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【ライブレポート】10/22(土)THE ORAL CIGARETTES「PARASITE DEJAVU 2022 ~2DAYS ARENA SHOW in SAITAMA~」DAY1(Text by蜂須賀ちなみ)

THE ORAL CIGARETTES主催のイベント『PARASITE DEJAVU 2022 ~2DAYS ARENA SHOW in SAITAMA~』が10月22・23日、さいたまスーパーアリーナで開催された。THE ORAL CIGARETTESが『PARASITE DEJAVU』を開催するのは、2019年9月の大阪・泉大津公演以来3年ぶり2度目。1日目はTHE ORAL CIGARETTESのワンマンショウ、2日目はオーラル含む8組のアーティストが集結するオムニバスショウで、各日約1万5千人が来場、大盛況のうちに幕を閉じた。

ライブが行われたメインアリーナに対し、誰でも入場可能のコミュニティアリーナにはオーラルメンバーの仲間のアーティストが駆けつけた。ディレクター/デザイナーのSIVAによるアパレルブランド・MUSEのブースでは、オーラルメンバーがMVやアーティスト写真、過去のライブで着用していた衣装を中心に展示。靴下ブランド・SUX SOXのブースでも最新のルックが展示されていた。『PARASITE DEJAVU 2022』メインビジュアルのメデューサをモチーフとしたペイントは、ライブペインターのOLIによるもの。グラフィックアーティストのCOIN PARKING DELIVERYは、オーラルのバンドロゴをあしらったキャラクターと自身のキャラクター・白井さんを描いたポップな壁画を展示した。
 
来場者が持参したTシャツにその場でシルクプリントを施すサービスも人気で、『Hall Tour 2022「SUCK MY WORLD」』のステージセットとして実際に使われたスピーカー型オブジェや、山中拓也(Vo/Gt)主宰のクリエイティブレーベル「DREAMLAND」のロゴが刻まれた巨大看板を配置した場所はフォトスポットになっていた。さらに会場では、SIVA(MUZE)、SUX SOX、COIN PERKING DELIVERY、OLIとのコラボアイテムをはじめとしたグッズが販売されたほか、オーラルの楽曲に因んだオリジナルのフードメニューも展開。まるでフェスのような雰囲気だが、『PARASITE DEJAVU』の場合、フェスというよりクリエイティブの場と呼んだ方が適切だろう。ライブはもちろん、『PARASITE DEJAVU』の空間で行われること全てが、彼らの思考が形を得た結果としてのアウトプットなのだ。 

Photo by Ryotaro Kawashima

この記事では1日目のワンマンライブをレポート。「ただいまより!THE ORAL CIGARETTESの!『PARASITE DEJAVU 2022 ~2DAYS ARENA SHOW in SAITAMA~』を!始めたいと思います」と開演を告げた“4本打ち”のあと、スクリーンにオープニングムービーが映された。目を光らせるメデューサ。石になった人々。人々が手を伸ばした先にある剥き出しの眼球は希望の象徴か、失望の象徴か――。映像が終わる頃にはメンバーが揃っていて、広い空間に叩きつけるように重々しいサウンドが鳴らされた。1曲目は「Red Criminal」。炎が上がる中、情熱的にギターを掻き鳴らすのは鈴木重伸(Gt)。太い低音を轟かせつつ、コーラスでは山中のボーカルにぴったりと寄り添うのは、あきらかにあきら(Ba/Cho)。腰の入った中西雅哉(Dr)のプレイが、バンドサウンドをさらにアグレッシブにさせている。それにしてもステージセットが大掛かりだ。上空には「PARASITE DEJAVU」のロゴネオンと、脳みそのような禍々しい赤い塊が5つ。ステージに張り巡らされた管はメデューサの髪の毛の蛇にも見えるし、血管や植物の根、データや信号が行き来する回路にも見える。

