昭和ハウスと欧米高層階都市伝説

引っ越しをした。
築古のマンションには初めて住むが、ここの魅力は駅へのアクセスと眺望だ。

高い位置に住むと家族仲が悪くなったり、病気になりやすかったり、子どもが生まれにくくなるという噂がある。
その根拠に「欧米では妊婦や子供は4階以上に住んではいけない法律がある」というのだが、私はイギリスの都市部で4階よりも上の階に幼い子どもと一緒に住んでいた。きっと多くの人が高層階に子どもと住んでいると思うし、"高層階を買ったらその人たちは子づくりできないのか?"という疑問が残る。そのような物件なら価値が下落しそう。
昔ながらの景観を保全するために"高い建物を建ててはいけない"という規制はあったが、子どもは住んではいけないという法律は聞いたことがないので、本当だったら教えてほしい。

ただ、地震などの災害でエレベーターが使用できない時に、子どもを抱えて逃げるのは苦労する。3.11の時に18階に住んでいたが、子どもを抱えて避難するのは大変だった。
複数人育てている人は尚更だ。

階段に関していえば、日本の法律で直通階段の数が決まっている。

【2以上の直通階段の設置が必要】
1. 6階以上
2. 5階以下で、各居室の床面積合計が100平米(主要構造部が耐火・準耐火・不燃材料で造られている場合は200平米)を超える場合

火事になった時に避難階段が一箇所だと人が集中して逃げ遅れる可能性があるからだ。

都心の駅の真上に立つ築古マンション。

お風呂の湯沸かし機能はなく、お湯と水で調節する蛇口はウッカリすると熱かったり冷たかったり、溢れたりする。
追い焚き機能がないからすぐに冷める湯船。
適温からぬるくなるのが早いことに大人になって初めて気づいた。
だから魔法瓶構造の湯船があるんだなぁ。

二口しかないコンロのキッチン、使い勝手の悪い戸棚、収まりきらない食器、4人家族がちょっと食べると沢山の洗い物で狭いシンクが溢れ、食洗機のありがたみがヒシヒシ伝わる。

ドラム式洗濯機も入らなかったので、簡易機能のみの安い洗濯機が手間を増やす。
容量の少なさと干す場所の問題で、1日1〜3回は洗濯機を稼働させる。
時々乾かない洗濯物をコインランドリーに持ち込む。

クーラーのドレンは家の中のバケツに繋がっているから、2週間くらいで水を洗面所に流さなければならない。
この造りは特殊だろう。
今や一部屋に一台のエアコンが必要な気候だが、建築された当初は今ほど暑くはなかったのだろうな。

インターネットも繋がらないのは想定外だった。
駅の真上に住んでいるので、携帯の電波も入りづらい。
テレビはYouTubeを映さなくなり、ただのインテリアと化した。

文明の発達によってもたらされた豊かさに否が応でも気がつく。

それは女性の自由な時間を増やすことに繋がったはずだ。

お皿洗いに費やさなくて済んだ気力と体力で、パンを焼いたり煮物を作っていたことが、出来なくなる。
洗濯物を取り出して干して取り込む時間に出来ていた読書や筋トレ。
幼児がYouTubeを観ている間に作業していた雑務が、今は床に散らばった玩具の片付けと一緒に貯まる。

ああ、生活に追われるというのはこういうことだった。

今時珍しい和室に、持ってきたマットレスを敷いた。
窓から中秋の名月が、まだカーテンすら買えてない寝室を照らした。
夜中の1時に煌々と光る街、時折響くサイレンの音。

生活が溢れている。

賃料の安さと引き換えに失った文明に、1ヶ月ほどでようやく慣れてきた。
やはりヒトは2〜3週間で慣れるものだけど、時間のゆとりは欲しいと思った。

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