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旭川

冬の北海道、夜。
マイナスも2桁の気温は一体どんなものだろうか。
さらに今日は特段に寒いらしい。

実際に歩いていると凍えて震えるというわけではないが、手や耳は千切れるほどに痛かった。

せっかく北海道に来たし美味しいお肉でも食べたい。
1人調べて15分ほど歩いた。

目当てのお店に着くと準備中。
寒いし遠かったんだけど。

お腹も空いていたので近くの焼肉屋に行こう。
地元のお店といった雰囲気のお店へ足を運んだ。

店内にお客さんはいなくて、おばあちゃん1人が前のお客さんの七輪を片付けていた。

閉店するところだったら申し訳ないなと思いつつ、入れてもらった。

旭川の夜に若い男が1人で来るのは珍しいのか、不思議そうな顔をしながら案内してもらった。

いや〜今日はしばれたねえ。

おそらく寒いということだろう。
北海道に来たことを実感する。

今にも北海道トークが始まりそうなところで、神戸から今日来たのだと伝えた。

おばあちゃんは目をまんまるにしながら、

神戸かい?神戸のどこだい?

そのまま話していると、にこにこしながら、

懐かしいね〜

といった。
なんでもおばあちゃんのお母さんが神戸出身だそうだ。
そのおばあちゃんも一度神戸を訪れたことがあるようだ。

そしていくつかと聞かれたので答えると、おばあちゃんのお孫さんと同い年だったそうだ。

そこからかなり親近感を持って話してくれた。

めんこいね〜
若いね〜
一生懸命真面目に生きるんだよ

色々なことをお話ししてくれた。

きっと神戸から孫ぐらいの歳の子が来てくれことを相当喜んでくていたのだろう。

しきりに今日はいい日だといってくれた。

今日は寝れないわ〜。
妹たちに今度自慢したい。
カレンダーに神戸って書いとくよ。

ほんとうにずっと喜んでくれていた。

おばあちゃんは26歳からお店を始めて、ちょうど50年が経ったそう。

長いこと飲食業をやってると大変なこともあるけど今日みたいなこともあるんだね。
やってて良かったよ。

そんなことを言ってくれた。

あーーーーーー。
なんだろう、この気持ち。

おばあちゃんは私が神戸から来たことでノスタルジーに浸ってたようだ。
それと同時に私もおばあちゃんという存在のノスタルジーに浸っていたのだろうか。

私の祖母は今施設にいる。
そしてもう多分私のことをわかっていない。

父方の祖父母は他界していて、母方の祖父も他界しているので、たった1人の祖母である。

でもそんな祖母とも長い間まともに話せていない。

本当に久しぶりに祖母と話せたような気がして。
そう言えばいっつも私が顔を見せると、祖母もおんなじような顔して喜んでくれていた。

心が温まる不思議な時間だった。

たった1時間。

でもこんなに自分が訪れることで喜んでくれたのだ。

知らない街。知らないお店。知らない人。

これが縁か。
旅の魅力だな。

訪れた目当てのお店は閉まっていて、たまたま入ったお店での出来事。

旅先ではフラフラで歩いてみるもんだ。

今日ずっと笑顔でお話ししてくれたこと、その内容、とっても喜んでくれたこと。

生きてる意味だっていうと大袈裟かもしれないけど、生きてて良かったな、ここに来て良かったな。
そう思えた。

ホルモンとカルビを食べた、本当に美味しかった。
苦手な玉ねぎだって食べた。
生焼けでヒリヒリと辛い玉ねぎにすらお尻を叩かれたような気持ちになった。

自分なんてまだまだだ。
でも人との出会いでこんなに喜んでもらえることある。
喜ばせることもできる。

一生懸命に生きるんだよ。

真っ直ぐ胸に突き刺さった。

食べ終えてお会計をした。
上着と防寒具を寒くないようにおばあちゃんは着付けてくれた。

忘れ物はないかい?
もう帰したくないわ〜
元気で頑張ってくださいね。
気をつけて帰るんだよ。

本当に自分のおばあちゃんかのように声をかけてくれた。

そして深々と頭を下げて、

ありがとうございました。
またおいでね。

と手振って送ってくれた。

行きとは少し違う道で帰る。

冬の旭川。
気温は-17℃。
溢れた涙は今にも凍りそうだったけど、帰りは寒くなかった。

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