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展示紹介―第1回松本家展オンラインアーカイブ

こんにちは。余田大輝と申します。
普段は東京で経済学部の4年生をしています。もう卒業の年度になるので、最近は大学生活を振り返る機会が増えてまいりました。いろいろなことを経験させてもらいましたが、葛尾村そして松本家とともに大学生活を送ったことは私にとって重要な出来事だったように思います。

葛尾村(カツラオ)は福島県双葉郡に位置する人口400名程度の農村です。福島第一原子力発電所事故により、全村避難となった村でもあります。2016年に避難指示が解除されましたが、2022年現在でも一部の帰還困難区域は未だ入ることすらできません。そのような村でほとんどの長期休暇と2年生の1年間を過ごしてきました。

竜子山(2018.10)

松本家は葛尾村の村外れにある一軒家です。ご家族は村外に移られており、震災以降は人が住んでいない家でもあります。ひょんなことからこの家に出会い、昨夏より家にまつわる展示をするようになりました。

松本家(2022.02)

「なぜそんなことをしているのか?」と問われると、未だに答えに窮してしまいます。「復興政策への態度表明」「人に住まれなくなった家の建築計画」など何とでも言うことはできるのですが、どれか1つの言葉で言い表せそうとすると途端に難しくなってしまいます。松本家展に至る経緯は以前に次の文章で簡単に書きました。ただ、これはあくまで私自身の話で、関わる人たちそれぞれ見てきてもの/見ているものは異なるように思います。

松本家にまつわる展示として最初に行われたのは、2021年8月23-25日に復興交流館あぜりあにて実施された「第1回松本家展 -現在地-」です。誰一人として展示というものをしたことがない中で、有志の大学生を中心に手探りで行われました。拙い部分はたくさんありましたが、自分たちにとっては多くの発見がある良い試みだったと思っています。そのような第1回松本家展の展示をオンラインアーカイブというかたちでWebサイトにて公開することになりました。下記URLよりアクセスすることができます。

どの順序で見ていただいても問題ない展示ですが、文脈が伝わりにくいものも多々あるため、ここからは各作品について私の視点から紹介していこうと思います。展示から半年以上が経ち、私自身も作品から少し距離ができたところであるため、振り返りも兼ねて紹介を書き進めていきます。あくまで、1人の制作者による個人的な紹介であり、制作者の数だけ異なる見方があることをご承知おきください。

はじめに

最初にご覧いただきたいのは、冊子「松本家通信2021年夏季号」に掲載された「はじめに」という文章です。松本家・松本家展の背景とともに、ヴァルター・ベンヤミン「物語作者」を引用しながら、展示の中心的なテーマである「語り部」という立場に関する解釈が示されています。「はじめに」を踏まえると、これ以降の6つの作品たちは語り部たちによる6形態の語りと捉えることができるでしょう。

写真作品

柴田(2021)

1つめの展示は「写真作品」です。すべての写真は2021年6月初旬に松本家に滞在した際に撮影されたものです。トークセッション第1部でも述べられているように、同じ日に同じ場所で撮影されている写真でも、3人の撮影者によって内容は全く異なっています。語りというと言葉が連想されがちですが、写真は言葉以上に雄弁な語りになりうるかもしれません。
※下記URLからアーカイブをご覧いただけます(スマホでご覧の方は画面を横向きにしてください)

松本家模型

筏(2021)

2つめの展示は「松本家模型」です。松本家とその周辺敷地を縮尺1/200の模型で表現したものになっています。現在地において松本家計画が始まったばかりであることを示すため、白模型として製作されました。製作時には全く意図していませんでしたが、2月に大雪が降ったときの松本家の風景は白模型そのものでした。

バーチャル松本家

余田(2021)

3つ目の展示は「バーチャル松本家」です。松本家をマインクラフトのバーチャル空間上に再現しました。コロナ禍の影響もあり、制作期間中はほとんど松本家へ訪れていないのにも関わらず、インターネット上ではずっと松本家を話題にしているような状況がありました。そのような空間を超えた場所の象徴として、このバーチャル松本家はあるように思います。

松本家滞在記録

松本家(2021)

4つ目の展示は「松本家滞在記録」です。松本家で育った松本隼也さんと大学生たちが敷地内を散策しながら、子供時代から今までを回想する映像が記録されています。案内していただいて、また映像を見返して、今は何も置かれていない空間に当時の記憶が立ち上がっていくような感覚がありました。

トークセッション

トークセッション第1部(2021)

5つめの展示は「トークセッション」です。冊子「松本家通信2021年夏季号」に寄稿した大学生8名が作品について解説する映像が記録されています。今になって見返すと、誰かが用意してくれたプログラムから自分たちの等身大のあり方を掴み直す過渡期の意識が表れているように思います。

寄稿文

松本家通信2021年夏季号

6つめの展示は「寄稿文」です。冊子「松本家通信2021年夏季号」として発行されたものをWebサイト上に掲載しました。示し合わせたわけでもなく「自分がここにいる理由」をほとんどの人たちが話題にしているところに、当時の自分たちの葛藤が表れているように思います。

おわりに

以上、第1回松本家展に展示された6作品でした。ここまでご覧いただきありがとうございます。

松本家展、あるいは松本家を物語ることはこの先も続いていく。松本家も、私たちも、その関係も変化しながら、物語は続いていく。物語られる松本家はきっと過去にも未来にも広がっていくだろう。私たちが松本家を訪れるようになる以前の歴史が物語られるかもしれない。松本家一家の人々や私たちが思い描く松本家の未来が物語られるかもしれない。第一回松本家展で、私たちは松本家の現在地を描き出す。それは時間を越えて広がっていくであろう松本家の物語のはじまりだ。

「はじめに」『本家通信2021年夏季号』

展示冊子に記したように、松本家展の取り組みはこの先も続いていきます。今年の9月23-25日には、第2回松本家展として松本家の歴史を探るような展示を企画しています。今夏の展示もご覧いただき、あるいは参加いただき、ともに語りを紡いでいただけると幸いです。

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