
Photo by
東洲斎写楽 / メトロポリタン美術館
〔掌編小説〕さんぽ
かゆい。いつの間にかつけられていた肌の突起、よくある虫刺され、と言ったところ。寝てる間に爪で引っ掻いているのか、赤く腫れ上がってしまった。その中心あたりたりに、ぽつ、と刺されたような形跡がある。普段なら通勤でしか外に出ない生活なのだが、夜も長くなってきた夏、急に思い立って散歩に出たのがいけなかった。自宅はクーラーをつけたままで窓も開けないのだから、きっとあの夜に違いない。ちょうど膝関節の上の部分にできた膨らみは、何かしらの生けるものにやられた跡なのが確かだった。
嫌だなあ、薬を買ってこなきゃあな、と思い始めた矢先、腫れ物をふと見やると、自分の意思に関係なく皮膚が動いているように見えた。なんだこれは、唇、か。