Photo by Ryotaro Kawashima

2曲目は「MACHINEGUN」と攻めのアプローチが続く中、メンバーの表情は明るい。それもそのはず。彼らは『VIVA LA ROCK 2018』の2日目でトリを務めた時から「次はワンマンでたまアリを埋めたい」と意欲に燃えていた。本来は2020年のアリーナツアーでこのステージに立つ予定だったが、新型コロナウイルスによる感染症拡大の影響で、残念ながらツアーは中止に。このライブは2年越しのリベンジであり、かねてからの夢が叶った瞬間だったのだ。アリーナから5階席までを埋め尽くす人、人、人。大勢の人から発せられる熱気。「やっば! マジ、パンパンじゃない?」と笑う山中からも、同調の意味を込めて楽器を鳴らすあきら、鈴木、中西からも喜びが漏れ出ているし、何より、超満員の観客を前に自らの音楽を堂々と響かせる姿が頼もしい。

Photo by Ryotaro Kawashima

「Naked」までを終えて幕間映像。神にも愛されるほどの美貌を持った女性が、海の神ポセイドンと関係を持ったことで、女神アテネの怒りを買い、化け物に変えられてしまう――。ギリシャ神話にあるメデューサ誕生のストーリーがここで語られた。その後「嫌い」を演奏したシーンは観客にとって忘れられない場面になったであろう。“演出のため次の曲は動かないでください”という文字が表示されたあと、バンドは、メデューサの怒りや悲しみを体現するように壮絶な演奏を披露。スクリーンにはメデューサの目が、そして瞳の中には微動だにしない観客の姿が映っている。観客も演出の一部となり、「嫌い」の世界観が形作られたのだ。感染症対策ガイドライン下のライブ特有の静けさを逆手にとった演出であり、もちろん、バンドの提案に快く乗っかる観客の姿勢があってこそ成立する演出だ。メンバーも「みんな、めっちゃ固まるやん。俺、あんな景色初めて見た」と感動。

Photo by Ryotaro Kawashima

2ndシングル『エイミー』収録の「GET BACK」、「踊り狂う人形」はメデューサの心情を表現するための選曲だろうか。さらに「人って誰かにしがみついて生きていたいし、信用して生きていたいし、苦しい時に救ってくれるものがあってほしい生き物やと思います。俺は音楽がそういう存在やった。何を信じたら分からへん時は、これからも俺らについてきてください。ただ、最終的には自分自身を信じてほしい。今回のライブを通してそういうことを伝えられたらと思います」というMCのあとには、「どんな人になりたいか、俺も迷ったことがあります。その真っ最中に書いた、昔の曲を聴いてください」とインディーズ時代からの曲「キエタミタイ」を披露。季節的にもぴったりな「ハロウィンの余韻(Redone)」では一旦立ち位置から離れ、ステージ後方の高台へ移動。さらに、あきらがシンセベース、中西がサンプリングパッドを演奏する編成で新鮮な印象をもたらす。

Photo by Ryotaro Kawashima

ハイライトはまだまだ続く。再び神話の内容を伝える映像を届けたあとは、Kamuiがサプライズ登場。しかも披露するのは「Ladies and Gentlemen feat.Kamui」という二重のサプライズだ。ライブコンセプトになぞらえたラップをKamuiが繰り出すとオーラル4人のボルテージも上がり、そのテンションのまま「ENEMY feat.Kamui」に突入。そして疾風のようにKamuiが去っていったかと思えば、「まだまだ仲間呼んでます!」という山中の呼びかけをきっかけにSKY-HIが登場。「カンタンナコト feat.SKY-HI」でコラボだ。観客のでっかい愛やバックヤードの気合いを肌身に感じながら登場したSKY-HI、出てきた瞬間から気合い入りまくりで、噛みつき合うような山中との掛け合いがたまらない。そういった仲間との饗宴を経て、間髪入れずに突入する「BUG」なんて楽しいに決まっている。腕を上下に振りながらノリノリの観客ももちろんぶち上がっているが、ステージ上のメンバーは誰よりも楽しそうだ。

Photo by ハタサトシ
Photo by ハタサトシ
Photo by Ryotaro Kawashima

 初期のキラーチューン「Mr.ファントム」、「大魔王参上」を連投したあとのMCでは、山中が観客に「みんな、そんなに何かを愛することができて、行動に移せるの、すごいと思う」と伝えた。同じロックシーンを愛する音楽ファンとして、彼らは現場に足を運ぶファンのことを心からリスペクトしている。そして、リスペクトしているからこそ、自身の経験に基づいた実感を共有することも厭わない。大切な仲間には笑っていてほしいから。
 
