2023年ベストリリース60選
この記事は今年4月に一旦書いて公開していた16選の縮小版記事の拡張版です。なので16位以上はそれと全く同じですね。その時点では拡張版は49選の予定だと書かれていましたが、書きたい盤がちゃんと入るようにしたら結局60選になりました。そして9月公開です…。自分の作品作りの時間を圧迫しないように電車で座れなかった時とか店で並んでる時とかにスマホでポチポチ書いてたらこうなりました。本当に先に16選を出しといて良かった!
ちなみに中身のレビュー文を全部書き終わったのはSummer Bash Fest 2024の翌日に主催、トリのSandのMakoto氏が経営している『中華そば ふじい』の行列に並んでいる時でした。かしわそばを食べましたがめちゃくちゃ美味しかったです。それに優しくて誰でも食べやすい味だと思います。Sandのライブとは印象違いますね。まぁ人気店で結構並んだので、出来ればお昼時を外して行ったほうが良いと思います。
福岡のラーメン屋だと天神の『博多元長』、福重の『福重家』、西新、大橋の『海豚や』、が好きですね。前2店は長浜ラーメンで『海豚や』は甘い豚骨ラーメンです。あと家の近くにある店もかなり美味しいですが、近所すぎるので書きません。何でラーメンの話してるんだ…。
去年の記事でも書いたんですが、今年も大体の盤が「これ順位低すぎない!?」と思いながら書きました。そもそもこの記事自体レビューを書きたいものが入るように選んでるものなので、それが60選になってる時点でそうなるものなんですよね。しかし今と同じ基準でやってくと毎年このボリュームになりそうで本当どうしよう…。
あと去年及び16選の記事の時から変わったこととして、サブスクとかBandcampのリンクをまとめてくれる便利なサービスSongwhipが終了してしまったので、今回はBandcampがある盤はそのリンクを載せました。Bandcampのリンクは登録名が英語だとジャケットが大きく載せられるので、そういうものはもうリンクを画像の代わりに使ってます。Bandcampの登録名が英語以外だったりBandcampになかったりするものは去年と同じでレビュー文の下にリンクを貼ってます。
まぁ長めの記事ですが、目次に目安的なものとしてジャンルを載せてるので気になるところだけでも見てって下さい。
60. dancing in the dirty room/053 (Electronica, Noise, Ambient)
暗い部屋で静かに踊るノイズアンビエントが精神をじわじわと腐食する。その音の心地良さが鬱で出来た布団のように馴染んでいくのが美しく恐ろしい。
59. 虚構のサンクチュアリ/killmilky (Shoegaze, Noise Rock)
本作では彼らのライブで見られる混沌としたサウンドが驚くほどそのまま閉じ込められている。本作はシューゲイザーの中でも突出して蠢くその音の中に潜っていく体験である。やがて歌が福音のように或いは独り言のようにリフレインして頭に侵入し、実在と非実在の境界が曖昧になっていく。氾濫する自我の中を漂うインターネット時代のシューゲイザー。
58. やわらかな言葉/もっちりしたパン (ボカロ, Pop, IDM)
フュージョンやジャズのスリリングな構築性をもって作られたボカロIDM。目まぐるしく展開するサウンドデザインからは鋭さすら感じるが、可不をメインボーカルとしてかわいくポップにまとめ上げている。quoree, kairui以降IDMを取り入れて発展しているボカロポップの一つの到達点となる作品。
サブスクのみでのリリースだが、記事を書き上げた段階で配信が停止している。
57. New Order Against the Human/Temple (Hardcore, Doom Metal)
霧あるいは水、深淵ところから吐き出された叫びが凄絶な疾走、唸るビートダウンに乗り暴れ回る。ドゥームメタル、デスメタル、ハードコア、様々な要素を内包し唯一無二のバランス感覚で纏め上げる彼らの奥行きが短い時間の中に詰まった作品。
また意外な接続点から多くの音楽性を取り込んだ彼らに2月のライブで出会った時受けた衝撃は、筆者がメタリックなハードコアを本格的に掘り始めるきっかけにもなった。音楽嗜好において今年最も影響を受けたアーティスト。
