見出し画像

杉本裕太郎 『パワーに頼らないパワーヒッター』【福宗正杉・合同note企画vol.4】

※本noteは、以前に某企画で有料投稿した記事を、シーズン終了後の情報と合わせアップデートした改訂版です。

(✿✪‿✪。)ノコンチャ♡

ARAと申します。

しがない野球ファンをやっております。

今回は、今シーズン、オリックスのリーグ優勝の原動力となった上位打線の福田周平/宗佑磨/吉田正尚/杉本裕太郎を振り返る福宗正杉合同企画noteにて、僭越ながら大トリとなる杉本裕太郎を担当させていただきます。

私が担当する杉本選手は、大学から現地で観続けた思い入れのある選手で、そんな私だからこそ気づいた、彼の変貌具合をメカニックの観点からまとめてみました。

前回までのお三方を比べるとオリックスファンとしての熱は低いかもしれませんが、中立な立場の読み物として、オフシーズンの暇つぶしにでもなれば幸いです。

前回までの記事は↓

それではここから、杉本裕太郎が躍進した理由について、動作の観点からその理屈を探っていきたいと思います。(語尾が急変します)

スイングスピード

突然だが皆様は、バットを振る時にどのタイミングで力を入れているだろうか。恐らく振り出す時に100%の力を出すか、ボールに当てる瞬間に100%を込めるか、意識としてはこの二種類に大別されると推測する。

一方で、スイングスピードを巡るいくつかの研究では概ね次のような結果が出ている。

バットヘッドの加速度はインパクト直前 (80-85%) に最大となるのが理想

つまり、どんなに理想的なフィジカルや理に適ったメカニックを手に入れようとも、上記の二種いずれかを意識していたら、その理想的なスイングスピードを得る確率が下がってしまうという事だ。

適切なスピードを確保できないという事は打球速度に悪影響を与え、飛距離の低下すなわち長打が減る事に繋がってしまい、極めて勿体無い。

---引用始まり
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fss/34/0/34_49/_pdf/-char/ja
4) インパクト加速度 バットヘッドの加速度は,バットが動き始めた (1m/s) 時 (0%time) からボールインパクト (100%time) までの間の 85%time 時に最大 (292.3 ± 53.5 m/s2) となり,インパクト直前では 0 に近似する[7].そのため,インパクト加速度が正の値となる場合は,適切なインパクト位置より手前で捉えており,ヘッドスピードがインパクト直前に最大値に到達していないと判定できる.一方,負の値を取得した場合は,ヘッドスピードが減速してからボールと 衝突していると判定できる.これにより,インパクト加速度が 0 m/s2 であることが理想になるといえよう
---引用終わり

そして、今回取り上げる杉本裕太郎、彼が今年躍進した理由はこの点にあると考えている。

以下に昨年とのスイングの比較、打球速度、打率、選球が共存する理由、打撃が変更となった旨の根拠等を列挙していく。

昨年までと今年の違い

まずは実際の映像を引用する。

横からのアングルや力感が伝わりやすい映像をチョイスしたので、是非以下のポイントを意識しながらご覧頂きたい。

■力の入るタイミング
■振り終わった後の形

・昨年まで (-2020)
2019年までのホームラン集

2020年初期のタイムリー(パ・リーグTV会員向け)

コメント
昨年までの打撃は以下のようにまとめられる。
■力の入るタイミング
限りなくインパクトと同時を意識している
■振り終わった後の形
一定でなくバラバラ、またふらつく事も多い

・今年 (2021)
西武戦でのホームラン

日本ハム戦でのホームラン『泳いでもスタンドイン』

充実の打撃 まとめ

コメント
今年の打撃は以下のようにまとめられる。
■力の入るタイミング
明確に力むポイントが見えにくく脱力したかのようにスムーズ
■振り終わった後の形
右膝が地面につきそうになる、バットを斜め上に掲げたままなど、打球方向に関わらず類似している

このような特徴を得た理由について、以下のように説明できると考えた。

・昨年までは、ボールに当てる瞬間に100%の力を持ってこようと意識していた。それ故、打球結果にムラがあり、打ち終わりの形もバラバラだった。

・今年はいわゆる『手を先に、速く出し、腕が伸びきったら手を止める意識』。手を止めたタイミングでテコの原理を発生させ、ヘッドの加速度を最大化させる事により、インパクトの瞬間に力みが生まれず、打ち終わりの形に類似性が生まれる、またその身体的余裕がある。

