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Spider

その人はいつも虎視眈々と、仕掛ける時を待ち構えている。狼煙を上げる瞬間を、全力でアクセルを踏む瞬間を、見極めている。

4月2日にホシくんのソロMixTapeが公開された。
彼の夢だったソロパフォーマンス。

「これがSeventeenのパフォーマンスリーダーだ」

全人類、刮目せよ。
全身からそう発しているような、彼の支配下にある3分31秒。まずはどうか、見てほしい。

https://youtu.be/eOOsAeOx5a0

Somebody help

白銀の蜘蛛の巣から露が滴る。
その露が水面を弾くような音でSpiderは幕を開ける。

人ではない何か。
慎重に、慎重に、抜き足差し足…

かと思えば次の瞬間天と地が入れ替わる。
地に足が付かない不自由さと
地に縛られない自由さと

ほんの数秒で彼は見事に「蜘蛛」を体現する

そしてこの、本来平面である蜘蛛の巣を奥行きと直線とを使って表現した画…脱帽です。
指を掛ければすぐに切れてしまうあの繊細でしなやかな糸を、鉄や人工物で表現するというのも敵わない。

そして捕らわれる。
身動きがとれずただ喰われるのを待つ餌。
これまたどうしてなかなか官能的な…

この背や腕のしなりが、粘着質な罠を思わせる。彼の身体に糸が引いているようにすら見える。

首筋を這う彼の手。
その手は果たして2匹の蜘蛛か…

第一関節を反る…全ての指に黒い指輪をはめる…
節足動物としての蜘蛛を髣髴とさせる。

いや、はたまた急所である頸を護っているのか…

その柔い首に紅い爪が刺さる
この瞬間、突如あまりにも直接的な表現になってどぎまぎしてしまう。

君の魅力に溺れて身動きがとれない様子を蜘蛛の巣に捕らえられたようだと「喩え」ていたのに…
急に彼の首に女性の手がかかる。
細い指、長く赤い爪…あまりにも大袈裟で象徴的な「女の手」。
それが彼の首を掴む。文字通り「息の根を止める」ということだろう。
婉曲的な「喩え」から「直接」へ…それすら更に超えて「誇張」へ


この恍惚とした笑み。
彼は時折こんな表情を見せる。
こんなにも躊躇なくエクスタシーに浸り、その様子を無防備に解放してしまう…そんな狂気。

この笑みは、捕食する愉悦でしょうか、
それとも捕食される快楽でしょうか…

まるで天井から降りてきたかのような…
そう見せる想像力と表現力。普通に椅子に座っているだけではこうはならない。

そしてこの瞬間彼が蜘蛛なのだ。
捕食者と被食者を行き来する。

かと思えば胎児のように丸くなり、虚空を見つめる。さっきまであれほど激しく振れていた感情の針が急に止まったかのような…そんな余白に強烈に引き込まれてしまう。

絡めとり、口に運び、放り出す。
蜘蛛の巣には、よく捕らわれた虫たちの残骸が遺っている。細い糸で編み上げられた城の中では彼こそが王なのだ。
食べたいものを食べたいだけ食べる。
全ては彼の意のままに…

貴方はどちらでしょうか。
私には、ただ喰まれるのを待つだけの…その時間に幸福を感じているような表情に見えて仕方がないのです。そんな狂気が、こんなにも澄んだ美しさを放つのだから恐ろしい。

その手の中に、小宇宙を創る。
籠のように指を編み、その美しい曲線を描いた眼で我々を誘い込む。
まさにこれは「罠」…
なのに罠だと分かっていても近づきたくなる。
そこに捕らわれて喰われてしまうことが、最も幸福なのでは無いかと思ってしまう。

彼の指の中に引かれた2本の糸…

次の瞬間には彼の背後へ…
もしかしたらここで私達は先程の掌の中の世界に迷い込んでしまったのかもしれない…

腰を落とし、背中を丸め、臨戦態勢。
動物が狩をする時、威嚇する時、こんなカタチをとる。蜘蛛にも見える、虎にも見える…人の持っているイメージの核の部分を削り出して、それを振り付けや姿勢に落とし込むことができる。
彼の観察力、センス、表現力…すべてに敬服してしまう。

슴이 막힌다고 息が詰まるんだ
네가 날 볼 때면 君が僕を見ると 
네가 날 볼 때면 君が僕を見ると

息ができなくて苦しい。
슴이 차(スミチャ)が激しく動いて「息が切れる」という感じであるのに対し、こちらはそもそも息を吸ったり吐いたりすることすら難しいという感じでしょうか。