56. Untopia/Kruelty (Beatdown Hardcore, Doom Death)
ドゥームデスとビートダウンHCの融合。生々しいギターのキザミとトレモロが視界を埋め尽くし、低く吐き出すようなボーカルが迫ってくる。日本語と英語を織り交ぜた歌詞から伝わってくる不屈の精神はハードコアそのもの。しかし地の底から吐き出すようなボーカルスタイルとの組み合わせでアジテーション的にはなり切らず重くシリアスな世界を作っている。
しかし本作のサウンドの面白いところは超ヘヴィでありながら同時に抜け感があってどこか軽やかでもあることだ。カンカンと急き立てるスネアは間違いなくこの感触に大きく寄与しているだろう。また棹隊のトーンも意外とカラッとしている。とにかくこのヘヴィネスと軽やかさの同居が作る独特のグルーヴがたまらない作品である。
55. 呪詛告白初恋そして世界/moreru
"日本のハードコア"を代表するバンドmoreru3枚目のフルアルバム。彼らの加速感は凄まじい。ノイズ、ハイパーポップ、グラインドコア、ブラックメタル、skramz、そして日本のサブカル地下水脈に脈々と流れる毒電波を呑み込んで疾走する混沌。そしてドロドロしてノイズまみれではあるが、『僕らは霊障系』と歌われているようにそのことをアイデンティティとして肯定しさらに加速しようとする意思。2022年のベスト記事でも2ndアルバムのことを『勝手に定義された新たな国の国歌』と形容したが、もともと1stでは路上でも地下室のように自閉したskramzを奏でていた彼らがZ世代のダークヒーローとなりつつある、そのことを確信させる一枚。
54. …So Unknown/Jesus Piece (Metalcore, Beatdown Hardcore)
ゴリゴリの肉体派メタリックHC。ビートダウンの低重心なサウンドと躍動するリズムの融合。折々で見せる間の使い方の上手さからは前作のポストメタル的側面からの流れも感じるが、これも本作では緊迫感と爆発力の増幅用として使われている。本記事中で恐らく最も筋肉質な盤。
53. Melancholic Sleep/Vailed Death (DSBM, Noise Rock)
『ポンコツDSBM』を標榜する実験的DSBM。ガビガビしたギターとSilenceに迫る狂気的絶叫。これらが時に吹きっ晒しで放置され、時に渾然一体のノイズとなる。打ちっぱなしのアプローチはNo Wave的でもあり、所謂アヴァン・ブラックメタルとは反対方向の実験性。ぞんざいさが見せる限界感と緊迫はしょぼSkramzのブラックメタル版とも言えるだろうか。Bandcampでリリースされたが、現在は公開停止されている。
52. She Said EP/Dera (Shoegaze, ボカロ)
ゼラチン質のように透明でありながらも濃度の高いリバーブが揺蕩う独特のシューゲイズサウンド。その中で歌う狐子の声質と所々諭すような歌詞は割とはっきりしていることで、力強くしかししっとりとぬるやかに包み込むような世界観になっている。
51. 発見/ユウレカ (Post Hardcore)
日本が誇る異形のポストハードコア、鋼鉄の構造体ユウレカのセルフタイトルとも言えるアルバム。前作では音塊を叩き込むインダストリアルなアプローチが強かったが、今作では音がより有機的に絡み合い肉食獣のようなしなやかさを獲得している。
50. Slug_Tape_2/Slug (Sludge Metal, Noise Rock, Power Violence, Beatdown Hardcore)
ノイズに塗れた飽和ディストーションがズルズルとしたビードダウンを引き摺り回す関西極悪スラッジコア。そしてその瘴気の中に時折立ち現れる陰鬱な美しさ。今日本で最も重い。
49. Less/Deathcrash (Slowcore, Emo)
現代のスロウコアを代表する若手バンドの2ndアルバム。今作ではエモ譲りの感傷性が強く発露され、触れれば指が切れそうな鋭く生々しい感触。聴き手を音の余韻の揺らぎと轟音に浸らせるようなダウナーさを持っていた前作と比べ、あまりに荒涼とした風景を描きだしている。そしてその荒涼さと常に拒絶の滲む空気感が諦観の向こう側ではなく溢れんばかりの瑞々しい感情から来ていることが分かる歌が切なさを爆発させる。
48. 夜に血/Aroh (Post Hardcore, ボカロ)
