コロナにつける薬 Vol.15 歌舞伎もの
歌舞伎という芸能
芸大時代、本当に多くの芝居を見に行った。ブログも黎明期だったので、感想を次から次に書きまくっていたら、すごいPV(そのころはこんな言い方はしなかったが)になっていた。私の悪い癖で、そうやって人より早く始めたものを、他の人もやるようになってくると、急に興味を失ってしまうというのがあり、ブログは更新しなくなった。だからといって芝居を観るのをやめたわけではない。(大学を出て劇団に入ってからは自分が作る方に回った、というだけのことなのだが、それでもやっぱり自分の休みには人の芝居を観るのだった)。
その頃、時間と学割があることをいいことに一日二~三本は芝居を観ていた。演出家を目指していたのだから当然かもしれないが、とにかく面白そうなものは手当たり次第に観たが、私は日本語の音楽劇というものを研究していたので、結局は歌舞伎が一番面白かった。
その頃観た歌舞伎の舞台のメモやパンフレットが出てきたので、そろそろ処分するかと考えている。少しもったいないので、虫干ししてみようと思う。しばらくの間、ノートが歌舞伎の話で埋まるかもしれない。個人の備忘録にすぎないが、好きな人は是非読んでいってね。
↑自分のブログの引用で恐縮だけど。この授業をきっかけにたぶん、国立劇場に通い始めたんだと思う。歌舞伎座より先に国立にいったんね。
初めて観た演目
忘れもしない『本朝廿四孝』だった。2005年の春、三月。今は半沢直樹に出てくる黒崎の「つぶすわよ!」ですっかり国民的な人気も獲得した愛之助さんが、まだ初々しく勝頼の初役だった。
(こんなお宝動画を見つけたので貼ってみる♪)
本朝廿四孝
この本朝廿四孝の「本朝」は我が国の、という意味なのはわかるけど、「廿四孝」ってなんよ?と思いませんか?学生時代の私も思ったらしく、一生懸命メモに書きつけてある。曰く。
「元の時代(1271年~1366年)に中国で記された『全想二十四孝詩選』という書物のこと。二十四の孝行譚が描かれている。南北朝期に日本に伝わり、五山の禅僧が草紙化(物語化)して日本に広まった」とのことで、おおかたパンフかなんかから抜いてるんだろうけど、つまりは中国の24人の孝行者のお話。有名なのは「孟宗竹」の孟宗さん。病気のお母さんが所望する筍を雪の中に取りに行って、お天道様に祈るとなぜか季節はずれにも筍が出てきて、それをお母さんに食べさせたら病気が治る、という話など。あれ?こんな話、西洋にもなかったっけ?
ついでに他のメモを見ると、歌舞伎の「三婆」=「菅原伝授手習鑑、道明寺の覚寿」「本朝廿四孝、三段目、越路」、「近江源氏先陣館、盛綱陣屋の微妙(みみょう)」。「三姫」=「本朝廿四孝、八重垣姫」、「祇園祭礼信仰記、金閣寺の雪姫」、「鎌倉三大記の時姫」と書いてあります。あれ、雲の絶間姫は三姫じゃなかったんだっけ?…なんて、いまさら。自分の記憶がうろ覚えすぎて泣けてくる…。
↑これは玉三郎さんだけど、私が観た時は時蔵さんだった。この頃、時蔵さんの女形はめちゃめちゃ奇麗で、どの演目観に行っても美女役は時蔵さんだった印象がある。
二月歌舞伎は「十種香」
で、来月の1部は本朝廿四孝から「十種香」らしいので、もう少し書いておこう。「十種香」とは、いろいろな種類の香りを混ぜたお香。これを「反魂香」つまり死者をよみがえらせるおまじないのように毎日くゆらせているのが、長尾謙信の娘・八重垣姫。許嫁の勝頼が切腹してしまい涙にくれて、その絵姿を見ながら魂がよみがえるようにと香を焚いている深窓の姫君。韓流の「記憶喪失」と同じくらいよく使われる歌舞伎の「身代わり殺人」で実は勝頼は死んでなくて、なんと八重垣姫の屋敷で花作り職人「蓑作」として働いている。蓑作の恋人だった腰元濡衣もいるのだが、八重垣姫は絵姿そっくりの蓑作を見て「勝頼様」とすがりつく。というのがこの段のあらすじ。
その後、いろいろあって(←)、父謙信に命を狙われる勝頼を助けるために諏訪湖にやってきた八重垣姫が、そもそも武田家と長尾家が不仲になった理由の諏訪法性の兜を手に取ると、諏訪明神の使いである狐が現れて、姫は狐火を全身にまといながら、愛する勝頼のために氷の張った湖を超えていく、という狐火の場も私は好きなのだが、これは今回やらないようね。
道行もある
十種香の前にある道行(本朝廿四孝はもとは浄瑠璃なので、道行があるのです)「道行似合の女夫丸(めおとがん)」は面白い場面だった。濡衣と蓑作のふりをした勝頼が、夫婦の薬売りに身をやつして甲斐から謙信の屋敷に向かう道行。ふたりは夫婦のふりをしているし、濡衣は死んだ恋人とうり二つの男と一緒に旅をしていて、いったいどんな設定だよ、って突っ込みたくなるよね。
「偽りの 文字を分くれば人のため 身のためならず恋ならず
心なけれど濡衣が亡き夫(つま)の名も勝頼に」
「伴う人も勝頼と言うて由ある蓑作が ちらし配りて薬売り」
「夫は冥土に我が身はここに 櫻花かや散り散りに
花かや桜 櫻花かや散り散りに ちりに交わる神心
伏し拝み行く台が原 道行く人も指ざして
あやかり者とあだ口に 浮名たつるもああ、恥ずかしや」
二月歌舞伎の濡衣は、私が観た時と同じ片岡孝太郎さんですね。愛之助さん同様、この時は初役だったのですが、今はきっと脂ものっていい濡衣が観られるんだろうなあ。楽しみですね!