ティーザーが出た時から、ここのホシくんの歌い方が頭を離れなかった。
ほとんど吐き切った息で歌っているような…後半はは少し震える声。

息が詰まる。
この衣装のホシくんはとても繊細に光るピアスと指輪をつけていて、瞼の糸のメイクと相まって水滴を蓄えた蜘蛛の糸のように見える。

ただ、優しく美しい。
餌を捕らえるための糸だなんて微塵も感じさせない。聖いものの畏ろしさ。恐ろしいものの聖さ。

一瞬で危険信号を発する「蜘蛛の糸」へ転じた。
こちらが幾ら警戒したって関係なく捕らえられるという自信すら感じる。

ホシくんは羽織がよく似合う。
身体の一部のように羽織を操り靡かせて舞う。
蜘蛛に羽はないけれど、網を投げるようにも見えて、また新しい演出の可能性を見せつけられた。

振り返り様の横顔がまた妖しい。
本当に横顔が綺麗なひとだなと思う。
彼は時折ゾッとするほど冷ややかな目をする。
こちらを見ている様に見えて、歯牙にも掛けないような…そんな冷徹な目。

「蜘蛛のように」
この部分の手の動きは、Spiderの最もシンボリックな振付の一つだと思う。
蜘蛛が這う様な滑らかな指の動き。

そしてもう一つ、この曲の中で強烈なインパクトを残す振付がある。

それがこの動き。

엉켜 있는 우리가 헤어나지 못하게
縺れ合った僕らが離れられないように

どこかでこの動きを見たことがある。
網にかかった蝶が逃れようと最後にもがくとき、丁度こんな動きをする。歪で不規則な振動。
あの自由な生を諦め切れない必死さが、ただ大人しく喰われるよりも遥かに残酷に見える。

そんな見方によっては惨たらしい自然界の一瞬を切り取って、振付のモチーフとして美しく昇華させる。
万人の記憶の奥底にある普遍的なイメージを緩やかに呼び起すことで、却って一瞬にして鮮烈な印象を刻みつける。
背中ですらこれ程雄弁に語る。

これがウリパフォーマンスリーダー・ホシなのだ。

ティーザーでも使われていた一瞬のけ反るこのシーン。見てはいけない瞬間を垣間見てしまったかのような背徳感…

あまりにも艶かしくて、色っぽいなんて表現じゃぬるすぎるくらい官能的で…
咽せ返り、火照ってしまうくらいの濃さ。

僅かに眉を顰め、乞い縋るような瞳でこちらを見つめてきた。熱い。何とかしなければ、でも何を…

そんなことを考えていたら次の瞬間にその目は熱を失う。何かを諦めたかの様な。
僅かな希望を持って救いを求めたのに、救われなかったことに失望したかの様な…

そして怨むような瞳で、拒絶する様に腕に顔を埋めていってしまう。

なんだかこの一瞬の変化がとても切なくて苦しい。

なのにそれすらもどうしようもなく美しい…

Good to meやFearlessにも出てくる、この何かを振り解く様な、引き千切るような振り付けが好き。

拳を握り、頭上に掲げ、攻めにも守りにも見える…いずれにしても強い“覚悟”を感じる。

こんなにもモードに蜘蛛の巣を表現できるのかと頭を抱えた一コマです。

赤い枠が結界となり、その中で白線が縦横無尽に遊ぶ。黒い床に反射する丸い光はさながら蜘蛛の巣に輝く水滴のよう。
その中心に這うこの人こそクォン・スニョン。

あなたは捕らえる側?それとも捕らわれる側?

この場面の切り替え方がとても好き。
押し引きや円状のカメラワークが多い中、横にスクロールしていく新鮮さ。
紙芝居の様なノスタルジックも感じる。

何度目の罠

そして鉄棒で区切られたコマ送りの様なシーンへ。
この区切りと白い人々に阻まれながらも振り解いて前へと進んでいくホシくん。

どうしたらこんな形を作ろうと思うのか。
これもまた、蜘蛛じゃないですか。
掌一つで、両手で、1人の体で、2人の体で…
蜘蛛というどこにでもいる生命の形ひとつに、どれだけ多くの解釈を持ち得るのだろうか。
 
私は彼の、彼らの、こういうところに強烈に知性を感じている。

この世界を記述する手段は実は言葉だけじゃなくて、ホシくんの場合はそれがダンスなのだと思う。
彼の目に映る世界が、私の目に映るそれとは全く違うのだということが顕著に伝わってくる。