アルミネックギターとベースのゴリゴリしたサウンドが暗闇で蠢く。Touch & Go周辺を中心とした80年代後半〜90年代の金属的で神経質なポストハードコア、プレポストロックを引き継ぎつつそのボーカルとしてボカロを据えるいうかなり異質な組み合わせ。しかし獲物を追い詰めるように的確に蠢動するアンサンブルの中、伸びやかに歌う声というこの組み合わせがただ緊迫するだけではない不穏な含みを作っている。この無愛想な音楽性で可不や星界といった人間らしく可憐な歌い方を得意とするキャラクターを起用しているのも面白い。
47. Break On Through/Purge (Beatdown Hardcore)
名古屋から登場した新バンドによるEP。振り下ろされる比較的遅めのビートダウンは無骨でありながらも、少しの光とそれが浮き立たせる翳りがその無慈悲さに奥行きを与える。またプロダクションの面ではカラッとしているが絶妙に厚みを感じるサウンドが非常に気持ち良い。
46. A New Tomorrow/Zulu (Power Violence, Hardcore)
ブラックコミュニティに根差したハードコアバンド。音楽性はビートダウン要素の強いパワーバイオレンスであるが、彼らのサウンドに似たようなジャンルのバンドによく見られる陰惨さはない。苦難の歴史を持ちながらもそこからあくまで前に進もうとする意思を奏でる彼らの姿は晴々としていてスタイリッシュだ。
45. 人を謳う人/螟上?邨ゅo繧 (ボカロ, Alternative Rock)
全てが異常な圧と勢いで鳴らされていく。金属ギターのキンキンした残響は前面に貼り付けられて充満し、キックは爆音のよう。そしてそこで描かれる"日本の季節"や"青春"といった光景は過剰化され歪みまくった明らかに異常な世界でありながらも、国民的マンガ、アニメ=神話として共有されたそれらのイメージを起点に聴き手の郷愁へと侵入してくる。オルタナとボカロックそれぞれの異常性の合流地点に生まれたインターネットクランチの怪物螟上?邨ゅo繧(夏の終わり)が2023年の冬にリリースしたアルバム。彼は非常に多作で2023年は夏にもう3枚のアルバムをリリースしているが、異常な熱気の裏にある冷たさや諧謔性を最も強く感じるのが今作である。
44. Ruler of Retribution/Dooms of Ghetto (Beatdown Hardcore, Slamming Death Metal)
新潟のビートダウンHCバンドのEP。スラミングデスメタルとの混合の結果生まれたノソノソした鈍重なノリがとにかくサグい。
43. Flitter/Namitape (ボカロ, Electro Pop)
テープの揺らぎが浮遊感と懐かしさを揺蕩わせるボカロシンセポップ。どこか不安を孕んだ世界観をあくまでキャッチーに可愛くまとめ上げる。それでいてキャラクター性に寄ったKawaiiポップスという訳でもない。テープが作る感傷との絶妙な距離感が心地良い。
42. Engenderine/Aidan Baker (Experimental, Drone)
ヘヴィドローンユニットNadjaの片割れによるソロワーク。こちらでは空間を覆い尽くすのではなく、隙間の多めの不定形感が強いパーカッションの中割とクリーンな音色のベースが蠢き続けるというもの。蠕動のような感触。蠢くことのヘヴィネスの純粋抽出。
41. 初期衝動に勝るものなし/Burning Sign (Hardcore)
複雑な陰影を絡ませる激情系のコードワーク、ニュースクールのモッシーさ、クラストの野太い疾走が渾然一体となる京都トータル・ハードコア。中音域のディストーションがドロドロと渦巻き、全てを薙ぎ倒す。
40. Reality Rotten to the Core/Festerdecay (Goregrind)
福岡が誇るゴアグラインドバンドの1stアルバム。全体的には腐敗感とささくれ感を前面に出しておりながらも各楽器ははっきり聴こえるという奇跡的なバランスのプロダクション。そしてノりやすいグルーヴと確かなポップセンスを感じるリフ、どことなくユーモラスな雰囲気によって意外と聴きやすいアルバムでもある。ゴアグラインド/グラインドコアに馴染みのない方も入門盤として是非聴いてみて欲しい。
39. Animacy/衿(elli mia) (ボカロ, Drum & Bass)