画像1

特に”手を止める意識(以下「手を止める打法」)”というのは頭に無かった読者も多いだろう。必要に応じて動画を見返して頂きたい。

何故今年の打撃がスムーズに見えるか、上記の特徴がその答えを捉えているからだ。

またこの打法にはメリットも多い。以下に結果の種類別に解説する。

打球速度、打率、選球が共存する理由


■打球速度
これについては前述の通りである。力のある者が思い切り振ったバットを停止させたらどうなるか。

バットはテコの原理で引き続き強い力を帯びつつボールにぶつかる事だろう。

当然打球速度は高まり、飛距離を得て長打に繋がる寸法だ。

打率
この打法のキモは「実際のミートポイントは、身体が力を入れるポイントより遅れてくる」点にある。

当然だ。手を止めた後でバットにボールを当てるわけだから。

こう書くとバットコントロールが難しいように感じるかもしれない。では、杉本はどのようにして打撃の確率を上げているのか。

ポイントは二つあると考える。

① オープンスタンスの構え
始動する直前まで投手の動きを見て、投球軌道を予測する為の構えと考えられる。

画像2

② 身体に近いミートポイント
これは「手を止める打法」の副産物でもある。

当然だが前でボールを裁こうとすれば、その分判断材料は減るが、そのコンマ何秒の話だけではなく、打撃における身体の軸にも繋がる。

杉本のような立派な体格 (190cm/104kg) の打者が、常に前で打つ事を意識してしまったら、比重が常に投手側となり速球に対処しにくくなる。

つまり、適切なスイングスピードを手に入れようとした結果、ミートポイントが身体に近くなり、ボールを観る時間も微増し、体軸の安定するメカニックを獲得した。と推測できる。

選球
端的に言うとこの打法では、スイングキャンセルが比較的容易と言える。

理由は以下の通り。

・一定のスイングスピードがある=始動を遅めてもコンタクトできる
・体軸が中心で安定している=投手側に突っ込まない
・ミートポイントが近い=ギリギリまでボールを見られる

このような利点を活かし、多種多様なボールを打ちに行きつつも、狙い球ではない場合はスイングをキャンセルする動きが今年は増えた。

当然ながらハーフスイングを取られるリスクもあり出塁に結びつかない事もあるが、振るべき球を見極めた結果、ハードヒットが増えるという寸法だ。

■参考(英語)
スイングキャンセルのキモともいえる、前に突っ込まない身体の使い方を説明している動画を載せておく。

体格は異なるが、杉本の打撃姿勢と近いものを感じて頂けるだろう。

打撃変更の根拠

今年からこの「手を止める打法」になったと推測した理由はいくつかある。

きっかけは彼の打球速度。

今年のオールスターゲームで放ったホームランは打球速度驚異の171km/hと紹介された。実際これは速い方で間違いないのだが、私は明確に「遅い」と感じた。

理由は二つある。


杉本裕太郎 (190cm/104kg) よりやや身体的に劣る、阪神タイガースの佐藤輝明 (187cm/94kg) は打球速度173km/hを計測した事もある。ただ彼は、その打球を「詰まった」と表現してみせた。

つまり、杉本があれだけの会心の当たりを飛ばした場合、打球速度は少なくとも173km/hと同等、本来は超えてもおかしくない。


杉本クラスの体格がゴロゴロいるメジャーリーグのホームランでは180キロを記録する事も珍しくない。

例えば打球速度Top10ともなると190キロに迫っている。

もちろんこの試合が偶然遅かった可能性もあるが、この理由や、今年の杉本の打撃の力感を考えると、”打球速度を出せるけど出さないのではと考えてみた。

どういう事か?

要は「手を止める打法」は意識として手を止める、つまりは減速する意識を持って振りにいくわけで、見た目の印象通り迫力があるわけではない。

また、手を止めた後はある意味バットの軌道は決まっているわけで、コントロールも難しい。

そうなると必然的に100%ではなくあえて70-80%の力で振り、その近いミートポイントを活用して、ギリギリまで軌道を修正しようとする。

これが可能な打撃を目指し「手を止める打法」に辿り着いたのではないか、と推測した。

そして、この事の真相を調べたところ、以下の記事にたどり着いた。

「ラオウ」杉本を覚醒させた、“イチロー・ジョーンズ・浅村の教え”

ボリュームの関係上すべては抜粋しないが、要約すると以下のような内容だ。

・前に突っ込まない意識
・八割の意識
・軽く振っても飛ぶコツを得た
・バットを軽量化して操作性をあげた

「手を止める打法」とはどこにも書いていないのだが、動画から窺い知れる彼の今年の特長のほどが断片的に言語化されていた。

軽量化したバットで軽く振った事実は打率向上の理由を思わせるし、その条件で171km/hの打球速度を出したと考えると、やはり操作性を考えて力感を落とした上で、より高い打球速度を得たと考えるのが良さそうだ。

まとめ

彼のルックスやラオウというあだ名、また一時期のホームランか三振かの打撃スタイルから、ついパワーに頼りがちなイメージを抱いてしまう。

今年の活躍もマグレではないか。そう考える方もいるだろう。

ただ今年の彼は、その恵まれた体格に甘んじることなく、変化を恐れず挑戦し続け、長い時間をかけて理に適った打法を手に入れ、リーグ有数の成績を収めた。

「手を止める打法」によって、パワーに頼らないパワーヒッターとなりつつある彼の、変化のほどを推測する一助になれば幸いである。

また、末筆となるが、「手を止める打法」というのは、私のオリジナルでは決してない。

多少の表現の幅はあれど、様々なところで現存する事を付け加えておきたい。

参考までに、元プロ野球選手の松永浩美さんの打撃指導動画を貼らせていただくので、興味があればご覧頂きたい。


いいなと思ったら応援しよう!