見出し画像

VUCA時代に必要な中長期戦略!「シナリオプラニングの勧め」

2022年は「米中対立の激化」、「ロシアのウクライナ侵攻」、「リセッション(景気後退)の可能性」など波乱の1年となりました。今年に入ってからは、シリコンバレーバンク(SVB)の破綻やクレディスイス(CS)の経営問題に代表される金融不安など、昨年時点では予期していなかった出来事をきっかけとした世界的な景気後退への懸念が広がっています。

VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と言われて久しく、グローバル視点でのアジャイル経営が求められる一方、中長期視点で世の中の流れを読み、それに対しての経営判断の準備を進めることも重要だと考えています。

今回は、予測ができない将来への備えの一手段として、「シナリオプラニング」をご紹介したいと思います。

1.シナリオプラニングとは?


シナリオプラニングとは、「将来的に起こり得る可能性を複数のシナリオとして描き、組織の進むべき道や具体的な対処を決めるための手法」です(*1)。VUCAの時代では、事業にかかわる単一の将来を正確に予想することは困難であり、将来起こりうる複数の可能性に対する打ち手を予め準備しておくことが大切です。

2.シナリオプラニングの考え方


シナリオプラニングは下記のような考え方を前提に進めていきます。

〇「未来予測は当たらない」
〇 一方で、「(将来を)認識できないと行動に移せない」
〇 よって、「未来を複数考え、それに対処する方法を事前準備する」
〇 ただし、「環境(客観的)」と「我々(主観的)」を分けて考える
―「シナリオ」=環境についてのストーリー(起こりうる複数の未来)
―「戦略」= 我々はこうしたい

すなわち、シナリオプラニングでは、「世の中の不確実性に着目して、未来について描いた複数の世界のストーリーを準備」することになります。よって、シナリオプラニングに取り組むことは次のような意義があると考えています。

  • 戦略的側面:シナリオが自社にとって良いことでも悪いことでも、いずれの場合でも成長できるように事前の準備を進めることができる。また、シナリオを横断的に眺めることで、シナリオに共通する事象を踏まえた戦略策定へのが可能となる。

  • 組織的側面:組織の多様な意見を収集したうえで、認識共有や合意形成を行うことで、効果的かつ納得感のある意思決定が可能になる(戦略実行時の質に大きな影響がある)。

3.シナリオプラニングの進め方


シナリオプラニングは大きく4つのステップで進めていきます。下記図1で左から右の流れです。

図1シナリオプランニングの進め方(*1)

① 「世の中の変化動向」の把握・分類

(1) テーマ設定

一番初めのこのステップでは、まず検討テーマを設定します。
テーマは「(客観的な)シナリオテーマ」と、「(主観的な)戦略テーマ」の2つを設定します。前者は来るべき未来のシナリオを客観的に検討する範囲(対象とする市場)のことで、後者は作成したシナリオを用いて主観的に意思決定する論点のことを表します。この初めのステップから視点を使い分けることは、後続でシナリオプラニングを進めるうえで重要なポイントです。
なお、テーマは「時間軸・地理軸・未来テーマ」のフレームを意識することで、後続での検討時にあいまいさを排除することが可能となります(図2)。

図2 シナリオプランニングのテーマの設定(*2)

(2) 世の中の変化の動向/予兆の抽出とグループ化

シナリオは主観的な予測から作成するのではなく、客観的なファクトに基づき作成します。
このため、(1)で設定したテーマにおける「時間軸・地理軸・未来テーマ」のフレームを意識しつつ、PEST分析や5Forces分析を用いて、マクロ・ミクロの両視点から、できる限り多くの関連する世の中の動きや予兆を洗い出します。そして、洗い出した世の中の動きや予兆をグルーピングしていきます(図3)。

図3 マクロ・ミクロの両視点からの外部環境の棚卸(*2)