現在進行形の歴史である電子の歌姫を歌った作品。複雑なテクスチャと自由に変化する初音ミクの歌声が作る、ふっと消えてしまいそうな儚さと人智を超えた力強さを持って疾走する音像。
38. Common Suffering/Harm's Way (Metalcore)
インダストリアル的な制圧感もありつつ肉体で押すメタリックハードコア。ヘヴィサウンドでありながらもかなりの機敏さを見せ、変則的なリズムや複雑なコード感からはカオティックHCや激情系の流れも感じられる。
37. 5Songs/吶喊 (Skramz, Slowcore)
本作を構成する絶叫やクリーンなギターといった音像はハードコアと言うにはあまりにも頼りなく貧相に聴こえるかもしれない。しかしそれでしか表現し得ない哀愁と激情がここには詰まっている。スロウコアの発展系としてのハードコア。しょぼSkramzの名盤。
36. 残響/路傍の石 (Shoegaze, ボカロ, Alternative Rock, Post Hardcore, Post Black)
現行ミクゲイザーを代表する作家の一人路傍の石がポストハードコアやブラックゲイズも取り込んで大きく作風を広げたアルバム。初音ミクによる絶叫もその変化の一つだが、それ以外でも初音ミクとv_flowerの歌声、疾走するギター全ての上物が細く叫び、同時に祈るように聴こえてくる。特に『蚯蚓』の引き摺るようなビートに乗せられる無慈悲で無常な世界観と、『DMX (私が見た天使の夢)』のキリキリと締め付ける静寂の痛さは圧巻。ただこのアルバムはずっと絶望を歌っているのではなく、最初と最後は閉塞の中で見出した希望について歌っている。それはずっと晴れないままで時に暗闇の底に沈んでも振り切れない祈りの表出であり、その祈りがこのアルバムに奇妙な爽快感をもたらしているのだろう。
35. Pure Hate Only/Downed (Blackened Hardcore, Metalcore)
ささくれだったギター。ヘヴィに疾走する2ビートと折々で刻み込まれるモッシーなミドルテンポ。吐き出し、時に嗚咽するようでもある完全にあちら側に行ってしまった絶叫。視界を塗り潰すメタリックな音像は機械のような冷徹さも感じさせ、凄まじい憎悪の疾走が聴き手を巻き込み喰い込んでくる。
34. Ἀ ν τ ι τ ι μ ω ρ ο υ μ έ ν η/Ὁπλίτης (Avant-garde Black Metal)
アーティスト名、アルバム名、曲名はギリシャ語だが中国のアバンギャルドブラックメタルプロジェクトの4thアルバム。ブラックメタルとしては太めのディスコーダントなサウンドが凄まじい勢いで変拍子を唸らせ、疾走する様子は最早そこらのカオティックHCバンドよりも余程カオティックHCしている。最近はかなりの多作で2023年に3枚のアルバムを出しているが、この作品は特に野太い疾走感がある点が筆者好みである。
33. 御池塘自治/帯化 (Alternative Rock)
時に涼やかに揺蕩い、時に力強く打ち鳴らされる唄とギター。決して主張し過ぎず、しかしその場その場に合わせて空間を異化するテクスチャを配置するパーカッション。この格調高いアンサンブルが鳴らすものは日本の風物詩。それは紫陽花であり、木枯らしであり、春闘であり、高齢出産であり、過労死であり…。その病理を含めてどこまでも日本の土着性を追求することで、その土着性に対するゾッとするほど冷徹でシニカルな視線を向ける。しかし何らかのオルタナティブを提案するのではなく、我々はこの風流の中を生きるのだと突きつけるある種の国粋主義の凄味。
32. 死んだ雪白中毒者にキスを/ikd-sj (Nu Metal, Post Rock)
ポストロック、ヒップホップを取り込みより鋭くサグく深化したニューメタル。
細かく構築されるクリーンは獲物を追い詰める狡猾な狩人の足取りでもあり、苦しみから逃れようとするよたよたした徘徊でもある。変拍子のキザミはクリーンパートとシームレスな緻密さをもってしかし力任せに肌を切り付け、時折襲いかかる轟音が陰惨な美をもって逃げ道を塞ぐ。そして繊細さ故に動きの読めないピーキーな攻撃性を持つボーカルがこの狂気を完成させる。ふらつく歌の繊細な美しさとそこからいつ反転するか分からない残虐な攻撃性。祈りと諦観と憎悪の混沌である。