彼の世界の解釈は自由だと思う。
私は言葉に生かされ言葉に縛られている人間だから、彼のような自由さがなくて悔しい…とても。

とうとう捕らわれた。
しかし振り返り、微笑している。
まるで捕まえられるか否かギリギリのラインでの駆け引きを愉しんでいるかのよう。

捕らわれる側、喰われる側が、常に立場が弱いとは限らない。捕らわれて「やってる」、喰われて「やってる」のだと、そう言わんばかりの余裕の笑み。

逃れると同時に倒れ込む…
この腕の残像もまた蜘蛛を彷彿とさせる。
獲物と蜘蛛とを一秒単位で行き来する彼に、ずっと翻弄されている。

一秒単位で切り替わっていく映像のどこを切り取っても美しい。

白いペンキに塗れ横たわるあなたも
前髪の隙間から真っ直ぐにこちらを睨むあなたも
光を宿さないポッカリと黒い瞳で振り返るあなたも
「美しい」なんて一言で括るのはあまりにも窮屈なくらい激しいエネルギーを放っている。

1枚目の眼の上に惹かれた朱色の線も
2枚目の糸を添えた化粧も
3枚目の何かが迸るような演出も…

この製作に関わった人々が“ホシ”という人間にそれぞれの「美」を見出していることが、そして彼もまたその人達の中に眠っている「美」の想像力を引き出していることが伝わってくる。

人間離れした美しさの演出。
どこか宗教的な要素すら感じる。
畏れるべきもの、跪くもの…そんな存在。

繋ぎ方まで美しい。
白と黒と紅と、散る塗料と。
少し糸を引く液体が、なんだか立ち昇る炎のようでもあってお見事。

물방울이 맺히기만 해도
雫を捕らえた途端

햇빛이 깊숙이 머무는 이곳
日の光を深く宿す此岸

무리해서 한 발자국 더
無理やりにでももう一歩

너에게로 접근하게 해
君へと足を踏み出す

雫が美しく光を散らすその場所の安寧を手放しても
君へと近づきたい。

「一歩足を踏み出す」と訳したものの、虫が這いながら擦り寄るような手振。
この歌詞にこの振りを載せる巧妙さと言ったらない。ただ「虫」をモチーフとしているのではなく、彼が虫のように君に歩み寄るのだと…君を蜘蛛と見立てるなら、餌が自ら喰われにいくのだ。
その一つまみの悍ましさが、最高に効いている。

そして囚われる、項垂れる、

翻る、転がる、その最中ですら愉悦に浸って笑みを浮かべているように見える。

眼の曲線がこの世で最も美しいひと。
貴方がこちらを睨むとき、私の胸の鐘が鳴る。

真っ直ぐ、真っ直ぐにこちらを目で捉えながら

足を掬われ引き摺られて行く。
ここのシーンが最も前衛的だと思う。引き摺られるシーンを取り入れるというのはかなりの挑戦ではないでしょうか。
9割9分間が抜ける。実際このシーンもあと1秒引き摺られる時間が長ければバランスが崩れてしまいそう。

引き摺られる直前まで不安など感じさせず真っ直ぐこちらを捉えていられるホシくんだから引き摺られてもなお崩れない。

場面が切り替わると、囚われながらも真っ直ぐに立つ彼の姿が在った。
光の筋と床への反射すら蜘蛛の糸。
それらと人の身体に絡め取られているけれども、依然として威風堂々…

微かな光に照らし出される後頭部の形が泣きそうになる程柔く、陰に潜む顔との対比が妖しさを増す。

そしてなんだかこの感覚はうまく言葉にできないけれど、このシーンはこんなにも凪いでいるのに、香りのある風が何処からか吹いてきているような印象を受ける。


嫉妬。羨望。…焦り?
性別とかリアコかとか関係ない。
彼と同じ高みで遊ぶことができる、心身に触れることができる、干渉することができる…
その距離に、ただ、私の心は熱を持つ。

でも、私はまだこの感情を他に知らない。
嫉妬、羨望、焦り…どれも間違っていないし、どれも正解ではない。

ホシくん、貴方と「君」との2人の世界を閉じるために作られた檻の…その外側からそちらが見えてしまう私はどうしたらいいですか。

そんな貴方にも、時には余裕なく必死な面持ちでしがらみを振り解こうとする瞬間があるんですね。

また直ぐに、囚われてしまうのだけれど。

感情の読めない眼。
警戒されているのか、助けを乞われているのか、ただ視界に入ったものを目で追っただけなのか…

いずれにしても、その目を見ると、
なんだか貴方に触れられそうという錯覚と
決して貴方には干渉できないという実感と
その両方が生まれてしまって、ひどく苦しいのです。

この、頭で円を描く動きも印象に残る。
綺麗なアイソレーション。彼のダンサーとしての技術が素人目にも見て取れる。

綺麗ね…
綺麗だよ。
呆れたような、気怠げな眼をしていても
どこまでも貴方だけの美しさに昇華するね。
海のように、空のように、清濁どちらも包み込むひと。

燃える。
お稲荷様のようなお顔。本当に綺麗なつり目。
きっと貴方はどんな時代でも普遍的に人々の心を掴む美しさを持っているよ。

ホシくんが小さい頃に読んでいた絵本を知りたいな
…と思った人形劇の盗賊のような歩き方。

家庭環境も、話す言葉も、育まれた文化も
私と貴方は土台から全く違うから
私はせめて、貴方を作り上げてきたものを学びたい 
貴方から学びたいだけじゃなく、貴方を学びたい

