“Simple”に寄せて
“Simple”という曲がある。
Seventeenさんのアルバムに収録されている唯一のソロ曲。ソロ曲自体はいくつも出ているのに、今のところこの一曲だけがアルバム収録されている。
歌うのは我らがVoBo、ウジことイ・ジフンさん。
作詞はウジさんが一人で手掛けている。
遠く遠く、見えなくなるまで…ただ全てが「Simple」であってほしい
この曲を初めて聞いたとき、私は上手く咀嚼することができなかった。
「そっか…ウジさんはそうなのか…」
そんな磨り硝子一枚隔てたような感覚。
「Simple」というのは敢えてそれを望むものではなく、今持っている物を削ぎ落としていくものだと思っていたからか…
私はどちらかと言えば余剰とか遠回りとかお節介とか…そう言った「必須」ではないものに強く惹かれる傾向がある。
「そんなこと考えたって仕方ないじゃん」「考えすぎだよ」といわれるようなことばかり考えてしまうし、そんな言葉に傷つくこともある。
どちらかと言えば「Simple」とは対極にいる人間なのではないかとすら思っている。
そして勝手ながら、どこかでウジさんもそういう人だと思い込んでいた。
だから余計に解らなかった。
花が綻ぶことにすら心を揺らされ、この世界の有象無象を柔らかく包み込むような…私の目に映る彼はそんな人だった。
そんなウジさんがただ「Simpleであってほしい」と何度も繰り返し歌うまでに至った心の動きが解らなかった。
それなのに、ある日突然この歌詞がストンと私の中に落ちてきた。
…いや、呑みこめていなかったはずのこの歌詞が突然自分の内側から込み上げてきたという表現の方が近いかもしれない。
ただ、全てが「Simple」であってほしい。
そうなってほしい。
…喉から手が出るほど、それが欲しくてたまらなくなった。
この初めての感覚を書き留めたいと思い、筆を取りました。
今回は歌詞の解釈というより、私自身の近況の話になってしまうと思います。きっとネガティブな言葉もたくさん出てきます。
それでも大丈夫という方は読んでいただけると嬉しいです。
まずはどうか、Simpleの歌詞を読んでください。
Simple
오늘의 마지막 이 길에 서 있다
一日の終わり この道に立ち尽くす
매일은 이렇게 ooh
毎日こんな風に
드넓은 세상엔 난 먼지만도 못한 걸
広大な世界の中で 僕は埃にすら成り得ないと
잘 알고 있지만
よく分かってるけど
쉬운 일 하나 없는
簡単なことなんて何一つない
출구 없는 미로인듯한 세상
出口のない迷路のような世界
행복은 그냥 말만 있는 거고
“幸せ”はただ言葉だけ存在するもので
모두가 원하는 Dream일뿐이라고
誰もが望む夢に過ぎないのだと
말도 안 되는 얘긴걸
ありえない話だと
믿고 싶지도 않아서
信じたくもなくて
Yeah I just want it SIMPLE SIMPLE Oh
僕はただ“SIMPLE”…“SIMPLE”であって欲しい。
나를 숨쉬게 하는 모든 것이
僕を息づかせる全てが
くじょ がんだねっすみょ ね
그저 간단했으면 해
ただ簡潔であればいいのに
내게서 멀리 더 멀리 더 보이지 않을 때까지
僕から遠く さらに遠く もっと見えなくなるまで
I call you baby yeah
愛しい人、君を呼ぶよ
Baby's called my happiness yeah
君こそが僕の幸せなんだ
Yeah I just want it SIMPLE SIMPLE
僕はただ“SIMPLE”…“SIMPLE”であって欲しい。
I want it SIMPLE
僕は“SIMPLE”を願う
쉬운 일 하나 없는
簡単なことなんて何一つない
출구 없는 미로인 듯한 이 세상
出口のない迷路みたいなこの世界
행복은 그냥 말만 있는 거고
幸せはただ言葉だけ存在するもので
모두가 원하는 Dream일뿐이라고
誰もが望む夢に過ぎないと
말도 안 되는 얘긴걸 yeah
ありえない話だと
믿고 싶지도 않아서 yeah
信じたくもなくて
Yeah I just want it SIMPLE SIMPLE Oh
나를 숨쉬게 하는 모든 것이