31. 冷刻/kokeshi (Post Black, Metalcore, Blackened Hardcore, Nu Metal)
前作も素晴らしかったが、この作品をもって彼らは日本においてブラックゲイズを代表するバンドの一角となったと思う。元々持っていたニュースクールHCのモッシーな要素と和物ホラーのドロドロした世界観を同時に深化したことで、突発性と構築性が高度に融合した独自のサウンドを創り上げた。世界観への拘りはステージ衣装、線香やダンサーを導入したパフォーマンスの工夫にも表れている。またボーカルの表現力が進化したことによりグッと前に出ているのも、物語性に大きく寄与しているだろう。
30. Bathed in Light/Usnea (Sludge Metal, Post Metal)
スラッジメタルにアルバムタイトルにもあるような水の揺らぎの浮遊感、光の差す神聖さが加わった作品。クリーンパートもあるが基本はヘヴィな歪みサウンドの巧みなコードワークで魅せていくスタイル。それ故にポストロック要素がヘヴィネスを打ち消しておらずスラッジの圧殺感を存分に味わうことができる。
29. 水をあげる/uami (Electronica)
人は、水を飲む瞬間がいちばん美しい。
透明な柔らかなテクスチャがしっとりと踊るように動く。その中にある歌ポップネスの奥に潜む静謐な冷酷さにハッとする。有機的な美しさを湛えたエレクトロニカ作品。
28. Misery Songs/憂い (DSBM, Post Black)
新たに結成された2人組DSBMプロジェクトの1st EP。
本作はメランコリックなコードと悲鳴のようなボーカルを持った所謂ポストDSBMに分類できるであろう音楽性を持っている。しかしSadnessやabrictionといった面々と違うのはポストではないブラックメタルのドライな質感を非常に効果的に使っていることだ。荒れたピーキーなギターサウンドの打ちっ放し感と完全に向こう側に行っちゃった系の絶叫が悲劇の呆気なさと冷徹さを刻みつける。
27. Post-alternative extended progressive technojazz, Part Ⅰ: refections/Northwich committee of magic researches (ボカロ, Alternative Rock, Progressive Rock, Post Rock)
温もりと哀愁を紡ぐギター、マーチングのフレーズを打ち鳴らす硬質なギター、合成音声の響きが持つ淡々とした無常さ。川のように鉄路のように時間のように流れ続ける。アンサンブルの持つ生々しさの成分と冷たく抑制された成分とが互いを強調し、機械としての血と郷愁が通っていく。
26. 捨てる/群鶏中島 (Alternative Rock, ボカロ, Post Hardcore)
小気味良いクリーンと芳醇な響きを持つファズでダウナーでありながらも確かな熱量を持つオルタナ、ポストハードコアを作ってきた群鶏中島によるEP。ボーカルとしてUTAUの雪歌ユフをフィーチャーしている。今作では変拍子的な緊迫感を保つリズムアプローチが前面に出ており、その中で歌うユフの声も囁き声に近い発声ながらもシリアスで確かな芯を感じさせる。温もりと断絶、爽快感と煮え切らなさが入り混じったボカロオルタナの傑作。
25. Hope/Raika (Skramz)
全体的にコンパクトで隙間の多いアンサンブルながらずっしりとしたヘヴィネスを感じるSkramz。特にクリーンに近いクランチ推進力に驚かされる。
24. 世界/Cryamy (Alternative Rock)
高校時代の私のヒーローでもあったCryamyが辿り着いた激情の果て。元々彼らが持っていたギリギリのエモーションは本作で完全に振り切れ、邦ロックの枠には完全に収まりきらなくなっている。オルタナからハードコアへの収斂進化。そしてそれを封じ込めたアルビニ録音。まごう事なき彼らの最高傑作である。そして最終作になったことも納得できるほどに切迫したロックンロール。
23. NUM/Fixed (Hardcore, Alternative Rock)
明らかにオルタナ通過後のサウンドながらもこれが現代のハードコアの王道だと確信させるサウンド。緊迫したアンサンブルと自らに言い含めるように叫ぶボーカルがゴリゴリギリギリと鎬を削り合う。
