阪急電車に乗るお姫様はファミリアのデニムバッグを持っている
兵庫県の阪神地区出身の私には、幼少期から憧れを抱くバッグがあります。それは子ども服ブランド、ファミリアのデニムバッグです。
ファミリアのデニムバッグは、主に子どもが学校や習い事へ行く時に持つ手提げカバンで、女の子やくまなどのアップリケが施されているのが特徴です。
最近ではアップリケが機械刺繍の商品も多くなりましたが、基本的にデニムバッグのアップリケは職人さんの手刺繍によるもの。間近でデニムバッグを見てみると、この手作り感がたまらなく可愛いのです。
でも、そのデニムバッグが何故に憧れ?
エルメスやシャネルのバッグではなく??
きっと多くの人がそう思うでしょう。
ファミリアを知らない人があのデニムバッグを見れば、完全に“お母さんかおばあちゃんが夜なべして作ってくれたカバン”ですし、絶対に手が届かないほど高価という訳でもありません。(子どもが使う手提げカバンとしては十分に高価なのですが)
でも、私にとってファミリアのデニムバッグは、誰がどう言おうと、憧れのアイテムなのです。それはきっと、兵庫県、特に南東部に生まれた女子特有の憧れなのだと思います。
幼少期、母親に連れられて出かける時には阪急電鉄の神戸線をよく利用していました。
神戸と梅田を結ぶ阪急神戸線は、神戸方面のお嬢様学校に通う女子高生が乗っていることが多く、私は阪急電車に乗るとよく、私立女子校の制服を着たお姉さんを見つけては、隣に座る母親に「あの制服いいなぁ」「あっちの制服もいいなぁ」などと話していました。
「お嬢さんの学校やね」という母親の返事に、“うちは庶民で、あなたがあの学校に通うことはない”という意味が含まれていることなんて当時は知るはずもなく、オリーブ色の絨毯のような座席を指で撫でながら、自分も高校生になったらあんな制服を着て、阪急電車に乗って学校へ行くのだという妄想を膨らませていました。
私が憧れの眼差しで見つめていたお姉さん達は皆、重たそうな革製の通学バッグと一緒に、決まって手さげカバンを肘に掛けていました。それが、ファミリアのデニムバッグなのです。
学校指定という訳でもないのに、大半の生徒があのくまちゃんや女の子のアップリケが付いた、手作り感溢れるバッグを持っている。他の地域に住んでいる人からしたら異様な光景かもしれませんね。
でも、阪急沿線では結構当たり前の風景なのです。ファミリアが創立されたのは1950年。そしてデニムバッグが販売開始となったのは1957年のこと。当時からファミリアのデニムバッグは、通学のサブバッグとして浸透していたようです。
制服にファミリアのデニムバッグ。阪急沿線で育った方は、このセットを神戸のイメージとして刷り込まれたという人が多いのではないでしょうか。
ファミリアのデニムバッグは、煌びやかな可愛さがある訳ではありません。色だって地味で、スタイリッシュとは言い難い。
こんな事を言うと、「君はファミリアを好きなのか貶しているのか、どっちなんだ?!」と怒られそうですね。
もちろん大好きです。でも、ファミリアのデニムバッグを「ダサい」と言う人がいても、私は否定しません。
だってファミリアのアイテムはあの野暮ったいデザインや色使いこそが、俗世間とは一線を画し、神戸創業の子ども服ブランドという唯一無二の存在感を放つ要因になっていると思うのです。
幼い頃の私が、阪急電車で見たお姉さん達の姿に抱いた憧れは、一種のお姫様願望のようなものなのでしょう。
キラキラとしたドレスではないし、バッグはお母さんの手作りみたい。だけど、彼女達が放つ特別な雰囲気に、きっと幼いながらも遠い存在であることを感じとっていたのだと思います。
少し離れた場所からお姉さん達を見つめ、あんな風になりたいと思った思い出は、ファミリアのデニムバッグというアイテムに憧れとして投影されました。
本当なら自分が高校生になった時に、ファミリアのデニムバッグを持つことができたらよかったのですが、どう足掻いても神戸のお嬢様学校に通うような家柄の娘ではないことを、誰に言われた訳でもないのに理解するようになった私は、ファミリアでもなんでもない、ダイエーやジャスコ(懐かしいですね)で売っているペラペラのス○ーピーの手さげカバンを持ち歩いていました。幼い頃の妄想は妄想のまま、一度は忘れ去られたのでした。
さらに時は流れ、こんな私も親になり、子どもに服を与える立場の人間になった時、ファミリアと再会したのです。
すでに地元からは離れた場所に住んでいたため、ファミリアのアイテムを身につけた人を日常的に見ることがなくなっていた私は、懐かしさと、ファミリアブランドの圧倒的な品の良さ、可愛らしさに心を震わせました。
そして、今も変わらずデニムバッグが定番商品として販売されていることを知り、あの頃の思い出が瞬時に蘇りました。
最近では富裕層ママ界隈でファミリアがブームとなっていることもあり、住んでいる地域に関係なく、そして大人がファミリアのバッグをファッションの一部として持つことが珍しくなくなったようです。
新しい商品が発売されるとすぐに買い替えられ、フリマサイトでは人気のバッグが高額で転売されている。なんだかハイブランドのバッグのような扱いになっていることに、少し寂しさを感じます。
あの頃、阪急電車で私が見ていたお姫様達のバッグは、くたくたになっても使われているものばかりでした。それに、ファミリアは子ども達に、ものを大切にする心を伝える活動を行っています。デニムバッグは修理サービスもありますしね。
だから、ファミリアのデニムバッグに関しては、お気に入りの一点だけをずっと使い続けることに意味を見出したいのです。(なんて言いながら、そんなに何個も買う経済力が私にはないだけか。ぐすん。)
ファミリアに再会してから、ずっとデニムバッグが欲しいと思い続けているのですが、実はなかなか「これ!」という柄のものに出会えず、デニムバッグだけは未だ購入に至っていません。「お、お前デニムバッグ持ってないのに、こんな文章書いとるんかー!」と、またもや怒られそうです。だって、どうせなら一等お気に入りを見つけたいではないですか。ちょっと、憧れの念が重すぎるでしょうか?
この記事を書くにあたって、神戸新聞の記事を参考にさせて頂きました。
ファミリア好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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