声優アテレコ おまけ:そろばんは10歳まで
楽しい芸能の習い事とそろばんの話をしたい。
こんなに脈絡のない話の組み合わせなのは私の1日に一貫性がないからなのだが、まあ、これは日記だから今日の一日は芸能とそろばんなんだなと思ってくれればいい。
東京にある背の高いビルのワンフロアに私は通い始めた。
テレビで見たことがある人たちの写真がズラリと壁に飾ってあって、夢をみる若者たちの挨拶が響く。
そんな教室である。
クラスに入ると２０歳半ばだろうか、長身の可愛い女性が腰掛けていた。
「よろしくお願いします」
その声が現実世界というよりも鼻の奥の裏声を使った、いわゆる萌アニメ声だったので、私の野太い返事の方が浮いてしまった。
王騎先生
奥の椅子に先生が腰掛けている。
平日の昼間。
この時間帯にフラフラ習い事をできる人はどれくらいいるのだろうか？
教室には私とアニメちゃんの2人しか来なかった。
この環境で指導されるなんて、どれだけ贅沢な時間だろうとレッスン２回目の私はたじろいだ。
「おはようございます！(おはようございます！)
お疲れさまでした！(お疲れさまでした！)
ありがとうございました!(ありがとうございました！)」
儀式を済ませ、紙が一枚配られた。
さて始めますよ！
そう、先生が言葉を発した。
なんとなく雰囲気が王騎将軍みたいだなと思った。
紙には不思議の国アリスの冒頭シーンのセリフが書かれてあった。
「不思議の国アリス」
「まずは読み合わせてみてね。
この課題はみんなやってるものなの。
あぁ、アリス好き？
どっちが姉役でもアリス役でもいいですよ。
あとでアテレコするから、話すセリフに秒数書き込んで！
一行目1分55秒からスタート
二行目2.32、三行目2.38、四行目...
では始めます
このセリフの声はどんな感じ？
画面背景をみて、アリスが木の上に居るなら上から投げかけるように、朗読口調なら単調に、驚く時や怒る時、声をどんなふうにだすのかを意識しましょう。
あ、そうそう、声の出し方を練習しましょうか。
まず上顎の喉の方にブヨブヨしたところがあるでしょ？
そう！そこに息を当てるつもりで響かせる。
普通に話すとただ息が前に行くでしょう？そうじゃなくて、発声は横隔膜と丹田を使って、、おへその下ね
腹式呼吸で発声したらそれはスタッカートだから違うのよ
そうじゃなくて息は下から、お腹で支えると背中が膨らむの
地面に繋がってる感じで、スーーーーーって息吐いて、あえいうえおあおーーー！
母音を言いましょう
芯のある強さとしなやかさがある口調
発音の講義が終わると、先生は一瞬で役に入りきって女の子や猫の声、または発声のお手本としてLes Misérablesの一幕をやってみせる。
すごいなぁ。
空気の作り方と響き方が違う。
私も台本を読んでみると
「あなたはSの発音が弱い。
したっ足らずか逆に舌が長いのか、とりあえずSが苦手。サ行、練習してごらん」
という的確なアドバイスを頂く。
アリスの英語動画に声を被せてアテていく作業は、英語の口の動きに対して日本語の語順が合わずに苦労する。
最初は画面を見る余裕なんてなくて、台本から目を離せずに間がつかめなくて、読むだけでいっぱいいっぱいだ。
手元の台本の文字を追うと画面のキャラクターの動作が見えないという矛盾に苦しむ。
何度目のリテイクだろう。
たった2分の動画に10回以上費やしている。
同じ場面を繰り返しみて少しずつセリフを暗記して、ようやくチラチラ画面を見ることができたのは練習を始めて1時間がすぎた時だった。
暗記すると上手くいくのだろうか。
「プロの人はね、まあ、事前に台本送られてきて練習して本番に挑む時もあるけど、その場で台本を渡されることもあるの。
カクカクと動く棒人間絵コンテの状態でアテることもあるし、それで、監督が求めるものを提供するの。
その場で状況をみてすぐ演じれることが必要。
でもあなたたち、すごいじゃない！
2人とも初めてなんでしょう？
それでこれだけ画面と合うなんてセンスいい。
