「頭が赤い魚を食べる猫」から考える,わかりやすい文の書き方
以前のTwitter(X)で「頭が赤い魚を食べる猫」という文が話題になった。次の画像のような5つの解釈ができると思われたからだ。
しかし,本来ならば2番目の絵のみをこの文は意味すべきだと私は思う。他の絵はそれぞれ別の文で表すべきだ。
本記事は,どう書けばこれらの絵を一意に表せるかを考えながら,わかりやすい文の書き方を考える。
①どこからどこまでがヒトカタマリかを明確にするために,読点を打つ
「頭が赤い魚を食べる猫」が1番目の絵を意味する時は,この文は以下のような構造になっている。
まず,〈頭が〉が〈赤い〉を修飾し,〈魚を〉が〈食べる〉を修飾している。そして,〈頭が赤い〉と〈魚を食べる〉とがそれぞれヒトカタマリになっており,それらが共に〈猫〉を修飾している。
1番目の絵だという意味を明確にするには,どこからどこまでがヒトカタマリかを明確にすれば良い。こういう場合は読点を使って書くと良い。文章を分かりやすく書く1つ目の方法として,「どこからどこまでがヒトカタマリかを明確にするために読点を打つ」ということが挙げられる。ここでさらに重要なのは,読点で区切られた部分を明確にするためには,不要な読点を打ってはならないということだ。不要な読点を打ってしまうと,「どこからどこまでがヒトカタマリかを明確にするために読点を打つ」という本来の読点の意味が損なわれてしまうからだ。
したがって「頭が赤い,魚を食べる猫」と書き直せば良い。この文は,以下のような構造になっている。
②本来ならばこう読めるはず
本来ならば,「頭が赤い魚を食べる猫」という文は2番目の絵を意味するべきである。前から順に情報を素直にとると,この絵の解釈になるからだ。
「頭が赤い魚を食べる猫」が2番目の絵を意味する時は,この文は以下のような構造になっている。
〈頭が〉が〈赤い〉を修飾し,〈頭が赤い〉が〈魚を〉を修飾し,〈魚を〉が〈食べる〉を修飾し,〈食べる〉が〈猫〉を修飾している。
前から素直に読めばこのように解釈できるから,この文は手直しが要らない。むしろこの文から他の解釈をしようとするのが問題だ。手直しをしないと,多義性を残した文かのように,この文がなってしまうからだ。2番目の解釈が一番素直なのだから,他の解釈はすべきではない。
したがって「頭が赤い魚を食べる猫」のままとする。
③要素がヒトカタマリになったものは,文の頭に持ってくる
「頭が赤い魚を食べる猫」が3番目の絵を意味する時は,この文は以下のような構造になっている。
まず,〈頭が〉が〈食べる〉を修飾し,〈赤い〉が〈魚を〉を修飾している。そして,〈赤い〉と〈魚を〉とが〈赤い魚を〉としてヒトカタマリとなって,〈赤い魚を〉が〈食べる〉を修飾している。さらに,〈頭が〉と〈赤い魚を〉と〈食べる〉とが〈頭が赤い魚を食べる〉としてヒトカタマリとなって,〈頭が赤い魚を食べる〉が〈猫〉を修飾している。
「頭が食べる」なんていう状況は一般的な現実世界では存在しないので,これは些か天邪鬼な解釈だとは思うが,もしこういった意味を表現したいのならば,〈頭が〉と〈赤い魚を〉とを入れ替えると良い。〈赤い〉と〈魚〉とは〈赤い魚を〉としてヒトカタマリとなっている。複数の要素がこのようにヒトカタマリになったものは,文の頭に持ってくると意味が通りやすい。文章を分かりやすく書く2つ目の方法として,「要素がヒトカタマリになったものは,文の頭に持ってくる」ということが挙げられる。
したがって「赤い魚を頭が食べる猫」と書き直せば良い。この文は,以下のような構造になっている。
④のまえに
「頭が赤い魚を食べる猫」を4番目・5番目のように解釈する人は,はっきり言って頭がおかしい。4番目・5番目の絵は猫の絵ではなく,頭だけが猫の何者かの絵であるからだ。したがって少なくとも「頭が赤い魚を食べる猫の◯◯」という文からでないとこのように解釈してはならない。「頭が赤い魚を食べる猫」という文から4番目・5番目の分析をするのは馬鹿馬鹿しいので,「頭が赤い魚を食べる猫の◯◯」という文から分析してみる。
④修飾語と被修飾語はできる限りくっつける
「頭が赤い魚を食べる猫の◯◯」が4番目の絵を意味する時は,この文は以下のような構造になっている。
まず,〈頭が〉が〈猫の〉を修飾し,〈赤い〉が〈魚を〉を修飾し,〈赤い魚を〉が〈食べる〉を修飾している。そして〈頭が〉と〈猫の〉とがヒトカタマリとなり,〈頭が猫の〉となる。さらに,〈頭が猫の〉と〈赤い魚を食べる〉とが共に〈◯◯〉を修飾している。
ここでまず問題なのは,〈頭が〉と〈猫の〉とがかけ離れていることである。したがってまずは〈頭が〉を〈猫の〉の直前に移動すべきだ。この段階では「赤い魚を食べる頭が猫の◯◯」となる。文章を分かりやすく書く3つ目の方法として,「修飾語と被修飾語はできる限りくっつける」ということが挙げられる。
次に,1番目の絵の分析の通り,「どこからどこまでがヒトカタマリかを明確にするために読点を打つ」。
したがって「赤い魚を食べる,頭が猫の◯◯」と書き直せば良い。この文は,以下のような構造になっている。
⑤今までの集大成
「頭が赤い魚を食べる猫の◯◯」が5番目の絵を意味する時は,この文は以下のような構造になっている。
まず,〈魚を〉が〈食べる〉を修飾し,〈魚を〉と〈食べる〉とが〈魚を食べる〉としてヒトカタマリになっている。さらに,〈頭が〉と〈赤い〉とが〈猫の〉を修飾し,また〈頭が〉と〈赤い〉と〈猫の〉とが合体して,複雑な暴力性を持って〈◯◯〉を修飾している。
構造分析だけでイライラしてしまうほど複雑な文なので,今までの分析をもとに,この悪文を修正しなければならない。本記事の集大成である。
まず,4番目の絵の分析の通り,「修飾語と被修飾語はできる限りくっつける」。〈頭が〉と〈赤い〉とを〈猫の〉の直前に移動する。
次に,3番目の絵の分析の通り,「要素がヒトカタマリになったものは,文の頭に持ってくる」。〈魚を食べる〉を文の頭に持ってくる。
最後に,1番目の絵の分析の通り,「どこからどこまでがヒトカタマリかを明確にするために読点を打つ」。
したがって,「魚を食べる、頭が赤い猫の◯◯」と書き直せば良い。この文は,以下のような構造になっている。
でも5番目の絵は
5番目の絵は,「魚を食べる、頭が赤い猫の◯◯」でもまだ不十分である。〈頭が〉が〈猫の〉を修飾しているのか,〈赤い〉を修飾しているのかがはっきりしないからである。したがって全く違った文で表すべきだ。どう書けばよいかは読者諸賢に託したい。
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