渦を巻く「君」の指紋すら蜘蛛の巣。
眼を凝らさなければ見えないほどの小さな溝の中、奥へ奥へと潜って行くと貴方がいた。
細胞の核、骨の髄まで「君」で染まり「君」に囚われた貴方は、きっとどこにも行けない。
私も。

君と共に

2番サビを終えるまで、これ程イカしたホシくんを隠してたなんて本当にずるい。
蛍光塗料で顔を化粧した、近未来的なコンセプト。

化粧といっても綺麗に見せる、整えるといったものではなく、祭や神事、戦闘の前など「ハレ」と「ケ」の間に線を引くための化粧。
文字通り「化けて」「粧う」もの。

ただ、そういう化粧ほどそれを纏う「ひと」がいかにその一線を越えられるかが試されると思う。
そのひとの精神が「ケ」に残ったままだと、途端に化粧が浮いてしまうから。

そしてホシくんはその一線を越える方法を知っている人だと思う。
「憑依型」そういってしまえばそれで済むのかもしれないけれど、なんというか…体質ではなく習得したんだと思う。それを表す言葉を私はまだ知らない。

激しくヒットを打ちながら進み、直前にも腰元でギターを掻き鳴らすような振りを入れた後
得意顔でバイオリンを奏でるような動きをする。

突然優雅になるこの意外性がたまらなく好き。
私はどこまでもホシくんの掌の中。

と思えば叩き起こされる。
激しい息切れのような声が耳を駆け抜ける。
まだ落とされるかと、まだ底ではないのかと、途方もない感情になった。

大好きだ。
ホシくんの、そんな剥き出しの闘志が大好きだ。
紅炎のように噴き出す感情が大好きだ。

起点としてのホシくん
センターとしてのホシくん
どちらも魅せるのがウリパフォーマンスリーダー。

MVは1秒1秒完成されたシーンで紡がれているけれど、でもやっぱり、ステージでのパフォーマンスを想定された構成になっている。

背中を丸めて伏した虎。
なんとなく、このホシくんは虎のよう。
ネオンのような紫の闇に浮かぶその佇まいを見て、私の呼吸は幾度となく止まった。

天を仰ぎ、また、可笑しくって仕方ないというような笑みを浮かべる。

罠に捕らわれ身動きを取れなくなったその場所が、貴方の絶頂なんですね。
何度でも、あなたの笑みに絆されてしまうよ。

崩れ落ちる。膝をつく。
笑って終わるんじゃないのか…
でも、至高の快感を手に入れたようにも見える。

「君」に溺れることも、「君」の前では無力な存在であることも、為す術がないことも…
全部全部ひっくるめて、「君」が好きでたまらないのでしょう。

私もそうだよ。

それから


この曲では最後まで「愛してる」と言わない。
あくまで「좋아(好きだ)」と繰り返す。
この短さ。息が切れるような短さ。

なんだか「愛してる」は「好き」の上位互換のように使われることが多いような気がするけれど、この曲の場合は「好き」という言葉を選ぶことに切実さが表れていると思う。

この狂おしい程の愛を、敢えて「愛」だと言わないところに、愛を感じてしまう。


私はあなたへの気持ちは、果たして何でしょうか。
私はこのnoteで、Spiderの考察とか、紹介とか…そんな大したことは書けませんでした。

ホシくんを見て思ったことを書き留めたくて
彼がが作り上げたものを言葉でなぞりたくて
このやり場のない莫大な感情を移す器が欲しくて
ただそのために書きました。

でも、そうしなければどうにもならないくらい、ホシくんは私の心を激しく揺さぶっていった。

彼は駆ける。
「俺らまだ半分も見せてないぜ」と笑いながら。

私は幸運にも、そんな彼が駆ける瞬間に立ち会えていて、だからこそ、そんな彼が私のすぐ側を駆け抜ける時に吹く風の肌触りを書き残したかった。

彼は駆ける。
今、駆けている。
そして私はその目撃者になれている。

もっと早く出逢いたかった…
そんな後悔を並べればキリがないけれど
でも私は、間に合ったと思う。
Spiderに間に合った、あなたの「今」に間に合った

何より私自身が、
あなたに出逢えて、間に合ったと思う。

だから「今」を記述したい。

これは愛でしょうか、
エゴでしょうか、
いや、この感情の名前なんてどうでもいい。

ただ、今日も、あなたは世界一美しい。

それから…

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