僕らは五月に咲く花のように
Aplil Shower
僕らは五月に咲く花のように
その名の通り、春の雨のような歌だなと思う。
暖かくて柔らかくて、どうしてか無性に泣きたくなる。哀しい、と言ってしまいたくなるような気もするけれど、この気持ちはなんだか手放し難い。
この身に降り注ぐ雨を優しく感じられるのは彼らが歌うからだ。
April Showerのパート割りをとても好きでいる。
水の中を反響するような前奏に、歌い出しからウジさん・スンチョルさん・ホシくんとリダズが続く。ウジさんの口から「ソナギ(夕立)」という言葉が放たれると、いつも以上に聞き流せない言葉として少しその余韻に足を止めてしまう。
決して憂鬱ではないけれどはしゃぐわけでもなく、敢えて肯定的に捉えようという気負いも感じさせない。ただ、降る。雨が降る。
その中を歩いているのだ。
陽射しのようなミンギュが彼の生まれた月に降る雨のことを「全てが演出みたいでしょ、僕のための舞台でしょ」と歌えば、思わず「そうだ、あなたの(そして私の)ための舞台だ。」と、返事をしてしまう。
「春の暮に催花雨が降ったなら、
傘をたたんで雨の中を歩こう」
1番ではドギョムが、2番ではディノちゃんが、この言葉をどこまでも真っ直ぐで優しい歌声で運んでくれる。
傘をたたんで…つまりその手には傘を持っているのに、そしてさっきまでさしていたのに、たたんで雨の中を歩くと言う。この旋律がたまらない。「歩こう」というけれど、君はきっと、ほとんど踊っているのだろう。
英語の諺に「April showers bring May flowers」と言うものがある。
4月の雨が5月の花を咲かせる。
5月というのは他でもない、彼らがSEVENTEENとしてデビューした季節だ。
「僕らは5月に咲く花のように」
この驚くほど短いパートを1番ではジョシュアさんが、2番ではウジさんがその柔らかい花びらのような歌声に乗せる。
彼らの歌は、誰よりもまず彼ら自身が歌うということを見据えて生み出される。自らの口で、身体で、CARATの前でこの言葉を歌うとき、いったいどんな想いでいるのだろうか…と想像しながら、私は時折この言葉を呟く。
(僕らは5月に咲く花のように…)
長い冬を耐え、春の暮まで雨に打たれ、ようやく綻んだ花のような人たちが「僕らは5月に咲く花のように」と歌う世界に生きていることが、小さなころから見守られてきた大きな桜の木が今年も花を咲かせてくれたのと同じように心強く、歓ばしいのだ。
続けてバーノンさん、ウォヌさんが力強くたたみかける。
「待ち侘びてこそ美しく咲き誇るんだよ
もっともっともっと」
春一番に運ばれる花ではなかったとしても、待ったからこそ美しい。
そんな花に「僕ら」を重ねる人たちだから「傘をたたんで雨の中を歩く」と軽やかに歌えるのだろう。けれどそこに至るまでの道のりで何度ずぶ濡れになったのかなんて、想像するのも不躾だろうか。
ただ、結果論の薄情者と言われても構わない。私は今目の前で歌ってくれるあなたたちを好きでいるから、4月の雨を糧にあなた達が花ひらいたなら、その雨を恨むことなどできやしないのだ。
だからこそ、他でもないあなた達が、その肩を濡らした雨を、その中を歩いてきた道のりを、憎むのではなくその中で咲き誇ったのだと歌ってくれることが有難くて涙が出る。
2023年のホシくんのセンイルnoteに、「Rain Drops On Me 」を拝借して「Rain drop on us」というタイトルをつけた。その理由は説明できるようなものではないのだけれど(だからこそタイトルに相応しいと思ったのだけれど)、「私」が目的語として置かれるこの表現ならではの不如意の中に立ち尽くす情景が脳裏に浮かぶ。その時私は「この時間の中流されていく、流されていく」と歌うDrift awayを思い浮かべる。
ディノちゃん、ジュンさん、ウォヌさん、スングァンちゃん、ドギョム
ホシくん、ミンギュ、ハオちゃん、ジョンハンさん…それぞれの口からそれぞれの「Rain Drops On Me 」が紡がれる。きっと私が初見で歌ったら力なく俯いちゃうけれど、彼らの声は雨に体温を奪われず、ちゃんと温かい。
その途中に挟まれる
「주르륵 내려줘 흠뻑 더
ざあざあ降って たっぷりともっと
주르륵 내려서 꽃이 펴
ざあざあ降れば花が咲く
주르륵 내려줘 지금 더
ざあざあ降って今はもっと」
雨量や勢いのニュアンスから「ざあざあ」と訳したけれど、この「ちゅるる」という音の軽やかさをどうも取りこぼしている気がしてならない。
いっそ「あめあめふれふれ」くらいの方がしっくりくるかもしれない。
そうやって彼らは雨を乞い、受け入れる。その顔の優しいことと言ったらない。
Rock With Youや舞い落ちる花びらを取り入れたジョシュアさん、スングァンちゃんのパート。
どちらも諸行無常を思わせる曲だけれど、全ては終わるということではない。全ては移り変わるということだ。
「だから君を当たり前だなんて思わない」のだ。
この全てが移り変わってゆく世界の中で、しっかりと手を繋ぎ直して、ナノ単位で互いを選び続けて、同じ雨の中傘もささずに気持ちよく踊ろう。
2023年の4月に世界へと放たれたこの歌は、Followツアーを経て季節を一巡りした。毎度歌い始める前に「次の曲はスングァンさんの大好きな曲です」とお決まりのように紹介され、ちょっと呆れて笑っている時もあるけれど、あえて紹介されるくらい「スングァンちゃんの大好きな曲」であることは私の心にApril Showerが柔く沁み込む理由の一つになっている。
リリース当時は「この季節にぴったりの歌だ」と思っていたけれど、今年は「April Showerの季節が来た」と思った。April Showerを聞きたいから、雨が待ち遠しいとすら思う。桜を散らす雨も去年より愛おしい。
だって私のもとにも降り注ぐこの雨は、5月に美しい花を咲かすから。