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555(ファイズ) 「人類の進化形」との共存

「仮面ライダー555(ファイズ)」(以下ファイズ)は2003年1月から一年にわたり放送された番組です。
放送から20年が経過して公開された映画「仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド」を先日観てきました。原作全50話で不明だった点が多く解消され、面白く、満足したのですが、このブログでは娯楽として楽しむのとは違う視点で考えてみたいと思います。

映画に合わせて公式にWeb上でけっこう詳しく公開されているので、このブログでは映画を観ていない人でも大丈夫な内容しか説明してません。
もっとも、今回の映画は初心者に配慮しているようには思わなかったので、映画そのものは原作を観ていない人にはわけわからないのではと思っています。かつてのファイズのファンのためだけの映画なのかな。

以下、2003年1月から放送された50話を「原作」、同年に公開された「劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト」を「映画第一作」、今回公開された「仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド」を「映画第二作」とします。

なお、第一話と第二話は次のURLから見ることができますので、よければご参照ください。
仮面ライダー公式ポータルサイト:仮面ライダー555

概要

仮面ライダーは大まかにいえば怪人を肉弾戦でやっつけていく物語ですが、ファイズでは怪人「オルフェノク」を主人公・乾巧(いぬい・たくみ)がファイズに変身して戦います。
怪人オルフェノクに襲われると人間は死んでしまうのですが、まれに死なずにオルフェノクとして再生します。再生した人は自分がオルフェノクになったことは認識していながら、ふだんは姿形も記憶ももとのままです。

オルフェノクの中には、日常的に人間を襲うオルフェノクもいれば襲わないオルフェノクもいて、(死体になったとき見つからなければ)今までと変わらない生活を続けているオルフェノクすらいます。でも一度死んでいるので、行き場を失った人を秘密裏に保護し、従業員として雇い入れているのが大企業・スマートブレイン社です。
でもスマートブレイン社は(「原作」では)「日常的に人間を襲ってこそオルフェノクだ」と考えているのか、「人間を襲うオルフェノク」をやっつけるファイズを邪魔に思い抹殺しようとします。

一方、もう一人の主人公である木場勇治(きば・ゆうじ)は「人間を襲わないオルフェノク」で、“人間とオルフェノクの共存”を目指しているため同じくスマートブレイン社から狙われます。
二人の主人公・乾巧と木場勇治の交流と対立が、ファイズの見どころのひとつだったと言えるでしょう。

以上が「原作」の概要ですが、「映画第一作」と「映画第二作」は「原作」の後の二つの未来をパラレルに提示しています。
「映画第一作」はオルフェノクが多数派となり人間を滅ぼそうとする未来、「映画第二作」は人間が多数派となりオルフェノクを滅ぼそうとする未来です。

二つの道

ここからが本題。
もし「人類の進化形」(と「原作」で説明されていた)であるオルフェノクが実際に現れたとしたらどうすればよいのでしょうか。

オルフェノクは人間を殺すという点のみでいえば有害この上ない生物ですが、もとは人間で記憶どころか姿形も同様で、社会生活も問題なく過ごせ、しかも(ファイズに殺されなければ?)死なない身体ですから(老いないかどうかは不明)、その意味ではまさに「人類の進化形」だし、長い目で見ればオルフェノクの方がいいんじゃない?とも思えます。(むしろファイズって何のために戦っているの?とも思えます。)

だから自然な?成り行きではオルフェノクが多数派となる「映画第一作」になるのでしょうが、でも今の時流ですと人間が多数派となる「映画第二作」が現実的なように感じます。
岩明均が描いたマンガ「寄生獣」(1990~95)は、人間を捕食する寄生生物を最後はやっつける物語でした。一方藤子・F・不二雄のSF短編マンガ「流血鬼」は、パンデミックで死に絶えた人間に対し感染から克服した新人類が生き残る物語でした。いわば「寄生獣」は「映画第二作」、「流血鬼」は「映画第一作」に相当するかと思います。

どちらがよいのでしょうか。いや、どちらかしかないのでしょうか。

第三の道

第三の道を提示しているのが、ファイズに登場する木場勇治です。彼は“人間とオルフェノクの共存”を目指しています。
そうなのです、現在の人類のあり方だけを守るのではなく、「人類の進化形」との共存をこそ望むべきではないでしょうか。それが二者択一でない第三の道になるのではと思います。

もっとも、おそらくオルフェノクの方が生存可能性は高いでしょうし、100年とかの単位でみると人類は滅びオルフェノクに置き換わる気はします。でも、だからといって「人類はすぐ滅びてよし」となるとたまったものじゃない。いつかはオルフェノクのみになるにせよ、急激ではなく漸進的に(徐々に)移行していくことが望ましいのではと思います。
逆に「オルフェノクこそ滅ぶべき」とする「有害、即、排除」という発想は、気持ちはわかるものの、考え直すべきでしょう。

