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[恋愛小説]1992年のクロスロード.../5. 突然の贈り物

由佳は驚いた。

大きな花束が雅弥の手元にあった。

その花束の赤いバラや色とりどりの花々がその周囲の雰囲気を鮮やかに変えていた。

雅弥は立ち上がり、その花束を由佳へ「これどうぞ。」と手渡す。

唖然とする由佳。

由佳「如何したんですか?この花束は。」

雅弥「美しい人には、美しい花が似合うと思って。」

由佳「えっえ。」驚いて暫く、言葉も出ない。

由佳「でも、もらえません。貰う理由も無いし。」

雅弥「そうですか、じゃー、捨てて下さい。」

由佳「捨てる?そんな。」

雅弥「その花束は、高峰さんに貰って貰えるか、捨てられるか、どちらかしか無いんですよ。」

何という事を言うのだろう、この福山という男はと思った。
と同時に心を激しく揺さぶられた。そして、その意味は..。

その晩のディナーで何を話したのか、由佳はよく覚えて居ない。隣に置かれた花束が気になっていた。家に持ち帰ったとき、驚くであろう家族になんと言おうか。

店を出た後、自分の車の助手席に雅弥を招き入れて話の続きをした。

雅弥「もっと一緒に居たいね。」と言われた時、由佳は心に決めた。

由佳「この車、お父さんの車なんで、この駐車場に置いていくのは出来ないから、福山さん、運転してもらえる。」

雅弥「ああ、じゃー、席変わります。」

二人、一度外へ出て、席を交代する。

レストランは16号に面しているので、その沿線沿いには、恋人たちのためのホテルは多い、ICの傍にも大きいのがあった。

走り出してから、驟雨になった、急に大粒の雨が音を立ててフロントガラスに当たり始めた。

駿雨が降る中を走るクルマの中で「雨宿りしよう」と、雅弥が言う。

軽く頷く由佳。

部屋に入ると、外で閃光が光り、暫くすると雷が落ちる轟音がする。

「きゃっ。」と短く叫んで、雅弥に抱きつく由佳。

見上げる由佳の唇に自分の唇を合わせる雅弥。

何故こうなってしまったのか、雅弥には分からなかったし、自分で止めようも無く、規定通り物事は動いているように、感じた。

それが、悪いことだと認識していても。

それは由佳も同じだった。

そうなる先は自分でもよく分かっていたし、それが後ろめたいことだと百も承知だったが、雅弥の誘いは、魅惑的だったし、それに抗うのは無理だった。

由佳は、恋人の松山とは、土日に逢っていた。

今の会社に就職する際に、日曜日は休みという条件で就職したから、逢うのは日曜日しかなかった。

一方、月曜から金曜は、業務上雅弥と仕事の件で電話で話すことが多いが、「今晩どう?」と誘われると、「そうですね。それでお願いします。」逢う約束をしていた。

休日は松山、平日は雅弥と使い分けしている自分に嫌気も差すが…。

それは、雅弥も同じだった、打合せが入っていない日曜は、泉美とあってデートしたし、平日の勤務がある日の晩は、由佳と逢うというダブルスタンダードの生活が始まった。時々、それで良いのかという気持ちにもなったが、由佳に逢いたいという気持ちが勝った。

それには如何とも出来なかった。

やがて梅雨も明け、幸子から海へ行こうと言われ、阿字ヶ浦海水浴場へ二人で遊びに行った。
そしてその後は、いつもの大洗パークホテルへと。

なにか、定例の行事の様だと、雅弥は思った。

幸子とはもう6年前から付き合っていて、周囲もそろそろかなという関係である。

なのに、踏み切れないのは雅弥の優柔不断な性格なのだろう、口では独立してからと言ってるが、それだけなのだろうかと、最近では幸子も思い始めている。

それが、1992年6月の出来事だった。

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