(3) シナリオ作成に向けた軸の設定

グルーピングした変化の動向/予兆を「不確実性」と「インパクト」の2軸で分類していきます。
この時(事業に与える)インパクトが小さなものは気にする必要はなく、インパクトが大きなものが重要となることは直感的にも理解できるかと思います。また、シナリオプラニングにおいて非常に重要になるのは「不確実性」(将来起こるかもしれないし、起こらないかもしれない)の考え方で、不確実なもの(例:メタバースの普及など)は複数の未来を考えるうえでの分岐点となるため重要です。
一方で、ほぼ確実なもの(例:人口動態など)はどのようなシナリオにも共通として現れ、前提条件のようなものなので、シナリオ分岐には影響がありません。
このように分類した結果のうち、「不確実性:大」×「インパクト:大」にプロットされた変化の動向/予兆を軸に設定し、不確実かつ事業インパクトの大きな未来に関するシナリオの作成を行っていきます(図4)。

なお、(2)と(3)はポストイット(付箋紙)を用いて、チームで進めることで議論を深めつつ、効率よく作業することができます(図5)。

図4 変化の動向/予兆の分類とシナリオ軸の設定(*2)
図5  変化の動向/予兆の抽出・軸設定の作業イメージ(シナリオ作成準備)

② 「シナリオ」の作成

図4で整理した4つのシナリオについて、具体的なシナリオへの落とし込みを行います。
シナリオは、変化の動向/予兆を基に予測した将来であり、あくまで客観的な視点から作成するという点が大切です。
シナリオはナラティブ(物語風)に記載して、チーム内外で全員がシナリオの背景も理解した上で共通の理解が進むようにまとめていきます。また、最終的な戦略に落としやすいように、具体的なターゲット(重要な顧客)を意識した形でシナリオをブレークダウンします。

③ 「戦略とアセット」の検討

シナリオを前提とした戦略とアセットを検討します。
ここからは「我々はどうするのか?」といった主観的な視点での作業に変わります。まず戦略への落とし込みを行い、次に各シナリオを実行へ落とし込むために具備すべきアセットを検討します。
アセットは「ヒト・モノ・カネ・情報」といった視点で整理するとともに、シナリオ個別のアセットなのか、それともシナリオ共通のアセットなのかを意識してまとめていきます。例えば、現在保有していないがシナリオ共通で現れるアセットについては、将来必要な投資対象として早めに事業計画へ反映していくことになります。

④ 「予兆」の継続的観測

②で作成したシナリオは不確実な未来に基づくもので、どのシナリオが現実になるかはシナリオ作成時点ではわかりません。一方で時間が経つに従い、様々な予兆が現れ、どのようなシナリオが実際に発現するのかが徐々に具体化されていきます。
よって、シナリオ作成後は各シナリオが発現するうえで重視すべき「予兆」を定義し、その観測を続け、「予兆」が観測された際にはシナリオをし、見直しと詳細化を進めます。より実現性が高まったシナリオについては、具体的な経営の意思決定と実行プラン作成へと移行します。

4.最後に:シナリオプラニングの勧め


このように自社を取り巻く事業環境を分析し、複数シナリオを作成のうえ、それらに対する事前準備と「予兆」の継続観測をすることで、予期せぬ未来が現実となっても慌てることなく、迅速かつ正しい経営判断と実行の実現が可能となります。

シナリオプラニングは、経営幹部や事業企画の方、もしくは新たにマネージャーとなる方々などが、自社の未来を自分たちで真剣に検討するためのツールともなり得ます。自社の中長期的な経営準備と眼前のアジャイル経営の両輪を実現するため、ぜひ一度シナリオプラニングの実施をご検討ください。

文章:AAICパートナー、AAIC日本法人代表/シンガポール法人取締役 難波 昇平

出所:
*1 デジタルトランスフォーメーション チャネル
https://www.cloud-for-all.com/dx/blog/what-is-scenario-planning
*2 ダイヤモンド社「シナリオシンキング 不確実な未来への「構え」を創る思考法」






いいなと思ったら応援しよう!