推しの結婚
9月18日、いつものようにSNSを開くと何やらTLが慌ただしい。目に飛び込んできた「古川未鈴」「結婚」の文字たち。でんぱ組.incのセンター、古川未鈴(ふるかわみりん)さんの結婚報告だった。
6年前にでんぱ組.incを知ってから、それまでアイドルに微塵も興味のなかった私にとって彼女たちは唯一絶対のアイドルになった。当時は最上もがさんが好きで、いわゆる「もが推し」だった。自転車で山を超えて人生初の握手会に参加したときの、推しが目の前にいるという圧倒的な幸せが忘れられない。
「マイナスからのスタートなめんな!」というフレーズに代表される彼女たちの暗い過去、しかしそれを振り切るかのように過剰なほど明るいアップチューンな萌きゅんソング。そのギャップに心打たれた。
当時高校生だった私は受験勉強に追われつつも「大学生になって自分でお金を稼げるようになったら、一番にでんぱ組のライブにいくんだ!」と意気込んでいた。大学生になり、ライブにいけるお金も十分貯まった頃に入った「最上もが脱退」「でんぱ組ライブ休止期間へ」という知らせ。
愕然とした。アイドルはいつまでもアイドルを続けられるわけじゃない。そんなことは分かっていたはずなのに、どこかで待っていてくれると思ってしまっていたのだ。
その年の12月に新メンバーを加えての活動再開のニュースを聞いても、正直諸手を挙げては喜べない自分がいた。これから何色のサイリウムを振ればいいのか、また同じような想いをするんじゃないか…。でもどうしても彼女たちは魅力的で、目を離せなかった。私は既に箱推しだったけれど、初めてのライブ参戦では赤色のサイリウムを振ることにした。みりんちゃんの色だ。
いじめられて高校を中退した彼女は、有名になっていじめてきた人たちを見返したい一心でアイドルを始めたという。ステージの上では誰よりも輝いているのに、話し始めるとどこか影がある。「アイドルができなくなったら死ぬ」という言葉を信じてしまうくらいには、彼女のライブは刹那的な光芒を放っていた。
彼女自身がでんぱ組のアイデンティティのような存在で、象徴だった。しかしでんぱ組が大きくなるに連れて、そんな彼女にもだんだんと変化が見られた。
「身の回りのものもの全てに関心をなくすことで傷付かないようにしていた」「考えるのが面倒臭いんじゃなくて、本当になんでもよかった」と言っていた彼女が、「灰色だった世界が鮮やかに見えた」と、「人といるのがちょっと楽しく思えてきました」と、そう言ってくれた。
結成当初は「大事な時間を私となんて話してるのは勿体無い」と言ってメンバーとの会話を避けていた彼女が、夢眠ねむさんの卒業公演でいつもより饒舌になり、ついには自分からねむきゅんにハグ(のようなもの)をしに行った。その後のSNSの投稿には「ねむさん、おつかれ!でんぱ組になってくれてありがとう!」とだけ書かれていた。その淡白さがみりんちゃんらしくて、泣きながら笑ってしまった。
彼女の言葉はいつも短いけれど、そこに全部、ぜんぶ詰まっている。
それに加えて今回の結婚報告。「30歳になったら死ぬ」と言っていたみりんちゃんが、幸せになる覚悟を、生きる未来を見せてくれたように思えた。あのみりんちゃんが、人と共に幸せになる未来を自分の手で選び取ったのだ。それが嬉しくて涙が溢れた。嗚咽を漏らしながら「おめでとう…おめでとう…」と繰り返した。苦しくなるくらい泣いたのはいつぶりだろう。
アイドルの突然の結婚報告なんて、その上結婚してもアイドルを続けるなんて普通に考えたらタブーだろうけど、彼女と彼女の周囲の人間を見ているとそんなことはどうでもよくなった。それくらいの力強さで、彼女はアイドルの新たな可能性を切り開いたのだ。
自分で書いていても、ただのファンが何を知った風に…と思うけれど、どうしても書きたかった。私の推しはこんなに素敵なんだぞ!って全世界に自慢したくなった。
みりんちゃん、ご結婚おめでとうございます。どうか、どうか、誰よりも幸せになってください。私も必ず幸せになって見せます。
秕