「俺は理想の山中拓也、理想のオーラルになるのはやめます。自分のやりたい音楽をずっと発信し続けます。それが誰かの幸せに繋がればいいなと思います。ただ一つだけ、絶対にブレへんのは……俺らがステージに立てるのは、紛れもなくあなたの愛のおかげ。それだけは心に刻んでます。せやから、みんなも自分自身を貫いて。理想の自分、偽りの自分を作ると、生きづらくなるから。みんなが生きやすくなるように、俺自身が突っ切ってやっていきます」
 
そう語ったあと、山中がエレキギターを鳴らしながら歌い始めたのは「5150」。4人で鳴らすバンドサウンドは絶対的な光源として輝きを放ち、かつての山中が絶望から希望を目掛けて綴った言葉が、新たな意味を伴ってアリーナに響いた。ここに来て初めてスクリーンに表示されるTHE ORAL CIGARETTESのロゴ。印象的な目玉マークを目掛けて腕を伸ばす観客たちは、高揚しながら心の中でシンガロングする。本編ラストは「BLACK MEMORY」。スクリーン上の映像も見逃せない。熱量の高いバンドサウンドに重なるのは、DNAを彷彿とさせる二重螺旋や血管を通る赤血球に見えるモチーフ、つまり新しい生命のイメージだ。4人にとってはもう何度も演奏してきた曲だが、鈴木のギターソロを筆頭に、バンドの音はかつてなくみずみずしい。初期衝動とともに何度でも生まれ変われるのがロックバンドの素敵なところだ。

Photo by Ryotaro Kawashima

曲の終わりに近づき、スクリーンに映るものが『PARASITE DEJAVU 2022』のメインビジュアルに変わる。「これまでのオーラルに、これまでの山中拓也にさようなら」。そう告げた山中が両手を広げ、後ろに倒れ、炎の海に身を投げる衝撃的なシーンで本編は幕を閉じた。これは自死なのか? いや、〈いつから僕はこんな世界に嫌気がさした〉、〈もう傷つけないようにずっと自分を/犠牲にしてた〉(「Red Criminal」)と自分を殺して生きていた過去との決別だろう。

Photo by Ryotaro Kawashima

メデューサはペルセウスに首を切られて最期を迎えたが、海に落ちたメデューサの血からはサンゴが生まれ、砂漠に落ちた血からはサソリが生まれた。まるでその連鎖は、作り手が死んでも後世に遺る音楽みたいだ。では、死と再生のシンボル・メデューサを掲げ、血痕を思わせる赤のワンポイントを身に着けてオーラル4人がステージに臨んだ意味とは? メデューサの血はこのあとどこに新しい生命をもたらす? この壮大なコンセプトライブは彼らの表明であると同時に、かけがえのない“あなた”に手渡ししたい、切実なメッセージが込められたものだったのではないだろうか。

Photo by Ryotaro Kawashima
Photo by Ryotaro Kawashima

止まない拍手に呼ばれた4人は、アンコールで「みんなが好きであってほしい曲」と紹介して「ONE'S AGAIN」を披露。〈生まれ変わったあなたを僕に見せてよ/ここにいるからずっと〉というメッセージを過去の自分たちに、そして目の前の観客に投げかけ、『PARASITE DEJAVU 2022』1日目を締め括ったのだった。

Photo by Ryotaro Kawashima
Photo by Ryotaro Kawashima

■セットリスト 
1.Red Criminal
2.MACHINEGUN
3.DIP-BAP
4.Shine Holder
5.Naked
6.嫌い
7.GET BACK
8.踊り狂う人形
9.キエタミタイ
10.ハロウィンの余韻(Redone)
11.Ladies and Gentlemen feat.Kamui
12.ENEMY feat.Kamui
13.カンタンナコト feat.SKY-HI
14.BUG
15.Mr.ファントム
16.大魔王参上
17.5150
18.BLACK MEMORY
EN.ONE'S AGAIN


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