで麗華と合流することになった。
婚前旅行なのであろうか、社長の娘と婿だから許されるのだろう。
3ヶ月の留学はあっという間だった。
体験できたことと身についた語学力は大したことはないが、積極的に会話をしていくことの大切さは良く分かった。
あと、ロンドンで正解だった。
やはり発音がクィーンズイングリッシュで、耳が慣れたことも良かった。
同じクラスの仲間と食事やパブへ行くことも多く、その中にスペインから来ていた、ルシア・マルガリータ・ロペスと仲良くなった。
彼女はスペインの有機農法ファームで働いており、耕一と共通の話題も多く、気があった。やがて二人で大英博物館に見に行くことが多くなった。
幸田グループの日仏食品の扱うワインメーカーやワイナリーがスペインに多く、4月にスペインへ行くと言うと、私も案内するから、マドリードで会おうと言われ、再会を約束した。
勿論、深い仲になることは、避けたが、ルシアはそんな雰囲気もあった。
4月にパリへ移動する際は、ヒースロー空港まで見送りに来てくれた。
遠目には、彼女の目には、涙があった様に見えた。
パリで耕一は3ヶ月ぶりに、麗華と再会した。
先にホテルに着いていた麗華は、ドゴール空港に迎えに来ていた。
再会した二人は、ホテルへ直行し、3ヶ月ぶりの逢瀬を楽しんだ。
翌日は、パリ市内の観光を楽しんだ。
麗華は中学生からフランス語を身につけており、日常会話だけでなく、ビジネス会話も十分通用していたから、3日目から、仕入れ先の農園やシャトーへ足を運んだ。
リヨンの南にある、南ローヌの農園に行った。
ヴィニュロン・ド・ランクラーヴを生産している。
またサヴォワ地方のシャンペリーのメーカーも回った。
そして、スペインへ行った。
ここには13社取引先があり、ワイナリーや伝統的なワインメーカーが多い。
流石に全部を回ることは無理だが、ロンドンで知り合いになったルシアが働く有機ワインメーカーへ行くことになった。
耕一がルシアに連絡すると、農園の近くまで迎えにくるという。
耕一「日仏食品で、イタリアの有機農法ファームのオイルやパスタが大変評判になったが、スペインの有機生産面積は、ヨーロッパで第1位なので、一度現地を見てみたい…」
麗華「そうね、可能性は高いし、有機農業事業者は増えていると言うから、一度見てみたい。こーちゃん、最近分かってきたね…」
耕一「ようやく、麗華から褒められようになってきた…」
麗華「そうよ、仕事でも期待しているからね…」
耕一「その、でも、って気になるな…」
スペイン東部のバレンシアにあるボデガス・ネレマンを訪問した。
ルシアが案内し説明してくれた。
ルシア「土壌の管理から一貫した”自然派”のこだわりワインを造るため、ブドウ栽培において除草剤や殺虫剤を使用しないオーガニック農法をしています」
麗華「認証は?」
ルシア「ワイン製造中に動物性由来の清澄剤を一切使用しないヴィーガン認証を受けています」
帰国後、江川に報告して、日仏食品で取り扱うことになった。
これが、2000年4月の出来事だった。
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