報道のされ方

とはいえ、オルフェノクが実際に現れたらどうすればよいのでしょうか。
メディアで「殺人怪物、各所に出没!その名はオルフェノク」などと報じられると、共存どころか「映画第二作」の展開にまっしぐらとなってしまいます。報道のしかたによって社会が大きく変わってしまうことが容易に想像できるでしょう。

“人間とオルフェノクの共存”を目指す木場勇治は、理想こそ立派なのですが、残念ながら行動を何も起こしていません。せいぜい「人間を襲わないオルフェノク」の仲間を増やしているだけ(しかも二人だけ)、意図的かどうかも少し疑問です。
「映画第二作」ではオルフェノクのコミュニティがラーメン屋を営んでいます。これは社会に問題なく溶け込んでいるという点で、共存のひとつの形と言えるでしょう。でも映画の中では、オルフェノクと知られて検挙され、多くが殺されてしまいます。悲しきかなひっそりと暮らすには限界がある、やはり社会に一定の理解を得る必要があるでしょう。

オルフェノクへの教育

怪人形態でのオルフェノクが人間と出会ったとき、オルフェノクに対峙する人間はもちろんパニックですが、オルフェノクになってしまった人もまた戸惑うでしょう。
オルフェノクが人間を襲うのは、ハチが敵に針を刺すようなもので、本能的なものと考えられます。でもたぶん快感も伴うのでしょう、「人間を襲うオルフェノク」がいるのはそのためかと思います。でもそれは本人の意思で制御できるようで、だから「人間を襲わないオルフェノク」もまた存在できるのでしょう。
つまり、「オルフェノクになっても本能は制御でき、人間を襲わないこともできる」といわば「教育」することで、人間に危害を加えない存在でいられると思います。

「いや、人間を襲う可能性が少しでもあれば排除すべきだ」という意見もわかります。でもそれは痴漢累犯やクレプトマニア(窃盗症)などは社会から排除すべきだというのと変わりません。犯罪者も人間です。原因を探り社会適応への試行錯誤が必要です。それと同様に、人類もオルフェノクも「同じ人間」と認めることによってこそ、共存の道が拓けるのではないでしょうか。

共存のメリット

何よりオルフェノクは医学を飛躍的に進化させる可能性を秘めています。一瞬で心臓にたどり着く手法は外科手術に革命をもたらすでしょう。何より一度死んでも甦る可能性があるので、延命治療に変革をもたらすに違いありません。

でも「人間を襲うオルフェノク」からすると「人間を襲わないとオルフェノクは増えないのではないか」、ひいては「「人間を襲うな」という人は長期的にオルフェノクの滅亡を企んでいるのではないか」と、疑念をもつかもしれません。
でも先に書いた通り長い目でみると人類が滅ぶ可能性の方が高いですし、何より「映画第二作」ではオルフェノク同士の性交も描かれているので、もしかするとオルフェノクの子どもも出産可能かもしれません。
ということは、やっぱり突発的に人間を襲わなくても問題ないのではないでしょうか。

それに、考えてみるとオルフェノクが襲うのは成人で、子どもや老人を襲うシーンはなかったように思います。やはりイキのよい人間の方が美味(捕食しているわけじゃないけど)ということなのか?どうかはわかりませんが、襲撃行動の分析など、研究によっていろいろ見えてきそうです。
それを「有害、即、排除」としていては、研究者から「何もわかっていないのに」と苦言を呈されるかもしれません。

共存の方法

まとめると、オルフェノクの存在を広く知らせることは必要でありながらも、次のことを意識した報道であるべきかと思います。
1.殺人怪物オルフェノクが各地で出没
を知らせると同時に、
2.オルフェノクに会っても驚かない
クマに遭ったのと同じように、落ち着いて行動すれば助かる可能性がある、その上で、
3.今後の研究により、人間にとってよいことがあるかも
だからむやみに絶滅させるべきでない、としておくことで、オルフェノク・バッシングをある程度抑えることができるように思います。

終わりに

途中から薄々気付いた方もいるかもしれませんが、このブログは「マイノリティや犯罪加害者に対する考え方を捉え直すべき」という発想が背景にあります。
「仮面ライダー555」及び映画はあくまで娯楽であり、娯楽として楽しむのが正解だと思いますが、ときには冗談を真面目に語ることで、現実を見つめ直してもよいかなと思います。
最後に、善悪二元論、勧善懲悪でない物語を作ってくれた方々に感謝したいと思います。

評価は「4:もう一度観たい」。(基準・・・5:大絶賛! 4:もう一度観たい 3:まぁよかった 2:よくなかった 1:二度と観ない)

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