〔掌編小説〕水魚の交わり
「仲良しなんだね」
いまいち、腑に落ちなかった。世間から見る仲良し、とは、いったいどんなものなんだろう。一緒にいて、ある程度話をして、ある程度喧嘩して、ある程度笑って、そんな毎日を見せつければ、仲が良いと認定してくれるようだけれど。真実の心情なんて、その中の何パーセントなのか、なんて、考えてもいないんだろうな、と思う。
講義室で日課のように隣の席に座ってくる彼女が突然、気持ち悪くなった。私がこれを容認したのはいつだろう。いつの間にか、と言うのが正しいだろうな。人間同士の間柄は、特にこの国では、何も決めずに始まることなど往往にしてある。今日からあなたと私は親友です。そんな宣言をするわけがない。
しかし、やはり疑問に思ってしまうのだ。誰かの許可を取ったわけでもないのに、さも当たり前であるかのように、彼女は私と一緒にいる。それこそ、誰かの許可、とか、そんなこと以前に、彼女は私にすら許可を取っていない。一人で何かを行うなら話は別だが、これは私の問題でもある。関係性を続けるために相手に許可を取るのは、至極当然のことではないか。
机の上に筆箱とノートを出してから、いつものように隣に座った彼女は、私に紙を差し出して言った。
「私と友人でいるなら、この許可証にサインして欲しいんだけど、いいかな」