22. Devil Music/Portrayal of Guilt (Post Hardcore, Black Metal, Skramz)
独自のアプローチでブラックメタルの世界観を取り入れ続け、出発点だった激情系ではとても括れないようなしかし何と形容したら良いか分からない、ただ邪悪であることは確かな彼らの到達点を端的に表したタイトル。
前半ではこれまでバンドが追求してきたサウンドが順当に進化していることが感じられる。サウンドプロダクションの良さも相まって、この手の世界観にしては隙間の多いアンサンブルから繰り出される音の強度に驚かされる。操り人形のようなカクカクしたノリでありながらも、要所要所で隙間がある故の筋肉質なしなやかさを見せる。そして硬質なサウンドは常に危うい切れ味を放ち続ける。
そしてこのEPに彼らがここまで端的なタイトルを付けた理由が感じられるのが後半だ。違うアプローチで同じ世界観を表現することで理解を深化させている。どのようなサウンドが展開されるかは聴いた時のお楽しみとしてここでは敢えて触れずにおこう。
21. to breath/butohes (Post Rock, Math Rock)
クリーンサウンドのポストロック〜マスロック。テクニカルな演奏が絡み合い、心地良くもスリリングなテクスチャを織り成していく。
20. 行/5kai (Post Hardcore, Post Rock, Slowcore)
音の隙間に宿る枯れた情感が美しい作品。と言うとスロウコアのようなものを想像しそうだし実際かなり共通する部分も多いが、ビートアプローチはかなり違っている。ツインドラムから放たれるリズムのフレーズはミニマルではあるがしっかりと打ち鳴らされ、生のダイナミクスに満ちている。ギターのアルペジオだけになる所までもがビートミュージックだ。実際ライブではバンドとしての音の強度に驚いた。
19. 合成音声のゆくえAlter/Compiration (ボカロ)
ボカロシーンの最先端を感じられるコンピレーションアルバム。全体的にボカイノセンス寄りで、バンドサウンドのものもあるがエレクトロニカ的な可愛いらしさと浮遊感を感じるサウンド。夏のボカコレで先行公開され大きな話題となったはこ氏の『百葉箱』はボカロIDM、Vocaloidよれよれ曲の一つの到達点だし、他にもボカロオルタナの光サイドを代表する作家inuha氏の『ひだまりチャット』など数々の名曲が収録されている。
18. Nobenikaeru/daikiraidattanatsu (Slowcore, Shoegaze)
北海道から出現したスロウコア、シューゲイザー新バンドのEP。SlintやGoodnight & Goodmorningといったバンドに通じる不穏な緊迫感と懐かしさを感じるメロディが雨と晴れの狭間のような独特の空気を漂わせる。
17. Nightmare Visions/Theophonos (Avant-garde Black Metal, Skramz)
Deathspell Omegaの流れを汲むであろうSkramz、カオティックHC化したブラックメタル。ザクザクと斬り込むカッティングや渦巻くトレモロ、不気味に対空するアルペジオが目まぐるしく展開していく。
16. Euphorbia/Oculi Melancholiarum (Post Black, Shoegaze)
メキシコのポストブラックソロプロジェクトによる本記事で最も優美な作品。ウワモノはほぼ完全にシューゲイザー化しているが、節々に挟まれる絶叫やブラストビート、そして何より心地良さの下地にも常に陰鬱さがある空気から、確かにAlcestやAmesoeurs、Sadnessといった系譜にある音楽であることが分かる。
15. Seabed/蒼い空/くゆる (Heavy Shoegaze, Post Rock, Post Black)
新進気鋭のシューゲイザーバンドくゆるの最初の音源。きのこ帝国から続く国内シューゲイザーの流れとブラックゲイズ両方を感じる神聖さが豪快に鳴るリズムの上で日常性と混ざり合っていく。特に2曲目の蒼い空はブラックゲイズのシューゲイザーへの逆輸入として激情系でもゴスでもドゥームゲイズでもない第四の道を切り開いた名曲。
14. 一種の過音/nhomme (Skramz, Math Rock)