僕を息づかせるすべてが
그저 간단했으면 해
ただ簡潔であればいいのに
내게서 멀리 더 멀리 더 보이지 않을 때까지
僕から遠く さらに遠く もっと見えなくなるまで
I call you baby yeah
Baby's called my happiness yeah
Yeah I just want it SIMPLE SIMPLE
I want it SIMPLE
Em- I want it simple yeah
내가 틀린 거라고 yeah 모두가 말해도
僕が間違ってるんだと誰もが口を揃えても
이 밤이 지나면 함께 웃을 수 있길
この夜が明けたら一緒に笑えますように
나를 숨쉬게 하는 모든 것이
僕を息づかせる全てが
그저 간단했으면 해
ただ簡潔であればいいのに
내게서 멀리 더 멀리 더 보이지 않을 때까지
僕から遠く さらに遠くもっと見えなくなるまで
I call you baby yeah
Baby's called my happiness
Yeah I just want it SIMPLE SIMPLE
I want it SIMPLE
Oh I want it SIMPLE oh yeah
I want it SIMPLE
途上にて
一日の終わり この道に立ち尽くす
この歌詞を見て、ウジさんは、そしてこのnoteを読んでくださっているあなたは、どんな「道」を思い浮かべるのでしょうか。
雑踏、野原の一本道、獣道、荒野、路地、海沿いの道、曲がりくねった山道…
「道」と言ってもそこから思い浮かべる情景は幾通りもあると思います。
私が今この歌詞を聞いて思い浮かべる「道」は、ただ真っ白な何もない空間に同じく真っ白な道だけが浮かんでいる情景でした。
前を向くと霧がかかっていて、この先が一本道なのか分かれ道なのか、登り坂なのか下り坂なのかも判らない。
けれど後ろを振り返ると、今日まで息切れしながら必死で進んできたはずの道のりは思ったよりも短くて、すぐそこに出発点が見えている…そんな情景。
今日という1日の終わり、そんな道の途上で立ち尽くしている。
終わりが見えない。あとどれだけ踏ん張ればいいのか、果たして自分は最後まで辿り着けるのか…そんなどうしようもない不安に駆られる。
いっそ一歩踏み出した先が崖になっていて、もう終わりになってくれればいいのにと…時折そんなことすら祈りながら、それでも自らその道を降りる勇気はなくて、まだ歩き続けている。
まさに「簡単なことなんて何一つない 出口のない迷路のような世界」。
重く纏わりつく霧
私は今、恐らく人生の中で最も「どうしたら良いか判らない」という苦しさに溺れている。
仕事が向いてない。何一つ向いていない。
行き過ぎた卑屈は思考の放棄だから、「私には何の才能もない」とまでは言わない。
けれど、私に何か強みがあるとしても今私がしている仕事はそれをほとんど活かせていないと思う。
それどころか私の苦手なことが、より顕著に弱みとして浮き彫りにされてしまう。
具体的に言えば私は効率・速さを求められるのが大の苦手で、どちらかと言えば思考を深掘りすることは苦手ではない。
極端な例を挙げると、私は学生時代国語が人より得意だったけれど、制限時間内に用意された設問を解き切ったことはほとんどなかった。
8割解いて、その解いた部分の正答率で勝負していた。
でも今の仕事はそういう戦い方をできない。
一つ一つの得点率は8割でも良いから、必ず全問解きなさい。
全問解ききれないなんてことは許されません。
…そんな仕事。
なんだかすごくドライな職場のような書き方をしてしまったけれど、冷静に考えたら「全問解き切る」必要があるのは当たり前だった。
なぜならここで「一つ一つの問題」に置き換えられるのは、仕事における「お客様」つまり人間なのだから。
個々の完成度に拘るあまり、例えばお客様2割を切り捨てて8割に対して勝負をするなんてことをしたら、プロ以前に仕事をする人間として失格だ。
ドライなんじゃなくて、それが真っ当な仕事の在り方なのだと思う。
なのに、私にはそれができない。
仕事がとにかく遅い。効率化する工夫ができない。人に頼ることもできない。なのに「頼らない」という選択肢を選べるほどの力もない。