あらやだ、先生のご指導のおかげですって？そんなに褒めても何にも出ないよ？
でもほんと、この短時間でこれだけできるのはすごいことよ。本人たちの力がないと無理。
あなた声優志望？アニメちゃんは声優志望なのね。
アニメちゃんのアニメ声は現実世界の違和感とは裏腹に完成に画面のアリスの声と合っていて、逆に作り声をしてない私の声はアニメの中で浮いていた。
まるで私のアテレコは日本アニメが海外に輸出された先で起こる下手な吹き替えみたいで、アニメ声はファンタジーなんだなと思い知らされる。
さて、アリスはこれくらいにして、、あぁ、2人だと時間があまるね
今日やることがもう終わっちゃった。
前回の授業は何したの？
外郎売り？ちょっとやってみて。
なるほど。
外郎売りって歌舞伎じゃない？
歌舞伎って口が横開きなんだよね
発音とかアテレコする時は基本的に縦に開くんだけどね、でも歌舞伎は違うことに気づいたの私
口を縦に開くと武具馬具ブグバグミブグバグって言いにくいじゃない？
でも横に開いてやってみると言えない早口言葉が言えるのよ！
私は歌舞伎には立ったことがないんだけど、言いにくい発音は、、、えっと、市川團十郎でしったっけ？彼が復活させた演目なのよね？
「外郎売り」って言葉を扱う色々な人たちが絶対練習するけれど、本家本元を観察すると新たな気づきがあるよね
基本、歌舞伎以外の口の開きは縦ですけれどね
役になりきる。
それは背景の事細かな事情を汲み取り、状況と息遣いと気持ち、キャラクターのポリシーや性格を憑依させると言うことだと思った。
多分、イタコ。
おわり
おまけ そろばんの話
「計算が遅すぎてヤバい。
クラスで1番遅いかも。
暗算とかも上手くできない。
そろばん続けてやってれば良かったなぁって。
今からでもやりたい。」
そんな事をしきりに言い出したので、新小学1年生になる息子と中2の娘を連れてそろばん教室の門扉を叩いた。
どうせなら私もそろばんやろうかな。
「体験予約をありがとうございます。
お母さんもやられるんですか？
へぇ、珍しい。子どもと一緒にやりたいから？
みんな預けっぱなしで任せっきりですよ
でもまず第一におことわりしたいのが、大人はほとんどそろばんの能力がのびません。
2桁5口、、2桁の足し算を暗算で5つくらいできたらいいってくらい、未経験で大人のそろばんは思ってるより難しいんですよ。それでもいいんですか？
僕もね、教室開いて10年以上経ってますけど、最初は年齢なんて関係ないだろう！やればやるだけできるようになるんだ！って思ってたんです。
それで指導しても、いやぁ、、違ったんです。
僕の奥さんの話をすると、彼女も全くの未経験。
僕と結婚するからそろばんやるわねって言ってくれて一緒に練習したんですけどね。
子どもたちほどにはならない。2桁5口です。
9歳...10歳ですね。
そこが能力のギリギリラインです。
それより前の年齢で始めないと厳しい。
あぁ、でも例外がありましてね。
ピアノです。
なぜかその年齢を過ぎたお子さんでそろばんがトントンと伸びた子を観察したら、みんなピアノを習っていたという共通点があるんですよ。」
英語をネイティブ並みにするには？
中学受験でいい成績を取れるのは？
ピアノがスラスラ弾けるには？
そろばんが頭に入るには？
みんな言うんだ。
9歳から10歳の時の状況で決まるって。
5歳とか6歳で決まるのは運動系の能力って言うけれどね。
それにね、そろばんの能力が中学以降の勉強と相性がいいかと言ったらまた別の話です。
四則演算よりも思考力が必要じゃないですか。
だから数学教室を新たに始めたんです。
数学検定を目指していく教室になるんですけど。
そろばんは週3回以上通わなくてはならないし、家で練習も毎日しなくてはならない。
たった1時間、されど1時間。
私の後ろでパチパチ軽快に玉を弾く小さな男の子は、日本一を取った子だった。
おわり
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