大胆な展開を見せながらもどこまでもミニマルさを保ち続ける変拍子。それでいてパズルの快感に酔ってはいない。露わになった時でも常に一定値抑制され続けているからこその激情がそこにはある。マスロック×Skramzは禅によって究極に達した。
13. Happyender girl/ex. happyender girl (ボカロ, Alternative Rock, Pop Rock)
丸っこく可愛らしい調声をされた初音ミクが歌うこのアルバムは、本記事において最もポップでキャッチーなオルタナティブロックでありながらも常にどんよりと重たい空気が纏わりついている。ある意味私はこの音楽をスロウコアとして聴いている。
この音楽性はまず第一にはボカロという真意の読めない歌声だからこそよって成されたものだろう。しかしそれは歌声だけの話ではない。私はex. happyendergirlの作曲者蝉暮せせせ氏ほど打ち込みのギターをうまく世界観に取り入れた作家を知らない。無機質の裏に歌われた巨大な感情があなたをあの教室や廊下の暖かく淀んだ空気へと引きずりこむ。
12. Death Ataraxia/Non Serviam (Noise, Sludge Metal, Power Electronics, Crustcore, Black Metal)
ノイズ、スラッジ、ブラックメタル、エレクトロニカ、ヒップホップなどを取り入れた混沌とした音像。ハイパーポップ以降のブラッケンドハードコアである。ヘヴィネスと浮遊感がぐにゃぐにゃと捻じ曲げられ入り混じっていく中吐き出された叫びが画面に張り付くように迫ってくる。
11. Desolation's Flower/Ragana (Doom Metal, DSBM, Skramz, Emo, Slowcore)
Bell WitchやYobなどのスピリチュアルなドゥームメタルやブラックメタルにエモ〜スロウコアも取り込んだ陰鬱なサウンド。そこから立ち上がってくる血を吐くような叫びはどこまでも人間的で、飾らないが故の荘厳さをたたえる。このバンドはギターボーカルとドラムの二人編成ゆえドゥームメタルとしてはかなり音が軽いのだが、それさえも世界観の重さに一役かっている。King Womanや後述のArgwaan、内省的なハードコアが好きな人には是非聴いて貰いたい名盤。
10. Empty Homes/Loud As Giants (Drone, Electronica, Post Metal)
JesuやGodfleshといったインダストリアル、ヘヴィミュージックで筆者には馴染みの深いJustin K. Broadrickとアンビエント、ドローン作家Dirk Serriesによるユニットの1作目。シンセなのか加工されたギターなのか、ミニマルなビートの上で展開されるアブストラクトなテクスチャは光と陰を入り混じらせる。Jesuに通じるところもあるが、こちらの方がより現象的であり、さらにテクスチャの複雑さも増しているように感じられる。派手なところはないがとにかく音に引き込まれる作品。
09. Nature morte/Big Brave (Drone Metal, Post Hardcore, Post Metal)
原初的なヘヴィネスを追求し続けるBig Braveの単独作としては5枚目のアルバム。3rd、4thでは空間を占拠する太いサウンドをうねらせていたが、今作は1st、2ndでの隙間を重視したアプローチが戻ってきたようだ。それでいて前の2作で培った多彩なアプローチと進化したプロダクションによって、今までで最も立体的な音像を創り出している。
08. Lief kind wrede wereld/Argwaan (DSBM, Post Black)
明らかにDSBM由来のサウンドだが、その力強さは明らかにDSBMの枠を超えている。King WomanやOathbreakerにも通じるドラマ性。しかしその精神は一方でDSBMを捨てていない。決して癒えることのない痛みや嘆きと前を向こうとする意思、葛藤の苦しみも全てそのまま曝け出すような印象のアルバム。
07. 宇宙から来た人/PSP Social (Slowcore, Post Hardcore)
