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俺たちは雰囲気で原価計算している

本記事はゆる会計Advent Calendar 2024への投稿となります。

7日目担当の招き猫.mdbです。

突然ですが、原価計算は答えのない仕事です。

実務経験10年を超えても、未だ自分の原価の正解が分からない場面があります。

「いやいや、真実の原価を正確に算定表示するために原価計算基準があるんじゃないの?」とツッコまれそうですが、、 

財務諸表は「記録と慣習と判断の総合的表現」とも言われています。

原価は、多数の利害関係者が絡む見積りを元に計算されるため、実務者としては、この表現はなかな言い得て妙だなと感じています。

そこで、今日は原価計算を未完のサクラダファミリアにしてしまう難所(?)について記録、慣習、判断の3点に分けて書いていこうと思います。

記録:

原価計算をするためには、まず科目別部門別に費用を集める必要があることは当然ですが、各製品に費用をばら撒くための物量基準も同時に必要です。

よくある「ケーキを作るのに原料であるスポンジをどれだけ使いましたか?」みたいな話ですね。

この物量基準(数量)は、正確には会計情報ではなく、製造現場の管理体制に依拠する部分が大きいため、集計ルールが曖昧になりがちです。

例えば、在庫管理システムで数量管理できない未登録原料が多数ある場合、受払の管理ができていないので、当然投入量の把握も正確には出来ません。
原料コードと標準投入量のマスタ化は非常に重要な仕事ですが、忙しい工場の現場では軽視されてしまうケースも見受けられます。

また、作業時間については、多品種を同時に生産する多能工の場合、どの品目に何時間かけたのか正確に記帳することは難しいです。

個人の作業日報と製造指図書データの投入作業時間の辻褄が合うように現場にチェックしてもらうのですが、かなりの負荷がかかるため、標準時間をデフォルト値とするケースもあります。

各製品に費用を配賦する物量基準を定めること自体が難しいだけでなく、入力ルールを維持することも同様に難しいです。

慣習:

各製品へ費用を配賦する物量基準と同様に難しいのが、製造間接費、とりわけ補助部門費の配賦設定です。

補助部門費は製造ラインへの用役提供率に応じて費用を配賦しますが、この用役提供率の設定がくせ者です。

例えば、総務部門であれば工場内の部門別人員数が配賦根拠になる場合が多いです。

では、資材購買部門であれば用役根拠はどうやって決定しましょうか。包材の発注件数?発注金額?答えは工場の数だけあります。

用役根拠の算定が煩雑である場合、工場内の次期担当者に引き継がれない場合も多いです。

また、用役の設定が予算編成時の年1回である場合、前年と同様の用役率で経理に提出され、形骸化することケースもあります。

さらに、継続性の原則の要請からか、原価を悪戯に変えたくない企業心理からか、曖昧な原価設定根拠については過去の慣習を踏襲してしまうことが原価計算の現場では多いです。

しかし、工場再編など実態の変化があった場合には、当然、用役率は見直しが必要となります。根拠が曖昧だと見直しの方針が立てられず、後の担当者が非常に困ります。

ある慣習がどのような事情のもと続いているのか、配賦根拠の歴史と実態を知り、定期的に見直すことは非常に重要です。

判断:

毎月、原価を計算する時に全てを実際配賦をすることは納期の関係から難しいです。
そのため、どんな計算方法でもどこかで予定配賦は発生します。

では、予定配賦率はどのように見積もるのでしょうか?前期実績を使うこともありますが、将来的な活動を見越して予算を使うケースが一般的です。

予算は売上、設備、人件費、経費など多岐に分かれますが、全ての要素を連動させた予算編成は非常に難しいです。

そこには各部門の思惑と判断が含まれます。
例えば、営業部門は売上を過小に設定し、生産部門は設備予算を過大に計上しようとします。

このように「何を来期の活動として予定配賦に含めるか」が各利害関係者の判断に左右されることが、原価計算を複雑にします。

妥当性のある原価計算を行うためには、経理・経営企画部門による全社的な利害調整の判断が不可欠です。

余談:

原価計算の起源は実は中世ヨーロッパではなく、古代メソポタミアにあるとされる説があります。シュメール人たちは楔形粘土に現代のT勘定のような帳簿を記帳し、原料の受払や作業時間の把握だけでなく、大麦粉の生産高も精緻に算出していたそうです。

このような計算が始まった理由は、国内の勘定単位が大麦から銀に変化したことで大麦と銀の交換比率を正確に算出する必要性が出てきたからと考えられています。

変革が迫られる状況ほど複雑な計算が求められるのは世の常なのですね。

現代の我々も過去の慣習から学び、正確な記録で、正しい判断を行う原価計算を心掛けようではありませんか。ゆるゆると。

参考文献:
夷谷 贋政「原価計算の起源」

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