ただただ無力だった。
毎日たくさんの「できなかったこと」ばかりが、この両手から零れ落ちて足元に降り積もっていった。
私は夢を叶えて今の仕事をしているわけじゃない。
今の仕事の内容自体が好きなわけでもない。
そもそもそういう基準では仕事を選ばなかった。
けれど、それでも、どうせ仕事をするなら「いい仕事」をしたいと思ってきた。
自分の仕事の先にいるお客さん一人一人を大切にしたかったし、その人達の人生に一瞬でも私が関われているんだということを忘れたくなかったし、
この仕事の先にある社会をより良いものにしたかった。
それだけだった。それだけでよかった。
それなのに色々なものが私の眼前に纏わりついて何も見えなくなっていた。
「Simple」
足元に降り積もった「できなかったこと」は気づけば私の目を覆い、
当たり前のことが当たり前にできない自分を受け入れることができず、
そんな自分を形作ったこれまでの人生が恥ずかしくなり、
本来誇るべき優しくて本当に優秀な先輩方や同期の存在がより自分の矮小さを際立たせるように感じてしまい、
このまま全部ダメになったらどうしよう、折れてしまったらどうしようと考えなくても良いことばかりが脳裏を駆け巡っていた。
ある日とうとう夜中に目が覚めて耐えられなくなり、トイレで声を殺して泣きながら吐いてしまった。
惨めだった。
涙で顔をびしゃびしゃにしながらも、こんな時ですら家族に心配をかけたくないとパジャマを噛み締めて声を殺していることも
睡眠不足で次の日の仕事のパフォーマンスがさらに落ちることが不安になっていることも
誰に助けを求めていいか判らなくて必死でホシ君の画像を握りしめて「誰か助けてよ…」と呟いていることも…
でも本当はわかっている。
足元に降り積もっていた「できなかったこと」も一つ一つ分析すればきちんと解決していけるし
当たり前のことができない自分は変えられるはずだし
私の今までの人生は仕事のためにあったわけではないし
先輩や同期は助けを求めれば手を差し伸べてくれるし解決策を考えてくれるし
折れる前にできることはまだまだたくさんある。
Simpleであってほしい。
ふと、そう思った。
私がこんなにも苦しみ踠いている状況は、本当はもう少し簡単なはずで
簡単じゃないにしても、やりようはいくらでもあって
やるべきことだけを頑張りたいのに、それにしては余計なものが多すぎた。
「いい仕事をしたい」
それだけなんだから、そのゴールに向かってやるべき努力をしていきたい。そのためになら苦労したっていい。
なのに私が今苦しんでいるものは一体なんでしょうか…
自意識も、周囲の目も、職場の事情も、人間関係も、
何のためにこれほど悩んでいるのでしょうか。
そういったもの達から自由になりたい。
自分にとって大切で、必要なものだけを見据えて走っていきたい。
だから、ただ、Simpleであってほしい。
此処から遠く、さらに遠く、もっと見えなくなるくらい先まで
視界が開けてほしい。
楽をしたいなんて言わないから、ただ簡潔であってほしい。
私の望んだ「Simple」は、そういうものでした。
この夜が明けたら
私を息づかせる全てが、ただSimpleであってほしい。
けれどこれは自分を取り巻く環境というよりは、それをどう捉えるかという自分自身の問題なんだと思います。
なら自分の考えを変えたらいいじゃないかと、
私が間違っているんだと、
私を含めた誰もが口を揃えても…
それだって簡単なことではなくて、変わりたくないと思ってしまう自分もいて…
Simpleであってほしい。
何より私自身がSimpleでありたい。
そんなしがらみが全て取り払われることを祈りながら、今も夜明けを待っている。
そんな夜をまた歩いている。
こんな私の現状に「Simple」は居場所を与えてくれました。私1人じゃないんだと、私だけが間違っているのではないのだと、勘違いだとしてもそう思えることに救われました。
この曲の捉え方はきっとこの先も変化していくのでしょう。
ウジさん、ホシくん、Seventeenさん
あなた達の名前を何度だって呼ぶよ。
あなた達こそが私の幸福なんです。
この夜が明けたら、どうか一緒に笑えますように。