ゆっくりと流れる音が日常や懐かしさの中に潜む異界を前景化する。これは現代日本の原風景である。このPSP Socialというバンド、前作までジャンク×エモのような電波上で育った感の強い作風だったのが今作で突然このような音楽性に変化したのだが、この流れまで踏まえるとより一層そのことが際立ってくる。
帯化やbetcover!!の『時間』が好きな人には是非聴いて貰いたい。
06. Absurd Matter/Shapednoise (Hip-Hop, Noise, IDM, Power Electronics)
一定の周期を持って集合と離散を繰り返しているように見えるノイズの集まりは有機的とも無機的ともつかないが、それを乗りこなすラップによってビートとしての輪郭を確定され、やがて殺伐とした風景を形成していく。
05. 幽玄幽霊夏祭/死んだ眼球 (ボカロ, Experimental, Shoegazer, IDM, Power Electronics)
ハイパーポップやシューゲイズ、IDMなど、インターネット音楽の様々な流れが一堂に会し、豊かな伏流水を作る場所の一つにアンダーグラウンドなボカロの界隈が挙げられる。死んだ眼球はボカイノセンスや感性の反乱βなどといった名で呼ばれるそこから新たに現れた最大の才能の一人に数えられるであろう存在だ。
飽和しノイズと溶け合ったリズムトラックの後ろから歌が広がり天使の羽のように甘美な血の匂いを漂わせる。それはインターネット音楽であるが故にどこまでも生々しく我々の心に侵襲してくる先鋭的なイノセンス。2023年の讃美歌はぐちゃぐちゃになった日常の底で歪み蠢き続けるラブソングだった。
04. Four Notes/Cremation Lily (Experinental, Drone, Electronica, IDM, Noise, Shoegaze)
意志を持った流体の音。どこまでも広がる密室のような不思議な空間で揺蕩い、時に形を取っては歌を歌い暴力的なノイズと化す。そして空間と一体化し世界の組成そのものを変えてしまう。それも流転する前提の一時的なものでしかなく、全ては不定形なのだ。
この超越的な音楽はしかしそれでいて人に内在する歌そのものであり、どこまでも個人に閉じているが故に世界と接続する。
03. Split Tape/Black Yen, Saturnists (Post Black, Black Metal, Post Hardcore, Post Metal)
ポストブラックの新たなる希望とも言えるスプリット盤。先攻Black Yenは隙間を見せるポストロック、ポストハードコアのアプローチを取り入れながらも、それ故に獲得したダイナミクスとゴリゴリした質感を活かしてあくまでもブラックメタル然とした粗野さと荘厳さを構築していく。後攻Saturnistsはクラストコアにも通じるヘヴィな疾走感に乗るアトモスフィアの塊が美しい。ポストブラックは最早精神的にシューゲイズと離れたところでも語り得る、ブラックメタルやハードコアの中に根を張った存在になったのだろう。両者共にポストロックを取り入れた美しいサウンドながらも地に足を付けた強力な推進力を持つこの音源はポストブラックのこのフェーズにおける現時点の最高傑作であると私は感じている。
02. 故郷で死ぬ男/SeeK (Blackened Hardcore, Post Metal)
渦巻く音と情念の塊が聴き手を凄まじい圧で巻き込み、押し潰す。そしてその中に荒涼とした心象風景が歌のように浮かび上がってくる。それ故の重さ。
01. When No Birds Sang/Full of Hell, Nothing (Doomgaze, Heavy Shoegaze, Post Black, Grindcore)
越境的なグラインドコアFull Of Hellとハードコアゲイズを代表するNothingによるスプリット。全体的に茫漠とした不安と爽快感が同居するサウンド。これらの要素が特に分かりやすく表れているのが3曲目のForever Wellで、前半のシューゲイザーにしてはあまりにもどんよりしたアトモスフィアから立ち現れる後半の突き抜け感は天国の晴れやかさと地獄の苛烈さ両方を持っている。
意外なようでいてどこか納得感もある2組によるコラボレーションは、未分化の光と闇を叩きつける最も混沌とした神聖さを顕現させた。
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