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2010_横浜のお嬢様_part4.../ 6. 女優の自宅へ
登場人物(2007年時点)
幸田麗華 幸田G 社会福祉LPF社長 1976年(31歳)
幸田耕一 KGC建設 社長 麗華の婿 1970年(37歳)
土岐多華子 クルマ好き女優 耕一と愛人 1975年(35歳)
12月初頭の綺麗に晴れ渡る青空の朝、冷え込んだガレージからポルシェ356 A スピードスターを引きだした。
1.6Little空冷水平対向エンジン4気筒は、独特の乾いたアイドリング音を出す。
今日は、平日だが社長の特権で、会社には休むとだけ言ってある。
特に急ぎの案件も無く、最近付いた秘書の安西久美子には、急用の場合のみ連絡することと、指示してある。
幸田商事の総務から出向してきているので、優秀である。
但し容貌は至って普通である。
女癖の悪い、耕一に考慮した人選だと、周囲は見ている。
これで少しでも美貌の女性を配置したら、直ぐに手を出して、また面倒な事になると思われた。
そんな事を、考えてながら横横道路へ乗った。
今日は土岐多華子の自宅へ招かれている。
彼女の家は、極楽寺駅の側にあると、住所を教えられた。
スピードスターの調子は良い。
先週専属の整備工場でこれも点検をしたが、特に異常も無く、エンジンは乾いた音を立てて回っている。
幌は、下ろしてある。
初冬の冷たい風が回り込んでくる。防寒対策は万全だ。革帽子に革ジャン、バックスキン手袋等..。
1950年代のクルマなので、そういう空力的対策は低い。
最近のタルガやボクスターなら、乗員の頭の上をそよそよと微風が渡るくらいだが、これは盛大に、髪の毛を乱す。
多華子が乗るときは、スカーフで髪を纏めないとと忠告した方が良いな思いながら、南下する。
こうしてデートで恋人に会いに出掛けるときのワクワク感は他では無い。
生きている甲斐があるとさえ思ってしまう。
鎌倉ICから下道に下りた。
多華子の家は、切通し峡の北側にあり、道路からは直接見えない。
ガレージの前に来たら、電話をすればシャッターを開けるからと言われていた。
表札も出て無くて、一度通り過ぎてしまった。
Uターンして、電話をするとシャッターが動いているガレージがあり、奥にジャガーMk2が見える。
その隣にスピードスターを停める。
階段から多華子の姿が見えた。
自宅の所為か、大きめのトレーナーにジーンズだったが、後ろで纏めたロングヘアに良く似合っていた。
暫く、彼女の姿を追っていた。
彼女は勿論、スピードスターの近くに来て、暫く見ていた。
多華子「356に乗れるなんて夢のよう。昔から1番乗りたかったクルマだったんですよ」
耕一「喜んで貰えて良かった…」
多華子「356も海外で見て、こんな素敵なクルマがあるんだと知って、色々と調べたの...」
耕一「どうして、今まで乗らなかったの...」
多華子「ポルシェはポルシェじゃないですか...20代で乗るにはちょっと生意気かなと...買うにはまだ早いと...ある年齢が来たらと...だんだんとその年齢に近づいている気はします...」
耕一「暫く、乗ってください...」
多華子「さっ、上に行きましょ…」と玄関へ案内する。
最初はリビングに案内された、大開口のピクニックウインドウからは、湘南の海が一望出来た。
リビングも40畳はありそうで、壁は漆喰で暖炉はRCだった。
建築家を聞くと、吉村順三と...巨匠だという。驚いた。
多華子「今、準備しているから、何か飲んでいてね...ビール、バーボン、そこのミニバーにあるから適当に飲んでいて...」
飲んで良いというが、クルマで帰れなくなるけど、ということは…と考えてしまった。
大体、彼女以外に他の人の気配がしない。
耕一「ここにひとりで住んでいるんですか...」
多華子「いつもは、付き人がいるんですか、今日は休みで居ません…ふたりだけです...ふふふ」と意味有り気に、一瞬上目遣いに見る。
耕一「何か手伝いましょうか...」
多華子「じゃー、このお皿、テーブルへ持っていってくれます...」
耕一「はい...」大体この男、家で食事の手伝いとかしたことが、無い。
食事の用意も出来て、ふたりワイングラスで乾杯をする
ふたり「乾杯!」まだ昼である…
それが、2007年12月の出来事だった。